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血を狩る者、宿命の輪に抗う  作者: Asutorufu
第二巻:騎士団選抜編
27/28

第27章 宣告する

選抜試合開始三時間前


地下深くに埋められた昏暗な密室。

空気は澱み、まるで呼吸そのものが意図的に抑え込まれているかのようだった。


細長い通路の両側には、十二体の騎士像が等間隔で並んでいる。


すべてが片膝を地に着き、頭を垂れ、剣先を床に突き立てた姿。

その佇まいは祈りにも似ていたが、同時に、無視できない圧迫感を放っていた。


石像の甲冑は一体ごとに異なる意匠を持っている。

だが胸部に刻まれた紋章だけは共通していた――

削り取られ、抹消された痕跡。

まるで「否定された歴史」そのもののように。


足音が、密室に響く。


一人の長身の男が、闇の中から姿を現した。

重く、しかし迷いのない歩調。

暗闇の中で、白い手袋だけが異様なほど目立っている。


彼は演壇に上がり、静かに立ち止まった。


その瞬間――

十二体の騎士像の前方の空間が、まるで「置き換えられた」かのように歪む。


「――かつて、ひとつの物語を聞いたことがある」


男の低い声が、密室に染み渡る。


「アーサー王の時代。包囲され、瀕死の重傷を負った王を救うため、一人の臣下が己の魂を売り、悪鬼へと堕ちたという話だ」


「王は救われた。しかし、その代償として――

その存在は王すらも脅かし、結果として円卓の時代は崩壊した」


「さて……この行為は、高潔だったと言えるのか?」


男は静かに首を振る。


「たとえ一国の王を救うためであろうと、人としての尊厳と栄誉を捨て去った行為を、吾は認めない」


――そして。


「だが!」


声が鋭くなる。


「今、この時代に!」


「半分は狩人、半分は吸血鬼という存在が現れた!」


「かつての臣下の行為ですら高潔でないのなら――問おう」


「奴は、高尚か?崇高か?

人としての栄誉を有しているのか?」


「否!」


断罪の言葉が叩きつけられる。


「それは神への冒涜だ。侮辱だ!」


「神が創りし生命の中に、悪鬼は含まれていない!そして我々も、決してそれを容認しない!」


「神が創る《方舟(Ark)》は、我々の手で築かれる!我々の手で完成させるのだ!」


「人類が文明の道を歩み始めたとき――それを崩そうとしたのは誰だ!」


「人類が科学で夜を照らしたとき――闇に潜み、我らを狩っていたのは誰だ!」


「人類があらゆる困難を克服し、食物連鎖の頂に立とうとしたとき――

文明の尖塔を崩し、生命の灯を曇らせ、恐怖を人々の背に這わせたのは、誰だ!」


「問う。その存在は、神への冒涜ではないのか。卑劣ではないのか!」


「人類は、《純血》としての誇りと栄誉を失ってはならない。悪鬼が、生命を象徴する《方舟》に乗ることなど、あってはならない!」


「生命が輪廻へと向かうならば――悪鬼もまた、屠られるべきだ」


「穢れは、浄化されねばならない」


男は、両手を机に叩きつけた。

鈍い反響が、密室に響き渡る。


そして――


彼は、ゆっくりと白手袋を脱いだ。


指先が空気に晒された瞬間、

密室の照明が一斉に灯る。


柔らかな光ではない。

冷白色の、鋭利な光。

尋問の場で用いられるかのような、容赦のない照明。


そこに立っていたのは――十二名の戦士。


性別も体格も異なる。だが姿勢だけは、驚くほど一致していた。


直立。沈黙。


命令を待つ兵器のように。


彼らは狩人の夜行用ロングコートを纏い、その身体の「ただ一箇所」にだけ、異質な武装を有していた。


【左肩】【右肩】

【左手】【右手】

【左腕】【右腕】

【左脚】【右脚】

【左足】【右足】

【眼】【口】


一人につき、一部位のみ。


それらは単なる義体や装備ではない。

強制的に固定され、封印され、制御された能力の「器」。


金属と血肉の境界に刻まれた符文が淡く脈動し、

低周波の共鳴が密室に満ちていく。


男は両腕を広げた。


「――お前たち」


視線が、十二人をなぞる。

まるで完成した作品を確認するかのように。


「では、問おう。お前たちは?」


十二人が、声を揃えて叫ぶ。


「神と《(Round)(Table)》の意志に、命を賭して従う!」


短い沈黙の後、男は告げた。


「選抜試合の前後を問わず、あらゆる手段を用いて――ジャック・カイルを抹殺せよ」


「狩人の注視の中で、奴を死なせる。それが、我々の穢れを洗い流す唯一の道だ」


「奴を生かせば、我々は恥を被る。そして――お前たちもだ」


「相手は複合体だ。油断するな。聖銀製の武器以外では、傷を与えることすら困難だろう」


「だが――神に祝福された《お前たち》が、【降霊】に匹敵する肉体を持つとしたら?」


「その才能を持つ者は、一人ではない」


男は演壇を降り、十二人を見渡す。


「――【(Neo)(knights)(Of)(Round)(Table)】」


「円卓は、栄誉のために存在するのではない。清算のために存在する」


「人類が滅びに最も近づいた時代。罪悪が蔓延し、信仰が腐敗し、神が沈黙したとき――円卓騎士は創られた」


「すべてを救うためではない」


「罪を斬り」


「人類の穢れを洗い」


「血を代償として、世界を存続させる」


「それこそが――《方舟》だ」


声が低くなる。


「すべての人類を乗せるためではない」


「存在を許された人類だけを、保存するための器だ」


男は手を上げ、十二人を指し示す。


「【新・十二円卓騎士】。

それが、今からお前たちのコードネームだ」


「空言に聞こえるかもしれん。

だが、神の代言者、代行者――

ユリウス・キリエ(Julius・Kyrie)として、ここに誓おう」


男は拳を胸に打ちつけた。


「神父であるこの身が、約束する」


「お前たちは、正義であり」


「お前たちは、希望であり」


「お前たちは、栄誉そのものだ!」


密室に、言葉の返答はない。


十二人は同時に拳を胸に打ちつけた。


激情でも、狂信でもない。


使命を授かった者だけが持つ、冷静な敬意。


男は背を向け、

密室の奥、古き誓約が刻まれた石壁を見据えた。


「任務は、ただ一つ」


「選抜試合の前後において――ジャック・カイルを狩れ」


白手袋を再びはめ、男は静かに言った。


十二名の新・円卓騎士が、一斉に片膝をつく。


完全に揃った動作。


金属が床に触れる音が、誓約のように響いた。


――七時間後、選抜試合会場。


巨大な円形闘技場は、複数の独立戦区に分割され、

床一面には抑制と増幅を併せ持つ魔法陣が刻まれている。


天井は完全には照らされず、

輪郭を映すだけの冷白光が、影を意図的に残していた。


観客席は満席。

誰が最も有望な団員か、熱を帯びた議論が飛び交う。


鉄門が順に開かれ、候補団員たちが入場する。

足音は床に吸われ、

残るのはヘルメットと外套の内側で響く呼吸音だけ。


ジャックは、その中に立っていた。


表情は静か。

肩と背は力が抜け、

まるで結果が決まった試験を待つ受験者のようだった。


最上段、厚いガラスで隔てられた貴賓席。


いくつもの視線が、同時に彼へ向けられる。


――観察。

――評価。

――そして、隠そうともしない殺意。


鐘が鳴る。


開始を告げる音ではない。


――逃げ場がないことを告げる音。


重く、低い声が、会場全体に響き渡った。


「狩人選抜試合、ルールを告げる!」


「第一条――生命は至高。みだりに奪うことを禁ずる!」


「第二条――武器、体系、降霊、すべて使用可!」


「第三条――場外結界への接触は失格!降伏した者は、今回の選抜資格を永久に失う!」


「――これより、抽選を開始する」

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