暁、お前に妥協を教えてやろうと思ったが、諦めた…
【四天王】とは、この学園に10人にのみ、与えられた称号保持者のことである。(何故、4人ではないのか…)
その称号には様々な特権が与えられているらしく、俺達が(正式には暁が)手に入れる予定のものである。
その称号を手に入れる方法は単純明快、決闘で【四天王】を倒せばいい。倒した場合、称号はその【四天王】を倒したものに直接移る。(暁はどちらかというと、特権には興味が無く、【四天王】を倒したいだけ)
だが、そもそも【四天王】の称号を持っている時点で、この最強が集まる学園の猛者という訳で、むやみに決闘などすれば返り討ちにな…
「よぉーし!!じゃあ早速、そいつを倒しに行くわよ!!」
「聞いてた!?俺の話聞いてた!?」
「え?ユキノなんか言ってた?」
「いや口に出しては言って無いけど!?…察しろよ!!」
いつもは心まで読むくせに!
「…もぅ…ユキノの言いたいことぐらい分かるわよ…」
暁は少し拗ねる様に俺を睨む。……え、ちょっとドキッとした…
「そうか…まぁさすがに暁でも、【四天王】に挑む時くらい慎重にや…」
「ルシフェルって名前、カッコイイってことでしょ?」
「確かにカッコイイけど今はそこじゃねぇよ!!」
駄目だ…いつもの暁だ…
「あのな…そのルシフェルってやつ、めちゃくちゃ強いんだろ?」
俺は確認をとるように横を見る。視線に気づいた神崎は静かに、だが確実にうなずく。
「正直、どこのクラスかも分かりません。廊下でたまたま勝負を仕掛けた相手でしたので。」
暁は「うぅーん…」と腕を組みながら唸る。
「そうね…不本意だけど…さすがに情報収集が必要ね…」
※
翌日、俺達は昼休みから情報収集のために再び集合した。4人で向かった場所が…
ドォーンッ!!
「せんぱぁーい!失礼しまぁーす!」
「…てめぇはドアをぶっ壊さねぇと入ってこれねぇのかぁ!!?」
ローブを怒らせながら影野先輩が叫ぶ。……ホントすいませんマジで。どうやら破壊者は教室に入る時はドアを普通に開けられないようです。
ここは記憶にはまだ新しい。というのも。俺達が前回の新入生イベントの時に押しかけた教室、2年6組である。二度も迷惑を掛けてしまうとは…(特に暁とか暁とか)
「……あなた…私達に負けたの…怒ってる?…悔しい?…今どんな気持ち?」
ソフィさん!あんた何言ってんの!?何故傷口をタバスコで抉っているのですか!?ほら!眉間に皺寄ってますけど!?話聞ける状況じゃ無くなっちゃうだろ!
暫くの沈黙の後、先輩は観念するように軽く舌打ちをする。
「…今更言い訳したところで勝利の結果が変わる訳でも無いが……お前らの力量を見誤って油断したのは悔しいと思っているさ。だが、…次は負けねぇよ?」
暁は不敵な笑みで「楽しみにしてます。」と満足そうに頷いた。
「それで先輩、聞きたいことがあるんですけど。」
「あぁ、別に構わないが…その腕に引っ付いているのは何だ?」
影野先輩が怪訝そうに暁の腕に絡み付いているソレを見る。暁はげんなりとした様子でため息をつく。
「あぁ…これですか…これは…」
「暁ましろの妻、神崎愛佳です!」
「何で結婚してんのよ!?だいたいそれじゃあ私が夫ってことよね!?」
「この世には『ケッコンカッコカリ』というシステムがあるので大丈夫です!」
「何が大丈夫なの!?そして私はあなたの艦娘じゃないわ!」
何かこう…暁はボケのイメージが強すぎてツッコミが新鮮だな………ってあれ?だんだん俺のポジション無くなってね?
「……まぁいい。…で何が聞きたいんだ?」
「【四天王】のルシフェルって知ってますか?」
その名前を口にした途端、ざわっと周囲が驚愕と動揺でどよめき、クラスにいた先輩全員がこちらを凝視する。
「お、お前…その名前…どこで聞いた?」
「え?あぁ、愛佳達が闘ったんですよ。知ってるんですね!」
「…………」
暁が爛々と輝く瞳とは対照的に、影野先輩は少し躊躇う様に目を伏せる。
やがて、哀れむような目で肩を落としながら影野先輩は口を開く。
「…お前は、あいつと闘う気なのか…」
「モチのロンのツモです!」
「なんか麻雀混ざってますけど!?」
思わずツッコむと、暁はこちらに楽しそうな笑みを浮かべる。
「ユキノ、私は咲では、天江衣ちゃん派なのだけど!」
「俺もだよ!!強い上にロリ可愛いはかなりの高評k…いや話反れてんじゃねぇか!」
「てめぇら真面目にやる気あんのかぁ!」
影野先輩の恫喝で暁は下をペロッと出して可愛らしく謝る。ぐぉ…何だ、この俺の心に宿るものは……顔と胸が熱いぜ!!
「まぁいい……あいつの情報を聞きたいなら、俺より適任者がいる。」
そういって影野先輩は後ろに振り向いてその名を呼ぶ。
「情報だとよ、雷電。」
は?雷、電…だと!?…
その呼びかけに、暗い服で縁なし眼鏡をかけた男が立体映像を閉じ、こちらに歩み寄ってきた。
暁は子供のようにハイハイッ!と手を上げて飛び跳ねまくる。
「あ、あの!!雷電先輩…早速で悪いのですが、これから呼び捨てでいいですか!?」
あ、お前のやりたいことが分かったぞ暁。
雷電先輩は不思議そうに首を傾げる。
「…?別にいいが、その分、俺の知らない情報を貰おうか。」
「………渚ユキノは…ロリコン…」
「おい!!いきなり横から何言ってんのソフィ!?」
ヤバイ!!これでは俺が、ロリコンキャラとして定着してしまう!!!
「ちなみに、暁ましろは、神崎愛佳と結婚予定です。」
「アンタも何言ってんのよ!?予定ないです!無いですから!」
………暁も暁なりに苦労しているようだ……
「うむ、了解した。渚ユキノはロリコンで、暁ましろは神崎愛佳と結婚予定っと。」
「「信じるなよ!」」
俺と暁のツッコミは果たしてこの情報屋にどう届いたかは定かではない。
暁は一回ため息をついた後、瞬時に無邪気な笑顔に切り替えて質問に入る。お前の精神は自動ザオリクかよ。
「じゃあルシフェルについて教えて!」
「…ほぉ…ルシフェルか…」
「知っているのか、雷電!」
うん、予想通りでした。
「もちろん知っている。
堕天使ルシフェル 3年1組所属。
【四天王】称号【アレス】保持者。
【四天王】の中でもトップクラスの実力者で、あいつの本気に渡り合える相手は、同じ【四天王】称号保持者である、魔王サタンだけだと言われている。」
え……【四天王】っていう10人しかいない化け物級の実力者の中でも…トップクラス?……ははっ……笑えないぜ。
さすがに、俺達も諦めた方が…
「おぉ!!ますます勝負したくなってきたわね!」
「……魔法使いに…敗北は…無い…」
「私はましろが行くならどこへでも行きます!」
……うん。いつもの反応でした。
俺はどうするか…決まっている。暁が行くなら俺に拒否権も異論も許されない。
雷電はそんな反応を見て、眼鏡を指で押し上げてニヤリと笑って続ける。
「称号【アレス】の特権は一つだけなら判明している。
『この称号を持つ者は、教員の許可及び対戦相手の承諾なしで、能力決闘を開始できる。尚、ゲーム内容は、ゲーム開始後5分以内に、相互が対等だと判断したものに決める。』
という内容だ。まだ、【アレス】の特権はあるかもしれないがな。」
なるほど……一方的に決闘を挑めるのか。確かにこれが手に入れば、今後の戦いに一気に有利になるとは思うが………持ってるのが、学園最強クラスかよ……
「分かったわ!先輩方今日は失礼しました!じゃあ行って来ます!!行くわよ!3年1組よね?」
暁は、俺の手を取って走り出しながら確認する。
ソフィは呪文を唱えると、胸ポケットの生徒手帳がふわふわと浮き上がり、空中に地図を浮かばせる。
神崎は、暁に引き剥がされたことを不服そうな顔で走る。
俺は、ただ暁の手をぎゅっと握り返す。
※ ※
3年1組の教室の窓に腰掛け、心底楽しそうに空を仰ぐ。今日は雲ひとつない快晴である。
大切な人が言っていた。今でも記憶を脳裏から鮮明に蘇らせる事ができる。
『……私の分も楽しいことを、見つけて。』…と。
俺はルシフェルとして…ここで楽しいことを見つけるよ、ひなた…。
「全く……そろそろかねぇ…」
太陽に手をかざすと、すぐにでも届きそうな気がした。




