第9話 生徒会、夏合宿 後編
夜のキャンプファイヤー。
日が沈むと、海風は少し涼しくなった。
生徒会メンバーは、砂浜に組まれたキャンプファイヤーを囲む。
パチッ、パチッ......。
焚き火が静かに弾ける。
「夏って感じですなぁ。」
百合香が目を細める。
麻依先輩は静かに火を見つめながら、ジュースを飲んでいる。
火に照らされたメンバーたちは、”青春”で”華”そのものだった。
「柊真、施設に忘れ物をした。少し手伝ってくれ。」
麻依先輩が呼ぶ。
しかし施設の方とは違う方向に進む。
「お前も気づいているのだろう。美桜の異変に。」
唐突な問い。
言葉に詰まっていると麻依先輩は再び話し始める。
「いつからかは知らない。ただ異変があるのは確かだ。それに、とある人物が美桜の健康について確認をしていたことがわかってな。」
「もしかして理事長?てことはやっぱり美桜は夏バテなんかじゃないってことですか?」
麻依先輩は僕の顔をまっすぐ見る。
その瞳には、強い光が宿っていた。
「柊真。美桜を守ってあげられるのはあなたしかいない。今はまだ本当のことを話してくれなくても、いつかきっと話してくれるはずだ。だからそれまで守ってあげるんだ。」
「もちろん、それはそのつもりです。ただ、先輩も力を貸してください。」
「ああ。私も力を貸せるうちは貸すさ。大事な後輩達なんだからな。」
麻依先輩は穏やかに微笑む。
その笑みには、どこか違和感があった。
「まずは女子生徒の健康データを閲覧する変態理事長の企みを探らないとだな。」
麻依先輩は背を向けてみんなの元へ戻っていく。
キャンプファイヤーが終わる。
各々が施設へ戻る中、少しだけ夜風を浴びるといい、砂浜へ向かう。
波音だけが響く暗い海。
月の光が海に反射する、その光の中で影が2つ。
「着いてきてたの?」
「バレちゃった?」
美桜が後ろに立っている。
肩まで落ちた髪が風に揺れる。
その顔には昼のような笑顔はなく、静かで、どこか切なかった。
「大丈夫?」
「うん。今は良い方だよ。」
声はいつもより柔らかかった。
浜辺のベンチに座り、問いかける。
「最近、無理してない?」
「ちょっとしてる、かも。」
美桜は時間をかけて答えた。
「最近、何だか息切れとかめまいがしてさ。でも理由がわからない。」
「病院に行ったほうがいいね。明日にでもーー」
「わかってる。でもまだ...私は柊真くんと一緒に居たい。」
美桜は静かに遮った。
その声は少し強めに、でも丁寧でまっすぐだった。
「この合宿が終わったら行くよ。」
美桜は笑ってみせた。
「やっぱ変化に気づかれちゃったかぁ。百合香なんて全然気づいてないのに。」
僕を笑わせようとするその言葉に胸が締め付けられる。
「ありがとうね。大好きだよ。」
美桜は恥ずかしそうに呟く。
僕は恥ずかしくて少し視線を逸らした。
「僕もだよ。だからずっと健康でいてよ。」
「言ったでしょ!もう離れないって。」
美桜はゆっくり柊真の横顔を見る。
(美桜は絶対に守る、何があっても絶対に。)
そう心に誓った。
「冷えてきたし、帰ろっか。」
「うん。」
2人は並んで歩き出す。
距離は近いようで遠く、でも確かに同じ方向を向いていた。
その様子を見つめながら呟く。
「素晴らしい絆。愛だ。」
月に照らされたその瞳に光はなかった。
「黒川柊真。君がどう動くか楽しみにしているよ。」
冷たい風が吹き抜ける。
まだこの夏はこれで終わらないことをつげているようだった。




