第一章 剣に貫かれし者
「London Bridge is falling down, falling down, falling down〜
(ロンドン橋が落ちる、落ちる、落ちる〜)」
「ねえ、いつまでその歌を口ずさんでるんだ?」
黒い詰襟の制服を纏った青年が、ウエストミンスター校の門へ向かって歩いていた。
彼の隣には小柄な少女。揺れるポニーテールが元気いっぱいの彼女、シャーロットだ。
「ジャック、ロンドン橋の歌って面白くない?」
シャーロットは無邪気に笑いながら話す。ジャックはため息をつき、呆れた顔で彼女を見る。
彼女はさらに興奮気味に続けた。
「だってさ、この歌、17世紀が舞台でしょ?吸血鬼や魔法の時代だったんだよ!」
「そんなの、現代に魔法なんてあるわけないだろ……」
ジャックは冷静に否定するが、シャーロットはまったく気にせず、伝説や魔法の話を熱く語り出した。
ジャックは呆れつつも彼女の話に付き合いながら、いつもの登校路を歩いた。
……
教室に着くと、シャーロットは周囲に明るく挨拶し、みんなの人気者だった。
ジャックは目立たず席へ着く。彼女といつも一緒にいるため、男子たちの嫉妬を買っていたのだ。
英語の授業が始まる。ジャックは苦手な科目でうんざりしていたが、シャーロットはこの時間が大好きだった。
彼女はアーサー王やマーリンの物語に夢中で、教科書以外にも熱心に関連書籍を読んでいる。
ジャックの鞄から、彼女に勧められた本が落ちた。中には一枚のメモが。
「これ、めっちゃ面白いよ!アーサー王と魔法使いマーリンの物語!」
ジャックは心の中で嘆いた。
(どうして彼女はこんなにできるんだ……俺には無理だ)
授業の退屈さに意識が遠のき、彼はいつの間にか夢の世界へと引き込まれた。
……
突然、彼は目を開けた。目の前には戦場が広がり、死体が累々と横たわっている。
アーサー王が金銀の甲冑をまとい、剣を一本の男の喉元に突きつけていた。
傍らにはローブを纏った老人、魔法使いマーリン。
ジャックはその光景が現実とは違うことを知っていたが、なぜか自分がその場にいることに気付く。
男の名はカイル。アーサー王の忠臣であり、友だった。
「……剣を……」
カイルは膝をつき、静かに言った。
「我が王よ、これは私の選択です。ブリタニアのため、闇に身を沈める。」
アーサー王は苦悩しつつも、涙をこぼしながら剣を振り下ろした。
剣が喉を貫き、血が飛び散る。王はその場に膝をつき、悲痛の声を上げた。
「お前の名は永遠に歴史に刻まれる。忘れはしない……」
叫びは誰にも届かず、戦場の風に消えていった。