音色(ねいろ)が見える少年と、きらきら光る「ありがとう」
音色が見える少年と、きらきら光る「ありがとう」
ねえ、知ってる?
世界は、音でできているんだよ。
風が木の葉をゆらす音は、すきとおった緑色のリボン。
車の走る音は、ビュンと伸びる赤い線。
ピアノの音は、七色のシャボン玉。
オトくんは、そんなふうに「音」が「色」に見える不思議な男の子でした。
オトくんの目に映る世界は、まるで宝石箱をひっくり返したみたいにカラフルで、とってもきれい。
……でもね、たったひとつだけ、嫌いな色がありました。
それは、オトくん自身の声です。
「おはよう」
そう言おうとすると、口からモクモクと、ねずみ色の煙が出てくるのです。
「あーあ」
ため息をつくと、空気が濁って、目の前が曇ってしまいます。
(ぼくの声は、汚い色だ。みんなのきれいな景色を汚しちゃう)
だからオトくんは、自分の口にギュッとチャックをして、おしゃべりするのをやめてしまいました。
心の中でだけ、たくさんお話をして過ごしていたのです。
ある冬の日の夕暮れのこと。
公園のベンチで、オトくんが空を眺めていると、どこからか冷たい音が聞こえてきました。
ポツ、ポツ。ザーッ。
(雨かな?)
いいえ、空は晴れています。
それは、ブランコのそばで泣いている、小さな女の子の声でした。
「うえーん、うえーん……」
女の子の泣き声は、冷たくて悲しい「青い雨」になっていました。
その雨は、女の子の周りだけをシトシトと濡らし、地面を暗い青色に染めていきます。
オトくんの足元まで、その冷たさが伝わってきました。
(どうしよう。迷子になっちゃったのかな)
オトくんは立ち上がりました。
女の子は、寒さと不安で震えています。
青い雨はどんどん強くなって、今にも女の子を飲み込んでしまいそうです。
(助けてあげなきゃ。でも、ぼくが声を出したら……)
ぼくの口から出るのは、あの嫌な「ねずみ色の煙」だ。
あんな煙を見たら、この子はもっと怖がってしまうかもしれない。
オトくんの喉が、キュッと縮こまります。
でも、女の子の肩が小さく震えているのを見たら、じっとしてはいられませんでした。
(煙でもいい。雨を止めてあげなきゃ!)
オトくんは、勇気を振り絞って、大きく息を吸い込みました。
そして、女の子のそばに駆け寄り、声をかけました。
「……大丈夫? 一緒に探そうか」
その瞬間です。
オトくんの口からこぼれたのは、いつもの煙ではありませんでした。
ポワン、ポワン。
それは、冬の夜に灯る暖炉のような、温かい「オレンジ色のランプ」でした。
オレンジ色の光は、フワフワと宙に浮かび、女の子の周りを優しく包み込みました。
するとどうでしょう。
冷たい青い雨が、オレンジ色の温かさに触れて、スウッと消えていったのです。
女の子が顔を上げました。
涙で濡れた瞳に、オトくんの言葉のランプが映っています。
「……うん」
女の子が小さく頷くと、その声は薄桃色の花びらになって、ひらりと舞いました。
それからすぐに、遠くから「ミナ!」と呼ぶ声がしました。
お母さんです。
お母さんの声は、安心できるミルクティー色をしていました。
女の子はパァッと笑顔になり、お母さんの胸に飛び込みました。
二人が手をつないで帰り始めたとき、女の子が振り返って、オトくんに向かって大きく叫びました。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
そのときです。
世界中の明かりが一度についたような、とびきりの奇跡が起きました。
パァァァン!
「ありがとう」という言葉が弾けた瞬間、それは無数の「金色の星屑」になったのです。
きらきら、きらきら。
チラチラ、きらきら。
それは、冬の澄んだ夜空いっぱいに舞い上がり、天の川のように輝きました。
街灯よりも、本当の星よりも、ずっとずっと眩しくて、美しい光。
きらきら光る星屑は、雪のようにゆっくりと降り注ぎ、オトくんの肩や、冷え切った心の上に積もっていきました。
それは不思議と熱を持っていて、オトくんの体をポカポカと温めました。
(うわあ……きれいだなぁ)
オトくんは、まばたきをするのも忘れて、その金色のシャワーを見つめました。
言葉って、こんなにきれいな色になれるんだ。
ぼくの言葉も、誰かを温めるランプになれるんだ。
女の子とお母さんの姿が見えなくなっても、あたりにはまだ、金色の粉がキラキラと漂っていました。
オトくんは帰り道、マフラーに顔をうずめながら、小さな声で歌ってみました。
「ラララ、ラララ……♪」
すると、オトくんの唇からは、小さな黄色い蝶々たちが、ヒラヒラと生まれて空へ飛んでいきました。
もう、ねずみ色の煙なんて、どこにもありません。
優しい気持ちは、優しい色になる。
勇気を出した言葉は、誰かを照らす光になる。
オトくんは、明日学校へ行ったら、隣の席の子に「おはよう」と言ってみようと思いました。
きっとその声は、朝の光みたいな、素敵な色をしているはずだから。
空を見上げると、一番星が、あの「ありがとう」みたいに、きらきらと瞬いていました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
「冬の童話祭2026」参加作品です。
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