天上天下唯我独尊王に私はなる!
今日は一年生はホームルームの代わりに、表彰式が開催される予定となっている。ただ、前回入学式で使用した東京ドームよりデカイ体育館は使用せず、別の体育館が使われるようだ。それでも普通の学校のソレよりはかなり大きいが。
「わーい!!表彰よぉ!!テンション上がってきたぁあ!!」
今回表彰されるのは他でも無い。俺こと渚ユキノ、暁ましろ、ソフィ・シュルベルトの三名である。
「昨日楽しみすぎてほとんど寝てないのよ!!」
そりゃあんなに夕方から寝てりゃあ寝れないわな。
…表彰理由は、親交を深めるための試合で、もっとも多く先輩を倒したことによる功績を称えるとかなんとか。
「何か賞品とかあるのかしら!!出来れば凄いのがいいなぁ!」
…あの…暁、少し黙れないのか?さっきからお前が一方的に話して俺が解説なんだが。
「……あ、始まる…」
ソフィの言ったとおり、誰かが壇上の上にやって来た。あ、入学式で壁直してくれた確か…菊原創輔先生だ。
ざわついていた生徒が静かになると、菊原先生は笑顔でお辞儀をした。
「これより、表彰式を始めます。では学園長、よろしくお願いします。」
菊原先生が壇上を降りると、照明が壇上の中心に集まる。そこに穴のようなものが出現し、そこから誰かが仁王立ちしながらせり上がって来た。フリルをあしらった妖精のようなピンクの服に、ピンクのツインテール、幼い容姿…間違いなくラティア学園長である。
「ハァ~ハッハッハッハっハッ!!!よくぞ来た一年生よ!!」
魔王のような高笑いが周囲の空間を支配する。…この人はまともに登場できないのかな。…そもそもこの人にまともなんて通用しないや。
「今回は君達新入生と、先輩の交友を深める為に実施したイベントで凄いことをした人を表彰するよ!今日表彰する人数は6人なんだからね!!」
ウィンクしながら舌を出して謎のアピールをする学園長は放置。
つか…あれ?…6人?…確かこのイベントは3人で行うはずだったから、あと一チームいるってことか?
「まずは!先輩をもっとも多く倒した3人!暁ましろちゃん!渚ユキノ君!ソフィ・シュルベルトちゃん!はい!壇上に上がってねぇ~!」
促されるまま、俺達三人は壇上に上がる。ちなみに左から俺、暁、ソフィの順で学園長の前に立っている。……どうでもいいが、君つけは止めてほしい。
学園長もかなり幼い容姿なので、暁、ソフィと並ぶと、ただの小学生達である。
学園長は一人一人に賞状が手渡すと、その後がメインのように目の輝きを変えた。
「今回はすっごい景品を用意したよぉ!ましろちゃん期待していいからね!」
「はい!」
「では………はい!これ!」
学園長は懐から煌びやかなカードのようなものを暁へと手渡した。
「…………え?…学園長…何ですか?これ…」
暁の手元を覗くと、そのカードには平仮名で可愛らしく『だとう!してんのう』と書かれていた。
「いいかい?ボクの説明をよく聞いてね?っと……その前に…『今からのカードの説明は、ボク達の会話は皆には聞こえない』から、情報が漏れることはないよ!」
背後で生徒達が少しざわつく。「…おい、何か急に学園長の声が聞こえなくなったぞ?」 「…マイクの故障?」 「…うわー…全く聞こえねぇー…」
どうやら本当に遮断されているらしい。凄すぎ…
学園長は「いいかい?」と満足げに続ける。
「このカードを所持しているものは、一日1回!【四天王】の称号の効果を無効化できるんだよ!」
「え?……どういう訳ですか?」
「……私…よく分からない…」
効果を理解出来ていない暁とソフィは、同時に首をかしげる。まぁ俺も分かっていないのだが。
「よし!説明しよう!例えば……【四天王】の称号効果の一つに、『決闘条件を自分で決められる』っていう効果をもつものがあるとしよう。その称号は決闘の時、勝利条件や敗北条件を相手の同意なしで決められるんだ。
普通はそんな相手には、決闘を諦めると思うけど……このカードで効果を無効化すれば!条件やルールを通常の決闘通り、互いの同意のもとでしか創れないようになるんだ!」
すげぇ……どっちかっていうとそんな称号創ったアンタのほうが凄いけど。
「…すご…凄すぎ!!マジですか!!!?学園長大好き!」
暁は思わず学園長に飛びつき、学園長も楽しそうにじゃれている。お前ら小学生か。
「カード登録者、つまり君達、暁ましろ、ソフィ・シュルベルト、渚ユキノ以外は使えないからね。あとから君達の意思で使用者を増やすこともできるよ。」
なるほど、今後仲間が増えれても問題ないってわけか。
「あ、でも別に【四天王】の称号を無効化できるだけで、先生の許可がないと勝負できないし、相手の承諾無いと決闘は始められないのは、通常の決闘と同じだからね。」
ようは、せっかく効果消しても決闘断れりゃ駄目ってわけか……でも、それを差し引いても、かなり使えるのには変わりない。そして一番強い点が、この事実を俺達以外知らないという点だ。
「……まさに…私達におあつらえ向きという訳ですか。」
「そゆこと!!じゃあ…大事に取っておいてね!」
「はい!大事にします!!…ユキノが!」
俺かよ!!
暁はカードを平然とこちらに渡してくる。……ったく………絶対なくせないじゃねぇか。
「では!!生徒の皆!この三人に大きな拍手を!」
俺達に大きな拍手が咲き誇る。どうやらもう説明は終わったので声が届くらしい。
気持ちの高揚が収まっていない暁は、両手をふりながら、可愛らしい笑顔を世界に振りまいていた。
壇上を降りた俺達は、自分のクラスの列に戻る。担任の倉野先生も満足そうに微笑んでいる。
「さぁ!いよいよ最後のチームの表彰だよ!いやーボクも驚いたよ!何と!このチームは倒した先輩は一人だったんだけどねー、何と!その人は元【四天王】!しかもタイムはわずか5秒!ノーダメージの完全試合をやってのけたんだ!」
会場内に大きなどよめきが走る。そりゃそうだ。先輩を倒せたこと自体凄いのに…相手が【四天王】なのに無傷で5秒…マジでパーフェクトゲームだったわけか……どうやらかなりの実力者のようだ。
「では!ご登場してもらうよ!…神崎愛佳ちゃん! 極夜竜介君! ロカ=ラプラスちゃん! 壇上へどうぞー!!」
……余談だが、このちゃん付けや君付けで、男か女か分かる点だけは助かる。
ステージに足を進める人物は上が白、下が白色の袴を着こなした巫女さんのような少女で、深い黒色の髪を煌かせながら悠然と歩く。
その後ろを、黒い眼帯をつけた少女が、申し訳なさそうに体をちぢこめて歩く。
その二人の後ろから若干離れた位置に、眠そうな瞳で付いて来る青髪蒼眼少年は猫背のまま前へと進んでいる。
どうやらこの三人が、壇上に上がるチームのようだ。
「…ねぇ愛佳ちゃん、本当にロカたちも表彰うけちゃっていいのぉ?ロカと竜介何もして無いよぉ?」
たぶん自分の一人称が名前のロカは、神崎という少女の袖をくいくいと引っ張りながら周囲をキョロキョロ見渡している。
それに対する神崎は、口元を袖で覆いながら笑う。
「ロカさん、私は何も問題ないと思いますよ。何より……皆が妾達に注目しているのです。これを機に学園の有名人に…にゅふふ…そうしたらまずサインを書く練習と、変装用のアイテムを買わなければ…あと…それから…」
いや、はえーよ。妄想アクセラレートし過ぎだ。
その言葉に、ふと後ろを歩いていた竜介と紹介されていた少年はハッと目を見開く。
「はぁ…おなかすいた。今何時?」
空気読めや。
無事?に壇上に上がった三人は、学園長からねぎらいの言葉を受け取ると、俺達と同じく何かアイテムのようなものを手渡されていた。
賞品名やその時の会話は、例の学園長の力によって全く聞こえなかったが、壇上に上がっている三人の反応からすると……やはり凄いものだったようだ。
「………以上!!では生徒の皆!この三名に盛大な拍手を!!」
俺達の時と同様、大きな拍手が会場の空気を大きく震わせる。
三人は、熱のこもった拍手を浴びながら、ゆっくりと壇上を降り…
「皆さん!……少し、待ってくださる?」
…る前に神崎愛佳がすっと手を上げ、大きな声でその場の空気を沈めた。……あー嫌な予感しかしねぇ…
学園長に関しては、まるでこの状況になることを分かっていたように微笑みしながら傍観に徹している。アンタ止めろや。
「正直、私は今回の表彰で称えられるのが私達だけだと思っていました!私の計画ではここから有名人となり、リア充となる予定でした!……ですが、どうやら計画を邪魔しようとする輩がいるようですね…」
神崎はチラッとこちらを横目で見る。…あー…そんな気がしたわ。
だが、その前に竜介がゆっくりと手を上げる。
その眠そうな瞳からは心意を探ることができな…
「……おなかすいた…」
うん、だから?空気読もうか……
構わず神崎は言葉を紡ぐ。
「…火の粉は払ってからでないと、私は進みません。……この意味が分かりますね?…」
背後の暁の気配が変わった。俺の背筋が一瞬で凍る、残虐な空気が、空間を侵食した。
「…へぇ……面白い…最高に……最高に面白いわよ!元【四天王】を倒したその実力、たっぷり見せてもらうわよ!」
「うわぁ、ボスっぽいセリフだなオイ!」
だがこの言葉で確信した。破壊者は、標的を本気で捉えたことを。
次の相手は、最強を5秒で倒した少女、神崎愛佳。
「分かって頂けたようで……あ、私は一人で十分ですので。…ロカ、竜介。」
神崎は二人に目配せすると、ロカは少し迷いながら来た道を戻った。おそらく自分のクラスの列に戻ったのだろう。竜介に関しては
「……暁ましろ……興味ある……」
といって少し後ろに下がっただけだった。
「……ユキノ…ソフィ…ここは私一人でやらせて!!」
暁と神崎の間で、一層緊迫した繋がりが奔り、同時にハッと気づく。
「「先生の許可なきゃ決戦できない」」
アホだ。
「あ、じゃあボクが許可出すよ?」
「アンタは止めろ!」
学園長は当然といった感じで決闘の準備を整えてしまった。学園長って何考えているかさっぱり分からな……いやたぶん楽しいからっていう理由からだろう。
暁は絶対的で不敵な笑みを神崎に向けながら、指を鳴らす。
「んで?…決闘ルールはどうするの?」
「そうですね……相手を戦闘不能、またはゲームから除外した場合を勝利とする。…でいいでしょうか?」
「それでいいわ!ふふっ…私はあなたが壊せればそれでいい!」
暁さん、ちょっと悪者みたいです…
神崎は何か思いついたように手をポンッと打つ。
「あ、…それでは……こういうのはどうでしょう?……この決闘に負けた者は、勝者の命令を何でも一つ聞く……というのは…」
え…そんなこと出来んの?
「うん、ボクの創った能力決闘っていうのは…その生徒手帳にも書いてあるとおり、 『能力決闘のルールや、勝利条件・敗北条件は対戦生徒同士で決めます。』 ようはルールは双方の承諾あれば、何でもありなんだよ!ユキノ君!」
学園長…勝手に脳内の疑問を解決しないでください。まぁ分かりやすいけど。
「つまり、ユキノ君や他の生徒に現在の決闘内容を分かりやすく纏めてあげるとね…
【 勝利条件 対戦相手を、戦闘不能状態または、ゲームから除外状態にすること。
敗北条件 勝利条件を満たせなくなる。
戦闘不能になる。
ゲームから除外される。
降参する。
この決闘に敗北したものは、対戦相手である勝者の命令を何でも一つ実行しなければならない。 】
…っていう感じかな。……………………あ、今度からこうやって決闘内容書いたほうが分かりやすいな…」
後半の学園長の囁きはよく聞こえなかったが、一つ言えるのが
「へぇ……ふふっ…あなた…随分と面白いことするじゃない!!いいわ!その条件で始めましょう!!」
暁が更に盛り上がったということ。
「分かりました。私の計画の邪魔はさせません。」
神崎はあくまで冷静な微笑で小さく頷く。
最強の両者は同時に腕を高く上げ、決闘の合図をする。
………はぁ…これだけは言っとくか…
「神崎さん、暁に伝えたいことがあるので少しだけいいですか?」
「ええ、どうぞ。」
神崎は余った手でどうぞ、と促す。
「なぁ暁…」
「うん?どしたのユキノ?」
「…えーと…その…お、俺は、…お前を信じてっから……」
一瞬きょとんとした顔だった暁は、すぐさま大きく頷いて微笑む。
もう、これ以上の言葉なんて必要ない。
「「アビリティ・リリース!決闘開始」」
暁ましろ、神崎愛佳、両者は眩い光に包まれ、この場から消滅する。
熾烈を極めるだろう最強の新入生同士の決闘が今、幕を開いた。




