14話 自らの愚かさに貴方は気づかない
side:ガロン
「何故だっ!! 何故誰も養子になろうとしない!!」
ガシャーン!!とガラス瓶を叩き割る。
あれから何日も経過しているのに、ヴァーレイン家の養子になってくれる人はいなかった。
それどころか私の妻になってくれる人間さえも。
「どういうことだ執事!! いくらなんでもおかしいだろう!!」
「……我々も全力を尽くしております」
「クソッ」
オルクス家との縁談はかなりスムーズにいったというのに、この差は何なんだ。
手紙の内容をもう一度よく確認する。
養子になるメリット。
辺境伯という申し分ない地位。
そして戦場で得た私の功績の数々をびっっっしり書いているのに。
これだけ美味しい条件がそろっていて、飛びつかないのが謎だ。
「平民の子を養子に迎え入れては?」
「平民、だと?」
執事の案に更に怒りを増す。
「我がヴァーレイン家に泥を塗るつもりか!? ノエルという汚れが消えた今、ヴァーレイン家に必要なのは優秀で綺麗な人間だ!! 平民という落ちぶれたゴミのような存在を迎え入れてどうする!!」
「……申し訳ございません」
平民で探せばあっさり見つかるかもしれないが、それではダメだ。
私はヴァーレイン家をロゼッタがいた時代よりも繁栄させなくてはならない。
なのに平民を養子に迎え入れてどうする?
周りの貴族から落ちぶれたと馬鹿にされて、田舎者だと広められるのがオチだぞ!!
「……オルクス家と話をしてみるか」
一応、婚約破棄をしたのは向こう側。
頭を下げるつもりは一切ないが、話を聞くだけの権利はある。
そこから養子に繋げられるかもしれない。
「オルクス家に会談の手紙を」
「かしこまりました」
落ち着け。
まだ時間はある。
時間をかければ絶対にロゼッタを超えられる。
戦場の時と同じように貴族社会でも……
◇◇◇
「……あれでは難しそうですね」
扉を閉めて一人になった後。
執事である私、バトラーは一人ため息をついていた。
「戦場の武勇など貴族が興味を持つワケがありません。加えて辺境伯という地位に取り憑かれて変なプライドまで持っている」
何故、養子が現れないのか原因はハッキリしている。
要はプライドが高い上に自慢話しかしない男の元に養子を出す家がいるのか、という話だ。
養子というのは簡単に出せるものでは無い。
相手にも事情はあるし、その条件に見合った対応をするのが貴族社会の当たり前。
なのにガロン辺境伯は「私は凄いから来い」と上から目線の対応。
流石に常識が無さすぎますよ……
「後、これも影響してますかね」
懐から取り出した一枚の手紙。
内容はガロン辺境伯には気をつけろ、という批判的なものだったが、これはノエル様の仕業だろう。
彼女はガロン辺境伯からかなり嫌われていた。
顔に傷がついているのもそうですが、何より政治や他貴族との関係についてもガロン辺境伯へ色々と意見を言っていた。
まるで生前のロゼッタ様と同じように。
ノエル様は自身に不当な扱いをしたガロン様が許せず、復讐の意味も込めてこの手紙を書いたのだろう。
しかもこの手紙、伯爵家や侯爵家など多くの家に送り付けられたというウワサを聞いた。
そこまでするか……と、私も驚きました。
徹底的にやる所はロゼッタ様に似ていますね。
「私も決断しますか」
懐から取り出したのはもう一枚の手紙。
それは私にだけ当てられたもの。
『貴方は今の内に逃げた方がいいです。あの人は誰の言う事も聞きませんし、何をされるかわかりませんから。未来ある優秀な執事に幸福が訪れる事を祈っております』
全く、隙がないですね。
ヴァーレイン家、そしてロゼッタ様の為にもここで動くとしましょう。
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m