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ラブレター

作者: 彼方遥陽





私には余命宣告を受けた幼馴染がいる。

先天性の心疾患があり、生まれた時は1年も生きられないといわれ、手術をして、5年もてば奇跡と言われた。

そして、もう一度大きな手術をした時に言われたのは20歳までは生きられない。


医者でも人の生き死にはわからないもんだとつくづく思う。

体育の授業は簡単な柔軟以外はずっと欠席だったし、保健室登校の常連だったけれど、彼はとても元気な学生生活を送った。

友人も少ないわけではないし、入院生活が長かったせいか頭もいい。


20歳を超えた頃にはパソコン一台で生計を立てれるくらい余裕で稼いでいたし、元気ハツラツ?までいかなくても家の中で働いてた。


そんな幼馴染を持つ私はというと、派遣でお金を貯めながら旅行先で写真を撮る道楽生活をしている。

いつか写真で生計をたてたいと思うがなかなか難しい世界であることは理解している。

だから私は将来困らないように少しずつ貯金しながら人生を好きに謳歌していた。


ある日、旅行から帰り、すぐに暗室で現像した写真を携えて彼の家にいった。

1人暮らししたいと主張した彼は実家に定時に連絡を毎日することを条件に今年の一月から晴れて1人暮らしを始めた。

23歳にして初めてのわがままを通した幼馴染の部屋には私が定期で通ってる。

一応心配だし、私の道楽生活を応援してくれる唯一の人物であるし、何より昔から世話焼きな私は仕事に没頭するとご飯を食べなくなる彼のおさんどさん的役割も担っているわけだ。


「善生ー?よっしー?よっしおちゃーん?」


貰っている合鍵でドアを開け、叫べば彼はいるよーと、返してくる。

1LDKで暮らす彼の部屋は案外広い。

稼ぎは私の目が飛び出すくらいたくさんあるから当たり前といえば当たり前だけど、贅沢過ぎると常々文句はいうことにしてる。


「善生、帰ってきたよ。ただい、ゲッ」


毎度の事ながら、海外から帰ると彼の部屋は魔窟とかしている。


「これ、誰片すの?」


「誰か」


パソコンをカタカタしながら、彼はさらりという。

善生にはあまり家事能力はない。

私は普段3日に一度ペースで顔を出し、片付け、ご飯を食わせ、洗濯する生活をしている。

私のおかげで暮らせてるんだぞ。

姉か母親か、もっとひどけりゃ家政婦かって思っていると私はよんでいる。


「まぁいいわ。片して、飯作るわ。はい、今回の写真」


「おっ。ありがとう。今回はどうだった?アフリカだっけ?」


「前回のヨーロッパの旅とはワケが違ったけど、楽しかったよ。はい、お土産」


「何これ?裸の変質者?」


「木彫りの神様。これが長寿。これが恋愛。こっちが金運」


「・・・何が違うの?」


「色と大きさ」


正直な感想を述べれば彼は大爆笑する。

心臓の負担が大きいから海外旅行は彼には難しい。

だから、私は遠くに出掛ければ絶対に彼が面白がるだろうと思うものを買ってくる。

今回も反応は上々。

気分よく、私は片付けを始めたのだった。


「今はどんな仕事してるの?」


「んー?前に出したゲームソフトの続編だしたいって言われて、そのプログラミング」


食事を食べさせつつもそんな問いかけをしてみる。

彼は人気ゲームソフトを手掛け、その上その関連のツテで書籍を出しており、もう一生食べて行けるくらい稼いでいる。

だけど、向上心は忘れず、きちんと他の仕事も請け負ってやっているからとにかく凄い。


「善生と結婚する人幸せよね。遊んで暮らせるもの」


「一葉、俺と結婚する?」


「それもいいわね」


何気無く言ったこの冗談で私の日常は一変した。

私はこの後、善生に押し倒されたのだ。

しかも、この時に私は彼の子どもを身籠った。


急速なスピードで妊娠、結婚、出産。

全てが突然で進み、私達は夫婦になり、親になった。


きっと、善生は分かってたんじゃないかな。

もう一緒にいれる時間は長くないって。


彼の三回忌は子どもの5歳の誕生日の間も無くだ。


沢山のお金を残して、子どもと私が決して苦労しないようにしてくれた彼。

貴方はもう私の側にはいない。


私は派遣なんて辞めて、親のコネで就職した。

善生が残してくれたお金は子どものここぞという時に少しずつ使って、最終的には子どもに残してやりたいから、頑張って稼ぐんだ。


ただ、私は最近細々と貯めていたお金で一冊の本を出した。

そこには彼が好きだと言ってくれたいくつかの写真と、一枚の子どもを抱いた彼の写真。

これは彼へのラブレターだ。



“生きて人々に善いことを一つでもできるようにと名付けられた貴方。

貴方は私にたくさんの幸せと子どもという宝物をくれた。

もっと早くに貴方の大切さが分かれば。

貴方が私にとってどれだけの存在か分かっていれば、もっと長い時間を共に過ごせたというのに。

私の長年連れ添った幼馴染である貴方。

私の最初で最後の恋人。

そして、貴方は私の愛する息子の父親。

私は貴方を今も尚愛しています。

この本は愛する貴方に捧げます。”



『ラブレター』

愛する善生へ

貴方の妻 一葉より






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