第2話:【砂漠の預言者と、因果固定の魔弾】
第2話:【砂漠の預言者と、因果固定の魔弾】
「冴えない顔してるわね。現実でもそんなに惨めな思いをしてるの?」
シスター・クロカワが、教会の石床をブーツの踵で鳴らしながら歩み寄ってくる。
彼女は白河さんと同じ完璧な輪郭を持ちながら、その口調には品性のかけらもない。
だが、その「ズレ」こそが、僕にとっては最高に心地好かった。
「酷い言われようだな。
君こそ、そんなに性格を尖らせていては、せっかくの顔が台無しだよ。
学校の彼女なら、そんな言葉は死んでも口にしない」
「……あんた、もしかして現実でもそんな風にニヤニヤしながら女の子を見てるわけ?気持ち悪い」
クロカワの蔑むような視線。
僕はそれを鼻で笑い流した。所詮偽物だ。
これは僕の脳が、白河さんという理想の皮を被せて作り出した、都合のいい「毒」に過ぎない。
「さて。聖なる使命の時間だ。
砂漠の果て、偽りの未来にすがる哀れな王に、真実の光を見せてやりたまえ」
ナイ神父のカルトの教祖のような大仰な見送りで送り出された。
ナイ神父に相手の反撃不能な距離を指定したら、灼熱の砂漠へと放り出された。
せめてオアシスにしてくれ。
標的は「百発百中の預言者」。
彼はあらゆる「不都合な未来」を視ることで回避し、絶対の安全圏から世界を支配していた。
「……暑い。ねえ、あんたのその冴えない頭で、少しはマシな作戦を考えたわけ?」
クロカワは首を軽く傾げ、はしたなくスカートをパタパタさせる。
「百発百中の預言者?一発で十分だ。
彼の能力は『現在から未来を計算する』。
なら、その計算式自体を無意味にしてしまえばいい」
僕は神父から借りた一張りの弓を引き、矢を放った。
それは城壁を越え、真っ直ぐに王の寝室へと突き刺さる。
矢に括り付けたのは、僕からの挑戦状と、地球帰還の契約書だ。
『明日の正午までにサインをしろ。さもなくば、君の心臓を撃ち抜く』
翌朝、正午の数分前。
王城の正門から現れたのは、黄金の装束を纏った男だった。
だが、その顔は恐怖で青白く、全身が小刻みに震えている。
「……っ、何者だ!私は一晩中、数千の未来を視た。
……だが、何をしても、どこへ逃げても、正午には私の鼓動が止まる!
呪いか?これは何の呪いだ!」
「呪いじゃない。ただの確定した事実だ」
僕は冷淡に告げた。
「君の能力は素晴らしい。
でも、未来が見えるからこそ、逃げ場がないことが百パーセント分かってしまう。
君が見ているのは、僕が神父から借りた必中の魔弾の軌道、つまり『確定した結果』だ。
君が行動を修正したら、魔弾の軌道も修正される。つまり、命中という結果は固定されている。
サインしろ。そうすれば、その『死の確定』を書き換える」
正午まで、あと一分。男は、震える手で狂ったようにペンを動かした。
彼にとってそれは、王座を捨てる行為ではなく、死から逃れるための作業だった。
「……成功、ってわけね」
クロカワが呆れたように、けれど僅かに感心したような笑みを浮かべた。
「口だけ番長かと思ったけど、案外、性格の悪さだけは一級品じゃない」
縞瑪瑙の教会へと戻ると、神父が両手を広げて迎えた。
「素晴らしい!魂の流出が一つ塞がれた。これぞ真の救済だ!
さあ、約束の報酬(予知夢のチート)を授けよう」
僕は、心地好い全能感を抱いたまま、現実という名の戦場へと帰還した。
隣でクロカワが、
「現実のあんたも、これくらいマシならいいのにね」
と、最後まで偽物らしい憎まれ口を叩いていた。




