ある桜の木の下で
「君のこの世界で望むものは何?」
薄紅色の桜が舞い散る景色の中、少し前を歩いていた少女は、俺に振り返りながら言った。
新しい通学路となる桜並木の道を、二人で歩いているときのことだった。
透き通るように白い肌、一切のかげりが無い笑み。体つきは高校生を疑うほどの華奢で、ミニスカートが際どい場所でなびいている。
その可愛らしい容姿がふと目に入れば、恋を予感させることもあるだろう。
彼女の名前は、暁ましろ(あかつき・ましろ)。
容姿に似合う可愛らしい名前だ。見た目だけは正真正銘の美少女だ。見た目だけは。
「平和な日常が欲しいな」
俺の心の底からの声だった。暁は少しだけ苦笑しながら「君らしいね。」と頷いていた。
「そんなんじゃ高校生活に色が無いよ?もっと死ぬくらいの気持ちで楽しまないと!」
「………俺、死なないんだけど……」
「あ、そっか。君は…不死身なんだっけ?」
いつからだろう。そう、気がつくと俺は不死の体となっていた。その事実が知られた世界では、ほぼ確実に、俺の心を病ませていった。
来る日も来る日も、幾千の不死実験だけが俺の体を切り刻み、そして例外なく、恐怖ゆえに俺を捨てていった。
「……だから俺はここにいるんだろうな。」
俺は入学式を終えた自分の新しい学園に振り返る。桜の風が横を駆け抜けた。
「ま、君の意思に関係なく、私に協力してもらうけどね!」
暁の腰まで伸びた紅髪から、心地よい香りが届いた。
………俺が逃れる選択肢は無い。何故ならあの実験地獄からこの学園へと導いてくれたのは彼女なのだから。
「ったく…………感謝はしてもしきれないけど…別にどこまでも着いていくとは」
そこまで言うと、暁は急に体をくねくねとよじらせていた。
「べ、別に…男のツンデレは誰も得しないんだからね!」
「何でお前がツンデレ風なんだ!?」
「ちなみに私のタイプの美少女は、猫耳金髪碧眼ツンデレツインテールガーターベルトロリメイドがジャストポイントね。」
「誰も聞いてねぇし!そんなピンポイント過ぎる奴は二次元でもなかなかいねぇよ!」
「何でいないのよ!!」
「何で俺怒られてんの!?」
…ジャイアン以上に理不尽だ………思わず溜め息が習慣になりそうだな。
「さて…話を戻すわ…私は君に協力してもらいたいこと……それは……」
彼女は一旦そこで言葉を区切り、可愛らしかった笑みを、ゆっくりと獰猛で不敵な笑いへと歪める。
……何だってこんなに楽しそうなんだ……お前の目的が
「…それは……私と一緒に…最強どもの…いえ……学園の頂点に立つ事よ!!」
真の最強だからか?それとも
「私は最強の《破壊者》として!この学園の頂点に立つ!」
それが《破壊者》の意義だから?
俺には全く理解できない。
「…お前……本気で言ってんのか?あの学園は古今東西異世界問わず、あらゆる最強だけが集められた天翔学園だぞ…」
……説得は逆効果だったらしい。彼女の顔には可愛らしさは完全に消え、戦慄が走るほどの不敵な笑みが強まった。
「ふふっ…それでこそ……壊しがいがあるってものよ!…………これからよろしくね……最強の…《不死身》君……いえ……渚ユキノ(なぎさ・ゆきの)君…」
……俺の日常は、…どうやら……とんでもなく波乱万丈で、修羅場をいくつも通らなければいけなくて………気を泥淵に沈めている時間もなさそうだ。