第1話 桜の下の再開
春の風は、少し冷たかった。
桜が散る直前の匂いは、どうしていつも胸の奥をざらつかせるんだろう。
日本でも指折りの名門、私立聖華学園高等学校の校門をくぐる前で、僕は立ち止まっていた。
期待とか緊張とか、そういった前向きな感情ではない。
ただ、これから出会うであろう彼女に対して緊張し、
足が動かなかっただけだ。
「……柊真くん?」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
そこに立っていたのは、三年前に別れたままの——神崎美桜だった。
小学校の卒業式の日、彼女は言った。
「高校でまた会おうね」
それが最後の約束だった。
彼女は少し背が伸びて、制服のリボンを風に揺らしていた。
それでも、笑うときにできる小さなえくぼは、昔のままだった。
「ひさしぶり!」
「……ひさしぶり」
それだけで、少し時間が巻き戻った気がした。
「本当に同じ学校になるとは思わなかったね」
「うん。もう会えないと思ってた」
彼女は少しだけ間をおいて笑った。
「あの約束、ちゃんと覚えてたんだ」
「当たり前でしょ。僕だって忘れてないよ」
彼女は目を細めて言った。
「そっか。じゃあ…これで約束、果たせたね。もう離れることはないぞ〜!」
手を差し出されて、僕は戸惑いながら握り返す。
その手は少し冷たかった。
桜の花びらが舞い、
彼女の髪に静かに積もる。
その光景を見ながら、なぜだか胸がざわついた。
春、それはやはり花が咲く季節だ。
「高校生活って、長いようで短いのかもね」
その言葉を聞いて、僕は曖昧に笑った。




