2話 腐りきった家にはさよならを
「どうしたノエル」
いつもと変わらない冷たくて無愛想なお父様の姿。
ガロン辺境伯。
ヴァーレイン家の当主だ。
ちなみに私はお父様があまり好きではない。
理由は勿論、この右目に付けられた傷が原因で女の価値が無いと見下しているから。
「単刀直入に言います。マゼンが浮気をしていました」
「浮気?」
「えぇ、庭園のテラスで見せつけるようにイチャイチャと……しかも相手はラブメア侯爵令嬢ですよ?」
いけない。
冷静になるつもりが語りだすとつい不満が漏れてしまった。
伯爵家であるマゼンと侯爵家であるラブメアの密会は、貴族社会からすればかなりの大問題だ。
私とマゼンの地位だって離れている。
会えるようになったのも契約結婚という作られた関係を築けたおかげ。
なのに辺境伯令嬢である私がいるのにも関わらず、正式な手続きもナシに侯爵家の娘と密会して愛し合っている。
不埒とか非常識とか色々と言いたい事はあるが、まずはお父様への報告は済まさなければいけない。
だから訴えかけていというのに……
「それがどうした?」
お父様は眉一つ変えず、私の話なんかどうでもいいと書類に目を通しながら吐き捨てる。
「マゼンも男だ。一人や二人、愛人がいてもおかしくないだろう」
「ですが……!! 契約結婚をしておいて、侯爵家の娘と密会などありえないと……」
「黙れ」
苛立ちと共に、お父様の拳がドンッ!! と机に叩きつけられる。
「お前のような傷アリを受け入れてくれただけ、ありがたいと思え」
マゼンも常識外れならお父様も同類だ。
傷アリの私を物としか思わず、ただ何かに繋げる道具としか扱っていない。
その事実に私は言葉を失う。
「婚約破棄など考えるな。余計な行動をすれば、お前をこの家から追放する」
言いたかった事も抱えていた思いも全て内に押し込めて、
静かな空間に紙がめくれる音だけが流れ続ける。
「失礼……します」
最低限頭を下げて、私は部屋を後にした。
◇◇◇
「マゼンも……お父様も……私の事なんてどうでもいいと思っているのね」
自室のベッドに顔をうずめ、嘆きの声を漏らす私。
右目の傷が原因で美しさが資本と言われる令嬢としての価値はなくなった。
あの事故をキッカケにして私へ与えられたのは、罵詈雑言と辺境伯令嬢としての地位を利用された責務のみ。
幸せなんてなかった。
敬われることもなかった。
ただ、この理不尽に対する回答は一つしかないのだと。
今日という一日で理解した。
「……」
決めた。
私を追いやる者達への復讐を果たし、
私は私一人で生きられるよう力を持つ。
時間はかかるけど、その為のアテはある。
この閉じ込められた世界から抜け出して、自由を手に入れよう。
こうしてノエルという一人の少女の復讐計画が始まった。
まずは……時間を作るところから始めましょうか。
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