20話 もう傷つかないで
「これくらいで大丈夫ですから……」
「ダメ、跡になったら治すの大変なんだよ?」
マゼンと一悶着あった後。
私は石をぶつけられた箇所をエリスさんに手当してもらっていた。
自分で軽く処置するだけのつもりが、薬草とか包帯とかでガッチガチに治療されて私は困惑している。
「……今更、傷跡が増えた所で変わらないのに」
どれだけ治療しようと治らない傷。
私から貴族令嬢としての価値を無くし、多くの人間から忌み嫌われた原因。
嫌われる事にはもう慣れた。
慣れたからか、私は自分が傷つく事に対して凄く鈍感なのかもしれない。
「治らない傷があるのは知ってるよ。でも、傷を増やす理由にはならない」
「えっ」
そんな私をエリスさんが優しく諭す。
「少なくともウチやディゼ様は悲しむよ。だってノエルは可愛いもん」
「私が、ですか?」
「うん」
私には到底似合わない言葉。
同じような事をディゼ様にも言われたな……
「目鼻立ちがキリッとしてて体格も細身で綺麗。後、ふとした時に笑うノエルは特に素敵だと思うよ」
「あ、あの……お世辞にしては盛りすぎでは……?」
「お世辞じゃないよ!?」
お世辞にしか聞こえないんです。
可愛いなんて傷のない幼少期の頃しか言われなかったから。
「あぁ、もしかしてあんまり褒められた事ない?」
「えと、はい……」
思えば顔の事以外でも何一つ褒められた事はなかったな。
見た目という偏見があるにしろ、お父様も少しは褒めたらよかったのに。
「何があったかは深く聞かないけど、ここは今までと違うから安心して」
「そう言われましても……」
「ねっ♪」
「は、はい」
妙な圧を感じた。
けど不快ではなかったし、エリスさんなりの思いやりだろう。
「私はエリスさんに謝らないといけません。マゼンに対して強く言ってしまったせいで、エリスさんが危うく怪我を負いかけたので」
「あー、全然気にしてないよ。むしろよく言った!!って褒めたいくらいだから」
「ま、また褒めるのですか?」
ただここまで褒められると本当に裏があるのではと思ってしまう。
私の何を思って優しくしているのだろうとか。
謎は深まるばかりだ。
「はーい終わりっ!! しばらくは痛むかもだけど、朝晩ちゃんと軟膏を塗るんだよ?」
「軟膏? そんな貴重な物は使えませんよ」
「あー、勘違いしてるみたいだけど、これ薬草を元に作ってるから全然貴重じゃないよ。むしろ市場にも流通してる」
「そうなんですか!?」
軟膏などの薬品は王族や一部商人にしか出回っていない貴重な代物なのに。
それを一般向けに落とし込むなんて。
「後はいっぱい食べていっぱい寝て。これ、先輩の命令ね♪」
「は、はぁ」
本当に凄い所に来ちゃったな。
私の価値観がまるっと変わってしまいそう。
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