7話 誰も貴方を慕いません
「……何故だ」
全て失われる。
全て崩壊する。
紙束に囲まれた書斎の中で私は一人苦しんでいた。
(あの頃の私は輝いていたというのに……)
私は男爵家の騎士だった。
貧しい男爵家でいつ潰されてもおかしくなかった。
地位のため、
名誉のため、
己の力を証明するため、
戦い続ける毎日。
戦場で私は比較的強い方でそれなりに信頼も得ていた。
もう忘れてしまったが異名を付けられていたな……懐かしい。
そうした日々を送り続けたある日、私は一人の辺境伯令嬢と結婚する事になった。
自分の功績が認められた。
一人の貴族として価値を上げることができた。
あの時の私は確かに輝いていたというのに……
「クソッ!!」
苛立つままに机を殴る。
貴族社会において私は無知すぎたのだ。
知識も経験も何一つない。
最低限のマナーと戦うことしか知らない貧乏な男爵にとって、高貴な場というのはあまりにも無縁すぎた。
それが地位を上げた時に障害となった。
領地経営?
社交場のマナー?
貿易のやり方?
私は何一つ知らない。
知らずに生きてしまったのだ。
生業としていた戦いの場も減ってしまい、私は生きる価値を失いかけていた。
「はぁ……はぁ……」
そんな私を支えてくれたのが妻のロゼッタ。
彼女は優秀だった。
私に足りないものを全て補ってくれて、ヴァーレイン家に更なる繁栄をもたらせてくれた。
本当に凄い人だ。
私が恨むくらいに。
「何故だ……」
私はロゼッタが嫌いだ。
彼女の輝きを見ていると自分が惨めで仕方ないから。
だから自分でも何かできると証明したかった。
その為に娘を利用しようとしたのに……大事な顔に傷がついた。
「辛気臭い傷アリの娘で何ができる……あんなヤツにどうやって価値を付けろというのだ」
ロゼッタは亡くなりヴァーレイン家を自分が経営しなくてはならなくなった。
これはチャンスだ、そう思ったのに何もかも上手くいかない。
ロゼッタと同じようにできない。
それどころか劣化していく始末。
「だが、もう心配はいらない」
これも全て傷アリのノエルを抱えてしまったハンデが原因だ。
アイツは価値がない癖にロゼッタみたいに口うるさい。
こうした方がいい。
ああした方がいい。
うるさい!!
お前達がいなくても私はやっていける!!
戦場で成り上がった時と同じように、ヴァーレイン家をロゼッタがいた時以上に繁栄させてやる!!
「まずは新しい妻と養子だな……」
今度は私に口答えしない人間がいい。
全て私の思い通り。
そうすればきっと昔以上のヴァーレイン家になる。
この私に全て任せればいい。
だから誰も邪魔をするな。
◇◇◇
『ヴァーレイン家のガロン辺境伯にお気をつけてください。妻と娘を犠牲にして当主になった、悪魔のような男ですので』
ガロン辺境伯は知らない。
ノエルが商人を通じて広げた一枚の文書の存在を。
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