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ディランとセシルの初対面

エリスは朝からソワソワしていた。


(今日こそはなんとかしてセシルとディラン様を引き合わせたい……でも、あの天然っぷりを考えると不安しかない!セシルをなんとかしてディラン様と引き合わせたいのに、肝心のディラン様と会うタイミングもなかなか掴めないし……好感度を上げるための大事な初対面イベント、どうしたらいいのよ!)


セシルはといえば、のんきに空を見上げながら「雲がふわふわしてる~」と呟いている。


「セシル、そんなことより次の授業に遅れるよ!急いで!」

「あの雲、何か美味しそう!」

「そんなこと言ってないで早く歩いて!」

隣を歩くセシルは、そんなエリスの焦りも知らずに「この廊下、やけにツルツルだね~」と床を眺めながら歩いている。


「いや、そんなことどうでもいいから!ほら、前見てちゃんと歩いて!」必死にセシルを引っ張りつつ、エリスは心の中で焦っていた。


(推しとヒロインの出会いを成功させるのが私の使命なのに、この調子じゃ道のりが遠すぎる……!)


そんな時だった――


「また会ったな」

聞き覚えのある低い声が前方から響いた。


顔を上げると、そこにはいつものツンとした表情のディラン王子が支柱にもたれかかり、腕組みをしてこちらを見ていた。


(う、嘘ー!?推しがいる!?しかも話しかけてくれた!?神様ありがとう!)


「え、ええ、偶然ですね……」とエリスがぎこちなく返事をする横で、セシルは呑気に「あれ?この人、どこかで見たような気がする」と首をかしげている。

(ちょっとセシル、王子に向かってその反応はないでしょ!?)


「学園で俺のことを知らない奴なんていないだろう?」とディランが眉をひそめる。


「すみませんディラン様!セシルは少し……その……少しとぼけた性格でして!」とエリスが慌ててフォローする。

セシルはそれを聞いて、「それって褒め言葉だよね?」とキラキラした目で尋ねてくる。

「違うから!褒めてないから!」とエリスは全力でツッコむ。

「ディラン様はもしかして貴族の方ですか?」とセシルが突拍子もない質問を投げかけた。


「……は?」

ディランの表情が一瞬固まる。


(いやいやいや、貴族どころか王族だから!今さら何その質問!?)

「だって、すごく高貴なオーラが出ていて王子様みたいだから、きっと偉い人なんだろうなって思って!」とセシルはニコニコしながら言う。

(王子様みたいっていうか、本当に王子様だから!)

エリスは冷や汗をかきながら、「あの、本当に申し訳ありませんディラン様。彼女、少し世間知らずなもので……」と再びフォローに回る。


「……世間知らずすぎるだろう」とディランは呆れつつも、「まあ、別に害はなさそうだがな」と小さく笑った。


(よかった……なんとかフォロー成功…かな?とにかくここで好感度が下がらなくて助かった!)

「それでディラン様、私に何の用でしょうか?」

エリスが恐る恐る尋ねると、ディランはわずかに眉をひそめて――


「……別に」


「えっ?」


予想外すぎる返答に、エリスは一瞬固まった。

(いやいやいや、『別に』ってなに?急に話しかけておいて、それはないでしょ!?)


セシルが興味津々に口を挟む。「別に、って何だかかっこいい響きですね!」


いや、かっこよくないから!ただの会話終了宣言だから!と、心の中で必死にツッコむエリス。


ディランは軽く咳払いをして、「その……たまたま通りかかっただけだ」と視線をそらす。

(ツンデレ発動してる……!これはゲームで見たツンツンモードだ。か、可愛いすぎる…!)


「でもディラン様、せっかくですし何かお話ししましょう!」とセシルがキラキラした笑顔で提案する。

ディランは一瞬戸惑ったようだが、「……まあ、少しなら」と不機嫌そうに答えた。

「わーい!じゃあ、ディラン様って普段どんな趣味があるんですか?」

「は?趣味……?」

「そうです!お休みの日とか何をしてるのかなって、すっごく興味があって!」


ディランは困惑した表情で黙り込む。(え、予想外の質問で詰まってる?ディラン様、こういう質問慣れてないの?嘘でしょ?)


「そ、そうですね、ディラン様は読書とかでしょうか?」とエリスが必死にフォローを入れる。

「……まあ、そうだな。暇な時は本を読む」

ディランが無理やり答えをひねり出した感満載で応じる。


「へえ~、ディラン様って意外とインドア派なんですね!」とセシルが感心して言う。

「……意外とは余計だ」

「でも、ディラン様が読んでいる本ってきっと難しいものなんでしょうね……」とセシルが呟くと、ディランは「別に、普通だ」とさらっと答える。


「普通ってどんな本ですか?」

「……王家の歴史とか、戦略書だ」

「えー、やっぱり難しそう!」

「だろうな、お前には理解できない内容だろう」

「そうなんですね!でもディラン様、すごいです!私も今度、そういう本を読んでみます!」

「……無理するな。お前には向いていない」

(それ言っちゃう?いや、確かにセシルには無理だろうけど!)


するとセシルが、思いついたようにポンっと手を叩いた。「じゃあディラン様って、戦略とか得意なんですよね?やっぱり戦場で旗を振って『突撃ー!』とか言うんですか?」


「……は?」


ディランの表情が一瞬で固まり、エリスは慌てて「セシル、それは物語の中の話だよ!リアルな戦場ではそんな派手な指揮なんてしないんだよ!」とフォローを入れる。


「えー、そうなの?でも、それじゃあどうやって指揮するの?」

「普通は……」とディランは少し考え込む。「旗を振るのではなく、的確な指示を出して隊を動かすものだ」

「じゃあ、『進めー!』とか『左に回れー!』とか言うんですか?」

「……そんな単純なものではない」

「えー、でも簡単な方が伝わりやすくないですか?」と純粋に問いかけるセシル。

「セシル、ディラン様は実戦の経験も豊富なんだから、そんな素人考えで言うことじゃないよ」と危険を感じたエリスは半ば強引に話を打ち切った。


「そっか、難しいんだね。でもディラン様なら、戦場でもすごく頼りになるんだろうなあ!」

ディランは少しだけ目を細め、「……まあ、そうだといいがな」と言って視線を逸らした。


セシルは相変わらず無邪気に笑っている。「じゃあ、戦場じゃなくても普段から『進めー!』とか言って隊列組んでるんですか?」

「……だから、そういうことはしないと言っただろう」ディランは呆れたように言いながらも、どこか微かに口元を緩ませていた。


エリスは内心で(なんだろう、この会話……でも推しは悪い気はしてなさそうだからセーフ!?)と必死に自分を落ち着かせるのだった。


ディランはそっけない態度を装いながらも、セシルの無邪気な質問に淡々と答えていた。「戦場では統率力と判断力が重要だ。隊列を組むのは効率的な移動のためだ」

「へえ~、ディラン様って隊列を組ませるのが上手なんですね!ねえエリス、隊列って私たちも組んだ方がいいかな?次に廊下を歩くときに『進めー!』って言いながらみんなで並んで歩くのってどう?」

「ちょ、やめて!廊下でそんなことしたら確実に注目の的だから!」

ディランは眉をひそめながら「……お前は一体何を考えているんだ」と呆れたように言う。

しかしセシルはまだ続ける。「でも、もし私たちが本当に隊列を組んで歩いたら、みんなびっくりして面白いと思わない?」


「いやいやいや、そんな珍行動を本物の王子様の前で提案しないで!!」


「えっ……本当にお、おうじさまなの?」とセシルが間の抜けた声を上げる。

(いやいや、反応遅すぎるでしょ!?普通もっと早く気づくよね!?)


「そ、そうだよセシル!この方はこの国の王子様なんだよ!敬意を払ってね!」とエリスが必死に言うと、セシルはようやく「あ、王子様だったんですね!すみません、全然気づきませんでした!」と笑顔で謝った。


ディランは軽くため息をつき、「……別にいい」とそっけなく答えたが、どこか呆れた様子だ。

「王子様って普段何をしてるんですか?」と無邪気に質問するセシル。

「……勉強と訓練だ」

「へえ~、やっぱり王子様って忙しいんですね!でも、訓練ってどんなことをするんですか?剣を振り回したり?」

「……まあ、そんなところだ」

「えっ、じゃあ剣で夜な夜な魔物を退治したりとかするんですか!?」

ディランの表情が固まった。「……しないが」

「そっか、じゃあ魔物ってやっぱりお城には来ないんですね!」

「…………」


(もうやめて!推しがどう答えていいか困ってるから!!)


「セシル!そろそろ授業に遅れちゃうから行こう!」とエリスが無理やり話を打ち切ろうとする。


しかしセシルは「でもせっかくだし、もう少しお話したいな~」と名残惜しそうに言った。

ディランは軽く咳払いをし、「……悪いが、俺も次の予定があるのでな」と言い残し、背を向けて歩き出した。

「わあ、王子様って本当に忙しいんですね!またお話してくださいね!」とセシルは明るく手を振った。

ディランは一瞬立ち止まり、少しだけ振り返って「……また会ったらな」とそっけなく言い、去っていった。


学園の廊下を歩きながら、エリスは肩を落としつつも内心ほっとしていた。(はあ、何とか推しとセシルを無事に引き合わせられた……セシルの発言にハラハラしたけど、ディラン様が怒らなくてよかった!)


横を歩くセシルは「ディラン様って意外と優しい人だったね!またお話したいな~」と無邪気に笑っている。

「うん……でも、次はもっと失礼のないように会話しようね」とエリスは苦笑する。


ふと、ディランの表情を思い出す。呆れながらも、どこかセシルとの会話を楽しんでいるように見えた――そんな彼の顔が脳裏に浮かび、エリスは胸の奥がモヤモヤするのを感じた。


(……なんだろう、この気持ち。推しとヒロインが仲良くなるのは喜ぶべきことなのに、なんで私、こんなに複雑な気分になってるんだろう…て、理由ははっきりしてるか)


エリスは一瞬立ち止まり、頭を軽く振った。(違う違う!私はただのモブなんだから、変なこと考えちゃダメ!推しが幸せになるのを見届けるのが私の役目なんだから!)


「エリス、どうしたの?ぼーっとしてると授業に遅れちゃうよ!」とセシルが声をかける。


「うん、分かってる……行こう!」

エリスは気を取り直して、セシルと共に歩き出す。


結局授業には遅れてしまった。

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