26話 再生への道
「ヴァーレイン家の令嬢に浮気相手が……お相手は伯爵家の人間……」
朝の日課である新聞を読む。
上手くいったみたいですね。
流石の圧力も広まってしまえば効果がない。
「マゼン様を王家のパレードがある場所に解き放つとは。ノエルも中々えぐい事を考えるねー」
「ラブメア様がいる所にピンポイントで解き放つディゼ様も中々ですけどね……どう言い訳したんですかね」
王家主催のパレード。
そこに参加するラブメア様の元にマゼンを放つ。
民衆という大勢の証人を得る事で、ラブメア様が複数人と淫らな関係を持っている事を公にする計画だ。
(いくら隠ぺい工作をしても公の事件の前には無力。せいぜいマゼンの気が狂ったと言い訳する程度ですが……先入観を取り払うのは難しいですね)
民衆は素直だ。見た事、聞いた事をそのまま受け止める。
ラブメアに愛を叫ぶマゼンの姿を誤魔化すのは無理でしょう。
「しばらくラブメアは大人しくなりそうだ。王族は相当怒っているみたいだからね」
妙にご機嫌なディゼ様が現れる。
「ちゃんと怒るんですね……王族に対して私はあまりいい印象を抱いたことがなくて」
「大事なパレードを下級貴族と側室に汚されたんだ。メンツを重んじる王族にとって許せるものではない」
見栄とか大事にしますからね。
黒い噂があろうと見かけだけはしっかりしたいのに、勝手に崩されたら怒りもする。
ちなみに私は昔、呪われるからと王城に入る事すら許されなかった。
何が見栄だ。まやかしばっかり信じてくだらないの。
「ディゼ様は大丈夫でしたか? その、王族に疑われたりとか……」
「あぁ。問題ないよ」
ふふっと笑う。
「ちょうど潰れてほしい貴族家がいてね。彼らに全て押しつけたよ」
「ひえっ……」
恐ろしい事を。
気に食わない貴族がいてもおかしくないけど、こんな形で利用して潰すなんて。
「相変わらず貴族社会の闇は深いですね……」
「わかるー。アタシも嫌になって何度も逃げ出したしね」
逃げてよかったこんな場所。
そう安心していた時。
「ノエルさん。その、お客様が……」
「私に? まさかマゼンじゃ……」
もうあの顔は見たくない。
彼との思い出が浮かぶだけで頭が痛くなるのに。
「大丈夫だよ。彼は牢獄にぶち込まれて一生戻ってこれないから」
「未来の当主候補が……自業自得ね」
なら安心。そのまま獄中で最期を迎えてほしい。
「で、お客様ね……今いきます」
こんな時に誰だろう?
商人との取引はもう少し先の話だし……
「お久しぶりです。ノエル様」
「バトラー!?」
まさかの登場にびっくり。
「この人は?」
「私が貴族だった頃の執事です。今のうちに逃げた方がいいとは言いましたが……」
彼は母が生きていた頃から傍で支えてくれた優秀な執事。
ロゼッタお母様が領を発展できた陰の功労者だ。
だからガロンという無能な当主に潰されないよう、彼個人に手紙を送ったのだけど。
「なので逃げてきましたよ。ノエル様の元に」
「……私はもう貴族ではありません。そこまでかしこまらなくても」
「そういうわけにはいきません。亡きロゼッタ様の意志を受け継げるのは、貴方だけですから」
「私が?」
お母様の意志?
今更なんの話をしているのだろう。
ヴァーレイン家はガロンお父様のもの。
私にできる事はもう何もないというのに。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m