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3つの言葉

3つの言葉「とあるクエストにて」@久藤雄生

作者: 久藤雄生






―――20XX年―――


新鋭ゲーム会社の新作MMORPG内に、プレイヤーが閉じ込められるという現象が起きた。

それは世界を震撼させる大事件となった。



ゲーム内に閉じ込められ、外部からの情報は入ってくることも適わず、混乱の最中―――




……正直な話。

ゲームのシステム上なのか死んでも生き返ることがわかっているからか、あまり緊張感がない。

異変が起きた時間は夜中の3時半ということもあり、やり込んでいる人間が多かった。

さすがはゲーマー気質というのだろうか。

我先にとクリアしようと躍起になっている。

クリアすれば脱出出来るのではと根拠のない噂に踊らされて。



もちろん僕も例外ではない。

所属するギルドの集会所がある街で僕は目覚めた。

最初は混乱したがギルドのメンバーがいたことに加え、死んでも復活することがわかると、好奇心が勝つこととなり。


そしてふと思い出した。


ギルドにも加入しておらず、僕しかフレンド登録していないといっていた、彼のことを――。





「ナツメ」


リュウスケに苛々した声で呼び止められ、焦った。

今僕たちは港町・で船の出港を待っているのだが……。

正しくは、出港するための最後のメンバー待ち、である。


「いつまで待てば良い?」


重々しい溜息に眉が下がる。


「もうすぐ来るってば!」


「あの臆病者チキンが未開の地に来るわけないだろ」


「そんなことない!」


別にななちゃんは面倒臭がりなだけで、臆病者なんじゃない。

いつもならクエストに参加なんてしないけど、今回は別。

他のメンバーには内緒で報酬を用意したのだ。


「早くしないと黄金鋼鉄騎士団に先を越されるだろーが!」


「あとちょっとだってば! すぐ来るって!」


ななちゃんがこの報酬に食いつかないわけがない。


今回のクエストは、海を隔てた隣の大陸へ移動するためのものだ。

船に乗り、最近になって航海を妨害するようになったという巨大モンスターを倒すというもの。

まだ他のギルドチームもおらず、僕たちが一番乗り。

まぁすぐそこの港町では僕たちの失敗を黄金鋼鉄騎士団のやつらが待ち構えてるんだけど。

っていうか黄金なのか鋼鉄なのかはっきりして欲しい。

どう考えてもただの金メッキじゃん。


「わりー、遅刻?」


「ななちゃん!」


良かった、きっと来てくれるって信じてた。

ななちゃんは短く刈った金髪に高身長で筋肉、顔に大きな傷を持つ珍しいタイプのアバターだ。

僕も人のこと言えないんだけど、ゲーム内の美形率は高い。

ちなみにネカマ率も高い。

女キャラの方が見て楽しいからだそうだ。

ちなみに僕は中身もアバターもれっきとした男である。





ななちゃんは緑の魔法だけレベルMAX、サブスキルである農業や料理、手芸、陶芸といったものの習得率だけが高い。

そしてレベルは48。

ギルドメンバーの平均レベル80に比べると大分劣る。

ま、参加して欲しかったのは戦闘力そういうことじゃないんだけどね。

 

いざ、出港。

航海士はNPCだ。

潮の匂いに波の音。

船なんて久しぶりだ。

酔い止めなんてないし、状態異常防止のアクセサリーを装備している。

身体が別モノの今、装備しなくても酔わないかもしれないけど念の為。


船が動きだして、間もなく。

大きな影が海中にに現れた。

航海士たちが一斉に慌て出す。

そしてモンスターがその姿を現した。

船が揺れる。

しかし転覆はしない素敵仕様。


「でっかー」


大王イカが現れた。

暢気に最前列で大王イカを眺めるななちゃん。

焦ったリュウスケたちが躍り出る。

ななちゃんを押し退け、剣を構える。


「ちょっと、さがって下さい!」


「邪魔なんだよ!」


「ぼーっとしてんな!」


ななちゃんは罵声を聞きながら、少し下がってそれを見る。


「まーおれの出番は最後だけだしな」


「駄目」


「なんで」


「戦闘に参加しないとレベル上がらないでしょ。いつまでそのレベルでいる気?」


生産ばっかりやっているので、プレイ時間最多な廃人の癖にレベルが低い。

レベルが低いと装備出来ない武器や防具もあるし、譲渡も出来ない。

ななちゃんの防具は僕が譲渡した、そのレベルでは最高のものだ。

武器はななちゃんのサブスキルクエストの報酬品だけど。



「ななちゃんはレベルの割に強いよ。だけどそれじゃあソロだとキツイし」


レベル制のゲームだが、それとは別にスキルを上昇させるイベントもあり、同じレベルでもまったく同じ数値というわけではない。

もちろん職業によっても変わってくるわけで。


「別に戦闘クエストする気ないしなぁ。坊以外にフレンドもいないし」


確かに僕が誘う以外、戦闘系のクエストは受けていないようだ。

よほど報酬がほしい時は別みたいだけど。


「ちょっとそこの2人! 呑気に話なんてしてないで!!」


レビンの声に我に返り、弓を構える。

いつもは短剣装備なんだけど、今日は特別。

リーチが短いと不利だしね。

ななちゃんも武器を構えた。


「ちょ、ま! お前それ!」


一同絶句。


「ん? だっておれ、職業農家だもん」


ななちゃんの手には、鍬。

ただし鉄製ではなくオリハルコン製である。

この鍬は農家生産クエストを全攻略すれば手に入るらしいが……。

未だかつてこの鍬を見たのはななちゃんの手元だけである。

だってクエストクリアまでどんだけ時間かかると思ってんの?


「よっし、じゃあさくさくいくよっ!」


僕の声を合図に改めて戦闘開始。

目標レベルを余裕で超え、このクエストの最大人数である5人。

ななちゃんだけレベルが低いけど、おそらく余裕なはず!


戦士職であるリュウスケが前衛に立ち、すべての攻撃を受ける。

レビンが補助系魔法でリュウスケの物理防御力を上げ、回復も担当。

イレイザーの攻撃魔法と僕の弓で大王イカのHPを削っていく。

そして……。


ななちゃんも鍬を振り上げ、大王イカを攻撃。

地味に攻撃力高いよね、ソレ……。


そこそこ良いドロップ品もあり、皆で山分け。

新大陸にも行けるようになりご満悦だ。




さてここからがメインイベントである。


「よし、じゃあやるか!」


ななちゃんはおもむろに包丁を取り出し、烏賊を捌き始めた。

勿論素材は別保管で、後で山分けとなる。


「……本気ですか」


呆れたように僕らを見るレビン。

料理のスキルを持っていれば、実際に料理が出来なくても、この世界では料理可能だ。

しかしスキルにない料理は自動で作ることが出来ないのだ。


「おれはこのために呼ばれたんだけど。だよな、坊?」


「うん! だって僕らの中に現実リアルで料理出来る人いないでしょ」


僕の言葉にリュウスケが呆れたように呟いた。


「…………馬鹿らし」


「じゃあお前は食うなよな」


それに間髪入れず言い返したのはイレイザー。

さっきまで一緒になって文句言ってたくせに。


「なっ! 裏切り者!!」


リュウスケの罵声を聞きながらななちゃん特製の烏賊料理に舌鼓。

揚げたての天麩羅は天つゆか塩、お好みで。

活き造りや七味焼き、烏賊飯。

一風変わったものでナンプラーを塗って焼いたものもある。


「あー、おいしかった! また一緒にクエストしようね!」


「食べられそうなモンスターのときはな」




……END




同じ設定で短編が2つありますが、特につながってません。

興味がありましたらよろしくどうぞ↓


http://ncode.syosetu.com/s1724a/


リンクの繋げ方がちょっと……すみません……。

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