〜前日譚①〜
魔力には2種類のものが存在する。
1つは人や動物などの生き物の中で作られる魔力これを“オド“と呼び、もう1つは大地や海、草木などの大自然から発生する魔力、これは“マナ”と呼ばれる。
マナが多い土地は空気が清浄になり、森は深く広がり、川の水は清く美しく透き通る。農作物がよく採れ、冬でも安定した食料を確保できる人にとってもまさに欠かせない場所だった。
しかしその豊かさは、人にとって必ずしも祝福ではない。なぜなら過剰なマナの取り込みは生き物の肉体を変質させてしまう。理性を失い、異形へと変わり果てた存在──それが“魔物”だった。
筋肉が肥大化し姿そのものが変わってしまうものもいれば、姿形があまり変わらない者もいる。しかしマナに侵されたものは皆、凶暴性が増し危険な存在となった。
そしてここ“魔の森“と呼ばれるこの場所は、特にマナの量が濃く多くの魔物が現れ人々の生活を脅かしていた。
そのため魔物の侵入を阻むことと人々が迷い込むことがないようにするためこの森と人が住まう場所の間には長い壁が建てられていた。
しかし魔の森は資源の宝庫でもあるためその長い壁にも森に入るための出入り口はいくつか存在している。
その出入り口を守るように数名の兵士を率い、戦っている青年がいた。
唸り声をあげ威嚇し襲いかかってくる狼の魔物たちから兵士たちは盾で魔物を押さえ込んでいる。
その中で青年だけは盾を持たず剣だけを振るい、襲いかかってくる何匹もの魔物たちを次々と切り伏せていった。
「カイル様!そちらに行きましたよ!」
兵士がおさえていた魔物が1匹兵士を押し退け、カイルと呼ばれた青年に迫るがその魔物の首筋を青年の剣が一閃し、青年に襲いかかる前にはもう魔物の首は落とされていた。
それからしばらくして──
壁に集まっていた魔物たちは全て駆除されたことを確認したあと、出入り口の重厚な扉を青年が魔法で閉め鍵をするとようやく一息つけたのか兵士たちは息を吐き出し、雑談を始める。
「やっと終わったな〜」
「今回は少し多かったな。何匹いる?」
「そうだな・・・ざっとみたところ11匹ってところか」
「今回は狼の魔物だったのもあり、少し苦戦しましたね」
「だな。いつも来てるゴブリンと違って、こいつらすばしっこかったからなぁ」
そんな軽くちを叩いている兵士たちから少し離れたところで1人だけ上官らしき者に叱責されてる者がいた。
「いつも訓練で言っているだろう!盾は自分の身を守るだけではなく仲間を危険にさらさないための武器だと!それにも関わらず、あんな魔物程度の突進で崩されおって!これがオークやオーガだったら貴様は今頃地面で踏み潰され仲間も危険に晒すことになっていたんだぞ!」
「申し訳ありません!」
そう言って頭を下げる兵士だったがそれでも怒りが収まらない上官がさらに苦言を呈そうとした時だった。
「まぁまぁ。そこまででいいんじゃないか」
そう言って間に入ったのは先ほど戦っていた青年・カイルだった。
「しかし、カイル様・・・」
「こいつまだ入ったばかりだろ?これからだって」
そう言いながら新兵に顔を向ける。
「今日のことを踏まえてちゃんと次に活かすんだぞ」
そう言ってにかっと笑うと新兵は勢いよく頭を下げた。
「は、はい!必ず次は失敗しません!」
「うんうん。それでいいよ」
その様子を見ていた上官はため息を漏らすと新兵に行っていいと手で合図した。
「カイル様・・・ああいうことをされては困ります。あれでは私の立場というものが」
「それは悪かったけど、あそこであれ以上怒鳴ってても仕方ないだろ?あれ以上言ったところでお前が嫌われるだけだし」
「しかしちゃんと何が悪くどう活かさないといけないか伝えなければ成長はできません。新兵であれば尚更です。それに私が嫌われるくらいのことで皆の生存率が上がるならそれに越したことはないです」
「相変わらず真面目だなぁ〜」
「兄さんが不真面目すぎるんですよ」
そう言いながら近づいてきたのはカイルの弟であるアーバンだった。彼が上官に手で合図すると上官は一礼し後始末の作業に加わった。
「お前も俺が間違ってるって思うのか?」
「そうですね。私は最初から聞いていたわけではありませんが、大体の状況で推測するなら兄さんがまた怒られている者を庇い、現場の者に迷惑をかけていたのでしょう?そうだとしたらいい加減、苦言を言われてしまっても仕方ないでしょう」
「でもよ〜命がけで戦ったあとに怒られるのってなんか可哀想じゃん」
「命がけで戦ったあとに叱責するからこそより次に活かせることもあるんですよ。まぁそれはさておき、戦果の方は?」
「あ〜今回は珍しく狼の魔物だったからな。毛皮がいい値段で売れるんじゃないか?」
「なるほど。では毛皮はこちらで売るとして他の部位は辺境伯に献上する形にしましょうか」
「他の部位って・・・内臓なんかいるのか?」
「廃棄予定の魔物の素材は全て研究材料になるかもしれないため、辺境伯に献上し精査する。サーバル国の貴族なら誰でも知っていることですよ?」
「あーーそうだったなぁ」
「・・・兄さん。いいかげん剣だけじゃなく勉強もちゃんと──」
「わかった!わかった!帰ったらやるって!俺、みんなを手伝ってくるからまたあとでな!」
そういうとカイルはダッシュでその場を後にし、作業途中の兵士たちに加わった。作業に加わったカイルに少し驚きつつも兵士たちはもう慣れた感じで笑いながら撤収準備を進めていく。
作業を進めているうちに自然とカイルたちの周りには兵士たちが集まり皆戦い終えた後とは思えないくらいいい笑顔を見せている姿をアーバンは少しばかり見つめたあと、記録をとっているたちに声をかけられ確認作業に加わるのだった。




