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血を狩る者、宿命の輪に抗う  作者: Asutorufu
第一巻:開幕
19/28

第十九章 訓練・其の一

「立て!」

ヴィエルは手にした木剣を強く握りしめ、倒れ込むジャックを見下ろしていた。

その声は冷たく、そして揺るぎない。剣先はジャックの喉元に突きつけられ、彼の瞳には一片の情けもない。


ジャックは壁に手をつき、苦しげに息を整えた。額には汗がにじみ、服はすでに汗でぐっしょりと濡れている。背中の筋肉は焼けるように痛み、全身が悲鳴を上げていた。


「まだ……いける!」

深く息を吸い込み、鼓動を感じながら、全身に走る痛みを押し殺す。

落ちていた木剣を再び握りしめ、剣を杖代わりにして無理やり立ち上がる。

その一挙一動がまるで自分の肉体との戦いのようで、筋肉の疼きが炎のように燃え上がった。


ヴィエルは荒い息をつくジャックを見つめ、口元にわずかな笑みを浮かべる。

――まるで時が巻き戻されたようだった。

自分がハンター訓練に参加したばかりのあの日も、今のジャックと同じだった。

全身傷だらけで、それでも決して退かなかった。

流した汗も、刻まれた痛みも、全てが限界を超えるための触媒だった。


あの頃の訓練も、容赦なく極限まで追い詰められるものだった。

ヴィエルは知っている――それは単なる肉体の鍛錬ではない。

死を恐れず、痛みに屈せず、恐怖をも飲み込む――

真のハンターの心を鍛えるための試練なのだ。


二人の木剣がぶつかり合う音が、雷鳴のように訓練場に響き渡る。

以前のジャックなら、最初の一撃で倒れていたことだろう。

だが今の彼の身体は、あの日――血清と吸血鬼の毒を受けた瞬間から、確実に変わっていた。


ジャックは深く息を吸い、目を閉じて周囲の空気の流れを感じ取る。

ヴィエルの心臓の鼓動が、鮮やかに響いていた。


「今だっ!」

その瞬間、ジャックの木剣が勢いよくヴィエルへと打ち込まれた。

手は震え、力は荒々しい――だが、彼はなおも体勢を崩さなかった。

手のひらに伝わる衝撃と痛み。

ヴィエルの手の内にも痺れが走る。

力だけを比べれば、明らかにジャックの方が勝っていた。

だが、技術においては、幾多の修羅場をくぐり抜けたヴィエルの方が一枚上手だった。


普通なら、その瞬間に木剣を握り締めるだろう。

だがヴィエルは一切の迷いなく手を離した。

ジャックの力に押され、木剣は彼の手を離れて宙を舞う。

空中で弧を描きながら落ちていく――その軽い音が、まるで戦場の空気を一変させたかのようだった。


ジャックの視線が一瞬で逸れた。

本能的に、飛んでいった木剣の軌跡を追ってしまう――。

だが、そのわずかな隙こそが、ヴィエルにとっては十分な機会だった。


ヴィエルは素早く身をかがめ、地面すれすれに身体を滑らせる。

その瞳は刃のように鋭く、狙いは正確だった。

注意を逸らしたジャックの前で、ヴィエルの拳が疾風のように三度閃く。

それぞれの一撃が、まるで計算されたかのように急所を撃ち抜いた。


最初の拳が、ジャックの腹部を抉るように突き刺さる。

激痛が瞬時に走り、ジャックは思わず身体を折り曲げた。

反応する間もなく――


二撃目が胸を打ち抜いた。

焼けつくような痛みが全身を駆け巡り、呼吸が止まりかける。

肺の奥に残った空気が絞り出されるように漏れ、膝が崩れそうになる。


そして、三撃目。

ヴィエルの拳が容赦なくジャックの首筋を打ち抜いた。

その瞬間、呼吸が途切れ、喉が圧迫される感覚が走る。

身体は抗えず、後方へと吹き飛ばされた。


「そこまで!」

鋭い声とともに、場の空気が一変する。

カルラが静かに拍手を打ちながら、二人の間に歩み寄ってきた。

その姿はまるで冷たい風のようで、さっきまでの激しさを一瞬で鎮めた。


「悪くはなかったわ。」

カルラの瞳に、一瞬だけ光が宿る。

だがその声は依然として冷静で、揺るぎない威厳を帯びていた。


「ジャック、あなたの力は確かに強大ね。けれど、まだ粗い。

力に頼りすぎれば、すぐに死角を作る。

ヴィエル、あなたの技術は見事だけど――自信が過信に変わる瞬間が、一番危険なの。」


カルラは手を軽く振り、二人に姿勢を正すよう示す。


「訓練の目的は、相手を倒すことじゃない。

自分の“限界”を知ることよ。」

彼女は二人の間に立ち、特にジャックへと視線を向けた。

その眼差しには、言葉にできない何かが込められていた。


「ジャック、あなたの身体はもう普通じゃない。

けれど、最も重要なのは――その力じゃなく、あなたの“意志”よ。

自分を制御できなければ、力はただの凶器になる。」


カルラは一拍置き、静かに続けた。


「血清と吸血鬼の力が、あなたに強靭な肉体を与えた。

だが同時に、それは“不安定さ”をも生んでいる。

――感じるでしょう、自分の中の力の揺らぎを。

制御できなければ、あなたはいつ爆発してもおかしくない“時限爆弾”なの。」


その声には責めるような響きはなく、

ただ圧倒的な威圧感と説得力があった。


カルラの視線が今度はヴィエルに移る。


「そしてあなた。技の冴えは確かよ。

けれど、あなたは“決めの一撃”に頼りすぎる。

本当の戦いとは、相手を圧倒することではない。

相手の“耐久”と“精神”を削り、最後の瞬間を見極めて仕留めるものよ。」

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