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新たな攻略対象の登場 2

 翌朝、セシルが元気いっぱいに「おはよう!」と手を振りながら駆け寄ってくる姿を見て、エリスは軽くため息をつきながら挨拶を返す。

(まずは朝から何かやらかさないよう見張らないと……私の試練はまだまだ続くな……)


その日もセシルは笑顔全開で、「今日も図書室行こうね!」と無邪気に提案してきた。

(……頼むから今度は静かに…いや上手くやってくれよ)


エリスは再びセシルを連れて図書室に向かっていた。前日の出来事が頭をよぎり、(またルイスに会うことになったら……いや会えた方がいいんだけど…何かやらかさないか心配だな)と不安を抱く。


「エリス、今日は昨日よりも上手にお話できるように頑張るね!」とセシルが無邪気に言う。


(その“上手”の基準が既に心配なんだけど……)とエリスは内心ため息をつくが、セシルを止めることもできず、結局図書室の扉を開けた。


案の定、ルイスは昨日と同じ席で本を読んでいた。穏やかな空気を纏いながら集中するその姿は、ゲーム内での優等生キャラそのものだ。

この人、ゲーム画面よりも現実だとさらにオーラがすごいな……とエリスは感心した。

静かで落ち着いた空気が漂う中、セシルは意気揚々と手を挙げる。

「ルイス様! 昨日ぶりです!」

図書室に響き渡るその声に、ルイスだけでなく周囲の生徒たちも一斉にこちらを見た。エリスは「静かに!」と焦ってセシルを引っ張り、「図書室は静かにする場所だって言ったよね?」と小声で注意する。


「だって、遠くからじゃ聞こえないと思って……」とセシルがしょんぼりする。

ルイスは苦笑しながら「大丈夫だよ、そんなに気にしないで」と言い、二人を自分の席に招き入れた。


「昨日は突然来て驚いたけど、今日はもう少しゆっくり話せそうだね」とルイスが言うと、セシルは「昨日のお話、勉強になりました! 私、今日はもっと本についてお話ししたくて!」と目を輝かせた。

エリスはその目の輝きが不安要素でしかない……と内心思いつつ、フォロー体制に入る。


「そうなんだ。セシルさん、本はあまり好きじゃなさそうだったけど、今日はどんな話をしたいの?」とルイスが優しく問いかけると、セシルはニコニコしながら近づき、「 今日は紙の触り心地について語りたいです!」と言い出した瞬間、再び嫌な予感がした。


「紙の触り心地……?」とルイスは困惑した表情を浮かべる。

「はい! 昨日からずっと気になってたんですけど、分厚い本のページって、ペラペラした薄い本と触り心地が違うじゃないですか! それがすごく面白くて!」とセシルは真剣な表情で語り始めた。

(いやいや、そんな感想を真顔で言う!? ここは普通、内容の話をするところでしょ!)とエリスは内心ツッコミを入れつつ、すぐにフォローに入る。


「セシルは感覚的なことに敏感なんです。書物の触感や匂いなど、五感を使って本を楽しむタイプでして……特に、古い書物の風合いや製本技術に興味を持っていまして」と必死に説明するエリス。

「なるほど、そういう楽しみ方もあるんだね」とルイスは納得したように頷く。

「そうなんです! 例えば、古代の魔法書なんかは紙の質感が独特で、保存状態によって触り心地が変わるんですよ!」とエリスはそれっぽいことを言って話を広げる。

「へえ、そんなことまで知っているんだね。俺も魔法書を読んだことはあるけど、触り心地までは意識したことはなかったな」とルイスは興味深そうに言った。


「はい! 本の紙の質感っていいですよね! 特に分厚い紙だと手が気持ちよくてついペタペタ触っちゃうんです!」と満面の笑みで話すセシル。

(誰がそんなマニアックな感想を言えと教えた!?)とエリスは内心ツッコミを入れたが、ここで黙っているわけにはいかない。

「そういうのって意外と大事なんですよね。私たちもまだ学園に来たばかりなので、色々な本を触ってみて慣れていこうかなって思っています!」と無理やり話を繋げる。


「そういえば、ここにはどんな種類の魔法書が多いんですか?」と話題を変えるためにエリスが質問を投げかけると、ルイスは少し考えてから答えた。

「基本的には初級から中級の魔法書が中心だね。ただ、学園の奥にある特別書庫には貴重な魔法書も保管されているよ。実は一度だけ許可を得て見たことがあるんだ」


「特別書庫……!」とエリスは内心興奮した。ゲームの中でも重要なイベントが発生する場所だ。

「すごいですね! その特別書庫にはどんな本がありましたか?」とさらに話を広げるエリス。


「魔法理論に関する古典や、伝説級の魔道具について書かれた書物など、非常に貴重なものばかりだったよ。ただ、閲覧には厳しい制限があって……」とルイスが話している間、セシルはポカンとした顔で聞いていた。

「特別書庫って、やっぱり王族しか入れないんですか?」

「いや、許可さえ取れれば入れるけど、まあ簡単にはいかないだろうな」とルイスは苦笑する。

「へえ、いつか私も行けるといいな……」


「そうだ、セシルさん。もし魔法書の製本について興味があるなら、この本も面白いかもしれないよ」とルイスが棚から一冊の本を取り出す。

「ありがとうございます! これを読めば、もっと魔法に詳しくなれそうですね!」とセシルは本を受け取りながら礼を言った。

「エリス、次はどんな本を読もうかな? ルイス様におすすめの本を全部教えてもらおうよ!」とセシルは楽しげに言うが、その言葉を聞いてエリスは冷や汗をかいた。

「そ、そうだね! でも、まずは今日借りた本をちゃんと読もうか?」

「んー…まぁ…それもそうだね!」


「ルイス様、今日のお話とても勉強になりました。本当にありがとうございます。私たちはそろそろ失礼させて頂きます」とエリスが丁寧に礼を言うと、ルイスは軽く手を振って「そんな堅くならなくていいよ」と笑った。

「えーもう帰るの?」

セシルが不服そうに口を尖らせる。

「だって、そろそろ帰らないと今日の課題をやる時間がなくなるでしょ」

「ここでやればいいじゃない?」

「駄目だよ。寮じゃないと絶対セシルはやらない。ここだと寝ちゃうでしょ」

「えー、そんなことないよ?私、ここなら集中できると思うんだよね!」とセシルが目を輝かせて反論する。

エリスはじとっとした目でセシルを見つめ、「前も同じこと言って、図書室で寝そうになってたでしょ?」

「いやいや、あれは本があまりにも心地よくて、紙の触り心地が癒し効果を発揮しただけで――」

「ほら、寝ちゃうじゃない」

「でも、ここにいると賢くなった気がするんだよね!」とセシルは胸を張る。

「賢くなるのは気分だけでしょ!頭に知識を入れるのが先!」とエリスがツッコミを入れる。


ルイスは二人のやり取りを微笑ましそうに見つめ、「君たち、見ていて飽きないな。セシルさんってさ、思ったことそのまま口にするタイプだよな?」

「そうなんです。正直すぎて見てるこっちはひやひやしますよ……」とエリスがため息をつく。


「でも正直って大事じゃない?」とセシルがキラキラした目で言う。「ほら、正直者はバカを見るって言うでしょ!」

「その言葉は正直者に対する警告でしょ」

「じゃあ、正直に言うけど……私、ここで課題をやりたい!」とセシルが堂々と宣言する。

「正直すぎるんだよ!帰ってからやろうね!」とエリスがぐいっとセシルの腕を引っ張った。

「またいつでも来てくれ。君たちと話すと、新しい発見がある」とルイスは微笑んだ。


エリスはそんなルイスに軽く頭を下げ、図書室を後にする。エリスは「今日はなんとか無事に終わった……」と安堵するのだった。

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