第10話 夏祭りの夜 花火と影
生徒会合宿が終わって数日。
夏休みは半分を過ぎた。
聖華学園の生徒たちが楽しみにしている行事が始まる。
「聖華祭り」
近くの神社と学園、商店街が行う大規模な伝統の祭りで、毎年多くの生徒、市民などが参加する。
生徒会メンバーは準備と当日運営のため、全員が終日動くことになっていた。
夕方。
まだ明るい夕暮れ。
神社の鳥居の下にメンバーが続々集まる。
「どう?似合ってるっしょ?」
百合香がスピンして見せる。
「はいはい、似合ってる似合ってる。」
麻依先輩がいつも通りの対応で流す。
そうこうしているうちに美桜が姿を現した。
淡い白と赤の混ざった浴衣。
髪を結び、風に揺られる。
その姿に言葉を失った。
「......似合ってる。」
美桜は照れたように微笑む。
「ありがとう。柊真くんも甚平、かっこいいよ」
「はいそこ!イチャイチャしやがって〜」
百合香が肘で突っつく。
僕たち2人とも目を合わせ、打ち合わせしていたかのように無視をした。
祭り開始。
生徒会長、九条麻依の開式の言葉により祭りがスタートした。
夜店、提灯、賑やかな声。
風鈴の音が鳴り、祭りの賑わいが町に広がる。
生徒会は見回りをしながら途中で休憩を挟む。
人混みから少し抜け、美桜が息を整えて呟いた。
「人、多いね。」
「大丈夫?」
「うん、思ったより規模が大きくて疲れちゃっただけ。」
そんなことはよそ目に百合香が叫ぶ。
「ねぇ!金魚すくいしよ!」
美桜が微笑む。
「行こっか。」
美桜は僕の手を握り百合香のもとへ向かう。
観察するだけのつもりだったが、美桜がこちらに視線を向ける。
「柊真くんもやろ?」
そういい無理やりポイを渡される。
仕方なく隣に並んだ。
2人で水面を覗き込み、金魚の影が揺れる。
「今年はいっぱい思い出作りたいなー。」
美桜が言う。
「急にどうしたの?」
百合香が尋ねる。
「何となくだよ。久しぶりにこうやってみんなが同じ学校になったわけだし。」
「確かにね〜、でもあと1人忘れてるよ。」
「あいつは秋くらいにこっち来るって言ってたぞ。」
会話は静かだったが、美桜の横顔にはどこか”焦り”が見えた。
胸が騒ぐ。
その時、ポイが破れ、美桜が声を上げる。
「...破けちゃった。」
「無理しちゃうからだよ。」
苦笑いでツッコミを入れる。
美桜は顔を上げ、穏やかな笑みを浮かべる。
祭りが最高潮に達する時間。
人混みが最も密集する参道を歩いていたとき、美桜が突然立ち止まる。
「......っ。」
胸を押さえ、顔を歪める。」
「美桜...!」
「...ごめん、ちょっと胸が痛くって。」
人の声が遠く感じ、提灯の明かりが霞んで見える。
すぐに腕を支え、参道から外れた場所へ移動する。
「...大丈夫、すぐ治ると思うからさ...。」
苦しげな呼吸。肩が少し震えている。
麻依先輩と百合香がすぐに合流する。
「すぐに救護所に連れて行った方がいいわ。先に向かって準備してくるから、百合香と柊真で美桜を連れてきてくれ。」
すぐに麻依先輩が指示を出す。
百合香が心配そうに手を握る。
「美桜、すぐ連れていくからちょっと我慢してね。」
「うん...ごめんね。ありがとう...」
救護所へ着くまでの間、誰も言葉を発せなかった。
ただ、百合香だけは静かに美桜を見つめていた。
僕はただ考えていた。
(これはおそらく夏バテでも、熱中症でもない。絶対に何かあるはず。)
胸の奥まで冷えていく。
20時、花火が始まろうとしていた。
祭りのクライマックス。
美桜の体調は一時的に落ち着いた。
美桜と2人で少し離れた階段に座り、夜空を見上げた。
ドン......
ドン......
大輪の花が夏の夜空に咲く。
光が美桜の顔を照らす。
美桜がぽつりと言う。
「ねぇ、柊真くん。来年も、再来年もずっとこうやって花火を一緒に見たいな。」
「そうだね。こうやって死ぬまでずっと毎年見ていたい。」
美桜はかすかに、涙目の笑顔になる。
「私さ、実は......」
なんて言ったか、花火の音にかき消され聞こえなかった。
「なんて言った?」
そう聞き返しても
「ううん。何でもないよ。」
美桜はそうとぼける。
花火の音が消え、彼女の瞳に宿った夜空を見て、そっと美桜の手を握る。
「来年も再来年も、ずっとこの花火を見よう。」
その頃。
祭りの様子が監視カメラで映し出されている。
美桜が倒れ、柊真が支えて人混みの外へいくシーンを見て、
「......やはりそのようだったな。」
側にいる人物が尋ねる。
「計画は進んでいるようですね?」
「ああ。神崎美桜が倒れれば、必ず”奴”は動く。つまり黒川柊真の弱点は神崎美桜なのだ。」
2人が運営本部へ戻る背中を見て呟く。
「さぁ。この状況から立ち直れるのか。見させてもらおう。」
夏の夜は静かに終わりを迎えようとしていた。
しかしその裏で、確かな”終わりと始まり”が動き出していた。




