10話 こんな私に需要がありましたの?
「ディゼ様が知りたいのはこちらですよね?」
「おお、これがオレンジポーションの薬草か……」
ディゼ様がここまで来た理由はこれだろうと案内すると予想は見事的中。
商人から一番評価の高かったオレンジポーションの材料であるオレンジ色の薬草をディゼ様は目を輝かせながら観察していた。
「そこまで価値があるのですか? 一応、広まるのが怖いのでレシピは隠していましたが」
「まさか商人は教えてくれなかったのか?」
「聞く理由もありませんし……」
聞きすぎるのも嫌だろうとあえて黙っていた。
交渉の場はお互い一歩引いた距離で接するのが丁度いいと聞くし。
それにオレンジポーションはそこまで特別ではない。
折れた腕が一瞬で治るとか
不治の病が治るとか
人智を超えた効果では無い。
「疲労回復とストレス解消、後は睡眠の質をあげる程度ですよ? これに需要がある事自体が驚きです」
そう、あくまで精神のリラックスを補助する効果しかない。
元々は実家やマゼンを含めた多くのストレスを少しでも解消しようと私個人が使うポーションとして開発したのがオレンジポーションだ。
オレンジ色だからオレンジポーション。
単純でしょ?
で、ある日商人がオレンジ色のポーションに興味を持ち、私が効果を説明した途端だ。
とてつもない値段で交渉され、あれよあれよという間にオレンジポーションが私の主力商品となってしまった。
なんでこれが一番売れてるのかしらね。
もっと傷とか病気に効くポーションの方が需要はあると思っていたのだけど。
「その効果こそが重要なんだ。特に城に仕える貴族達にとってはね」
「城で?」
「褒められたものではないが、城の仕事は過重労働に加えてストレスがかなり多い。睡眠不足、収まらないイライラ、しまいには心を壊してしまう者も……」
うわぁ……思っていた以上に深刻ね。
お父様の辺境伯としての仕事も大変そうだったけど、国を管理しないといけない城の人間は、多くの事に苦しめられていそうだ。
睡眠時間だって満足に取れない。
周りはストレスだらけ。
城に閉じこもって雑務をこなせば身体は固まり、首や肩などに負担が溜まる。
あれ?
という事は私のオレンジポーションって、
「たまりにたまったストレスや睡眠不足を解消するために?」
「その通り。対処法自体は色々あったんだけど、最終的にはオレンジポーションを飲んで寝るのが一番効果的だったみたいだ」
「えぇ……」
まさか城で広まっているだなんて。
ただの飲み物にここまで需要があるとは。
「一時期は城の人間が溜め込んだオレンジポーションを高値で他の人に売りつける、なんて事もあったみたいだし」
「もっと生産数を増やせないか?って商人が頼んできたのはそういうことね……」
世の中、何が当たるかわからないものね。
何にせよ追い出されて余計なノイズが減ったから、生産数自体は更に増やせそう。
私の目玉商品だし、家や土地を用意してもらった恩もあるから頑張らなくちゃ。
「あぁ、そうだ。よければ私の所にこないか?」
「私の所って……どこですか?」
「私が管理しているポーション研究所さ。そこでノエルの力を借りたいんだ」
「え」
ただ、新しい就職先まで見つかるのは完全に予想外だったが。
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