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5/6

朝ごはんと、洗濯。

 *5


 早朝、僕らの家には新聞が届く。

 ネット社会と呼ばれるようにはなったけど、書籍ではいまだに〝紙の本〟が出ているように、情報媒体としての紙はまだまだ強い。それに加えて、

「えっと……」

 はらり、と新聞を一枚めくる音。フィノが右手に嵌めた指輪を新聞にかざすと、


【RE;CODED_LANGUAGE_ON】

 

 新聞に印字された〝文字が置き変わる〟。

 縦書きも、その一面だけが横書きに変わり、彼女は「そっかなるほど」と頷いてから、文字を元通りにした。他にも見出しとして映された国会議事堂の写真の下には【再生】という〝文字〟があり、ここでマナを込めた「アイテム」でなぞると、写真は〝映像〟に早変わる。

『――首相は一体、この問題をどのようにお考えなのですか!?』

 初老の男性が、鋭い声で詰問をはじめる。

 とまぁ、こんな感じに。

 僕らの技術とエルフの魔法が組み合わさることで。身近にある〝それ以上はもう変化しない〟と思われていた物たちが、ささやかな『新生』をはじめていたのだった。

 もちろん、最先端のツール、ネット文明にも、エルフの魔法を生かした機能がいろいろと実装されている。

「ふゃー、おはようなのぢゃ……」

「おはよう、ミィル」

「おはよう」

「おねいちゃん……ごはん~……」

 銀色の髪をゆらゆらさせて。

 褐色肌の妹が起きてきたのを見つけたフィノは、朝の味噌汁が温まる間、ながめていた新聞の一面から目をそらした。――新聞は、その国の文化や現状を知るのに役立つのは勿論のこと、言葉を覚えるにも十分なツールであるから、フィノは少しでも時間があれば目を通すようにしていた――。

「もうちょっと待ってね。すぐにお魚も焼けるから、食器出してもらえる?」

「わかったのー」

 例のアニメキャラのパジャマを着たミィルが、くるりと僕の方を振りかえる。ちなみに僕もまた、ちょうど庭先から戻って、三人分の洗濯物を干し終えたところで、

「カズキもてつだうの!」

「了解です」

 しっかりと、言いつけられてしまった。


「――はぁ。本当に。新聞に挟まったチラシって胸が高鳴りますよね……」

 スーパー丸得のチラシを見て、うっとりと。

 異世界から留学してきた女子校生エルフ(17)は、頬を赤らめていた。

「これが〝商人ギルド〟による、戦略的攻勢だとは存じているのですが、キャベツが一玉87円、ニンジン一袋95円、タマネギ一個49円の魅力にはとても抗えません……」

「おねえちゃん、きょうのばんごはんなに~?」

「あっ、そうよね。ぜんぜん考えてなかったわ」

 魔法から覚めたように(ちなみにこの広告には、特に魔法はかかってない)フィノは手を重ね合わせた。

「カズキさん。今日の夕飯、なにがよろしいですか?」

「えぇと、そのオーソドックスなラインナップだと……あ、やきそばの麺もセール品に入ってるし、豚肉合わせて、やきそばとかは」

「素晴らしいですね!」

 たぶん、セール品が一品増えるあたりが、そう判断した基準なんだろう。

 思いながら、手元の冷奴を切りわけて、口に運ぶ。

「カズキ、おしょーゆとって」

「はい」

 僕らがかこむ朝の食卓は、大体いつも、こんな感じ。


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