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全能者殺しのチート解体(隣の席の白河さんと)  作者: ニャルC


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7/7

観測者クロカワさんの記録

【観測者クロカワ(白河)さんの記録】

白河――あるいは、この偽物の教会における「クロカワ」としての私の日常は、退屈という名の平穏に満ちていた。

すべてにおいて平均点以上。

周囲が期待する「優等生の白河さん」を演じるのは、配られたカードがあまりに良すぎた私にとって、最も効率的な処世術だったから。


あの日、あの胡散臭いナイ神父から「ゲーム」に誘われるまでは。


「黒川さん。君の隣の席の彼、面白いよ。

彼は自分の知性を信じているようでいて、その実、配られた手札の悪さに絶望している。

……彼を、解体してみないか?」


縞瑪瑙の教会で、神父は私に悪趣味コスプレっぽいなシスター服を差し出した。

ルールは簡単。私は「クロカワ」として彼のサポーターを演じること。

神父が彼に「彼女は偽物だ」と嘘をつく一方で、私は彼が「本物のクラスメイト」であることを知った状態で観測を続けること。


最初は、ただの興味だった。

現実では私に声をかけることすらできない彼が、夢の中で万能感に酔いしれ、私の姿をした幻影(だと彼が思っている私)に対して、どんな醜い欲望を剥き出しにするのか。

それを高みの見物で楽しむつもりだった。

けれど、彼は私の予想を裏切った。

「百発百中?一発で十分だ」

そう言い放って預言者を攻略した彼の横顔は、教室で見せる卑屈なものとは別人のように冷徹で、そして

――驚くほど鮮やかだった。


「口だけ番長かと思ったけど、案外、性格の悪さだけは一級品じゃない」

本心だった。

彼が異能者たちの「最強」を次々とロジックで解体していく姿は、正直に言って、現実のどの娯楽よりも刺激的だった。


彼はチートを欲しがった。でも、それは世界を支配するためでも、チート解体の予行演習でもない。

「現実の私」に近づくためのシミュレーション(予知夢)が欲しかっただけなのだ。

神様から受け取った禁じ手を使ってまで、私という難攻不落のカードを引き当てようとする。

その必死な滑稽さが、たまらなくカワイイと思えてしまったのが運の尽きだった。


「仕方ないわね、これはファンサービスよ」

夢の中で彼が「予知」した通りに、現実のサッカーの試合後、私は彼にハイタッチを求めた。

触れた彼の手は少し汗ばんでいて、勝利の全能感と「予知が当たった」という安堵で震えていた。

その震えが手のひらを通じて私に伝わった時、私の中の「観測者」が少しだけ溶けた気がした。

カンニングペーパーを使って私に触れようとするなんて、本当、どれだけ内弁慶なのかしら。


それからの私は、自分でも驚くほど彼に甘くなった。

放課後の図書館、私は先回りして席を確保する。

「たまたま会った」

という体裁を整えて、彼の拙い勉強に付き合ってあげる。

私の横で、必死に「予知した未来」をなぞろうと冷汗を流す彼。

それを横目に、私はページをめくる。

現実の私は「白河」として微笑み、夢の私は「クロカワ」として彼を罵倒する。

その二重生活が、退屈だった私の日常を塗り替えていった。


けれど、事件は起きた。図書館に現れた「チートキラー」。

夢の中のチートが通用しない現実で、彼は震えていた。

情けなく、無様に、脚をガクガクさせて。

私は隣で「あぁ、この人はここで折れてしまうのかしら」と少しだけ失望しかけた。


でも、彼は違った。彼は非常ベルを叩き、110番通報をした。

神様から借りた魔法を捨てて、自分が生きる「現実のシステム」を信じた。

異世界の刺客を「ただの不審者」として警察に引き渡す。

その泥臭い、でも徹底して合理的。

英雄らしからぬ姿であっても、勝利という結果をもぎ取るために最短距離を選んだ。

 現実でも、震えながらでも戦える姿。


彼が神をパラドックスで追い詰め、ノーデンスを召喚して教会を破壊した。

私に「あばよ、偽物さん」と笑って消えた。

……偽物?残念だったわね。私は最初から、あなたの隣にいた「本物」よ。

驚愕の表情を作って見せたのは、彼への最後のファンサービス。


そして、現実の図書室。

冷房の音の中で、寝ぼけ眼の彼が「見た目は最高なのに」

なんて、最高の告白(暴言)を漏らしてくれた彼。


「……見た目は最高なのに、の続きは?」


真っ青になる彼の顔。

必死に「夢」や「シスター」の言い訳を探し、手持ちのブタ札を必死に回してこの窮状を何とかしようと足掻く。

「さて、次はどんなカードを出すつもりかしら?」


私は、震えるペンを握り直した彼に向かって、「クロカワ」の微笑みを浮かべた。

彼はもう、予知夢なんてなくても私の心を動かしてしまった。

現実でも、私を楽しませなさい。

(完)


後書き

本作の原点は、一つの思考実験でした。

「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。」

の高遠 夜霧の「即死チート」と

「めだかボックス」の球磨川禊の『大嘘憑き(オールフィクション)』が戦ったら?

『大嘘憑き』はありとあらゆる物事(気配や他人の視力や世界さえ)無かったことにする能力です。

「即死チート」を無かったことに出来たら勝てるかも?

「僕の絶命をなかったことにした!」

因果律に関与するスキルのため、自身の死に対しては自動で能力が発動し、死にたくても死ねない状態。

後出しで復活可能。

その気になれば「世界を無かったことにした」と出来るので、ドローには持ち込めるはず。

高遠 夜霧が「世界を無かったことにした」状態でも問題なければ負けます。

ですが、球磨川 禊なので「また勝てなかった」という結末がお似合いかもしれません。

ナイ神父の「最強の手札」を、論理と屁理屈で一枚ずつ破り捨てていく。

そんな本作の試みを、最後まで見届けてくださり、ありがとうございました。

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