プロローグ
推理小説が好きだった。
犯人を追い詰める探偵。
巧妙に仕掛けられたトリック。
散りばめられた伏線。
そして、全ての謎が一つへと繋がる瞬間。
そんな物語が好きだった。
玖城透は、どこにでもいる大学生だった。
講義を受け、友人と話し、家に帰る。
少しだけミステリー小説が好きなことを除けば、ごく普通の二十一歳だ。
マーダーミステリーという遊びの名前も聞いたことがある。
最近流行っているらしい。
それ以上のことは知らない。
やったこともなければ、詳しいルールも知らなかった。
だから。
その日届いた一通のメールを見ても、特に気にしていなかった。
◇
夜。
透は自室のベッドに寝転びながらスマホを眺めていた。
動画サイト。
SNS。
ニュース記事。
いつも通りの時間。
その時だった。通知音が鳴る。
一件のメール。
差出人は不明だった。
件名は――
『マーダーなミステリーへようこそ』
「……なんだこれ」
思わず呟く。
いたずらメールか。
迷惑メールか。
どちらにしても怪しい。
透はメールを開いた。
本文は短かった。
『あなたを次のシナリオへ招待します』
その下にはURLが貼られている。
「意味わかんねぇな」
閉じようとする。
だが、なぜか指が止まった。
理由は自分でもわからない。
数秒悩み。
そして。
「見るだけなら……」
URLをタップした。
その瞬間だった。
スマホの画面が白く光る。
「は?」
眩しい。
画面だけではない。部屋全体が白く染まっていく。
壁も。
天井も。
床も。
世界そのものが塗り潰されていくようだった。
「なんだよこれ――!」
立ち上がろうとする。
だが。
足元が消えた。
身体が落ちる。
どこまでも。
どこまでも。
暗闇の中へ。
そして。
玖城透の意識は途切れた。
◇
雨音が聞こえる。
ぽつり。ぽつり。
いや。
違う。
激しい雨が窓を叩いていた。
透はゆっくりと目を開く。
知らない天井。
知らない部屋。
知らない場所。
「……どこだ、ここ」
身体を起こす。
すると。
机の上に一枚のカードが置かれていた。
まるで最初からそこにあったかのように。
透は警戒しながらカードを手に取る。
表には大きく書かれていた。
========================================
『プレイヤーカード』
【名前】
アルフレッド・クロウ
【役職】
旅行作家
【秘密】
昨夜、館の主人と口論した
【勝利条件】
・事件の真相を解明する
・エンディングまで生存する
========================================
「なんだ……これ」
意味がわからない。
だが。
裏面を見た瞬間。
背筋が凍った。
赤い文字で、一文だけ記されていた。
『被害者は今夜死亡する』
その瞬間。
館のどこかで鐘が鳴り響いた。
ゴーン。ゴーン。ゴーン。
まるで。
物語の始まりを告げるように。
透は無意識にカードを握り締める。
嫌な予感がした。
説明できない。
根拠もない。
それでも確信できた。
――何かが始まる。
そしてその予感は。
決して外れることはなかった。




