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月夜の想定外

ディランとセシルが美しい泉の前で佇む中、エリスは少し距離を取って二人を見守っていた。だが、セシルがちらりとエリスの方を見て手を振る。


「エリス、こっちおいでよ!せっかく一緒に来たんだし!」


(いやいやいや!ここは二人きりになるべき場面……!)

エリスは内心焦るが、ディランまで「そうだな、お前も来い」と冷静に声をかけてくる。

(私は背景でいいんですよ!)

心の中で叫びつつも、二人の視線を無視するわけにもいかず、仕方なく近づくエリス。

「い、いや私は遠慮しておきます。ここ、広いですし、二人でゆっくりしてください」


「えー?何で遠慮するの?エリスも一緒に楽しもうよ!」

セシルは不思議そうな顔をしながら、にこにことエリスの腕を引っ張った。

(天然恐るべし……!)

エリスは引きずられるまま二人に合流する。

その場をどう取り繕うか考えながら、ふと泉のほとりを見渡したエリスは、妙に広々とした空間に気づいた。「あ、ここ、意外と広いですね……踊るのにちょうど良さそう」


その言葉に、セシルの目がぱっと輝く。

「ほんとだ!せっかく特訓したのに、あんまり踊れなかったもんね。ねえ、ここで踊ろうよ!」


次の瞬間、セシルはディランに向かうのではなく、エリスの方に駆け寄った。

「ディラン様、見ててください!私たちの特訓の成果を見せますね!」

そう言うなり、セシルはエリスの手を取り、にっこり笑った。

(えっ……ちょっと待って、なんで私!?)


エリスは目を見開くが、セシルはお構いなしにリードを始める。

「ほらほら、ステップ合わせてね!」

エリスはセシルに手を引かれるまま踊り始めていたが、内心では焦りが渦巻いていた。

(……この展開は違うでしょ!ここはディラン様とセシルが二人で踊るシーンにしなきゃいけないのに、なんで私が踊ってるの!?)


セシルは楽しそうに笑顔を浮かべ、軽やかにステップを踏んでいる。

「エリス、上手だよ!私、いますごく楽しい!」

セシルが無邪気に言いながら手を引いて回る。

(ああもう、この天然笑顔には勝てない……!)

エリスは心の中でため息をつきつつも、気づけば自分も少し笑っていた。


(確かに……特訓のときは必死だったけど、こうして踊ってみると楽しいかも。セシルと一緒に頑張った時間が思い出されて、なんだか胸が温かくなる)


しかし、その温かさを感じると同時に、エリスはハッと我に返った。

(いや、違う違う!こんなことに気を取られてる場合じゃない!私はセシルとディラン様の親密度を上げるためにここにいるんだから!)


そう思っても、楽しそうに自分をリードするセシルの姿を見ていると、つい口元が緩んでしまう。

「エリス、次はこうだよ!」

セシルは手を取ったままくるりと回り、エリスを引き込む。

「ちょっと、セシル!引っ張りすぎだってば!」

文句を言いながらも、ついていく自分がいた。


(……ほんと、仕方ないな。もう少しだけ、この時間を楽しんでみてもいいかな)


そんな二人の様子を、ディランは少し離れたところから無言で見つめていた。


「ねえディラン様、どうですか?私とエリスのダンス、上手いと思いませんか?」

「……悪くないな。けれど、まだ動きがぎこちない部分もある。特に回転のタイミングだ」

「そっか~、やっぱり難しいね!」

そして次の瞬間、何のためらいもなく再びエリスの手を取る。

「さあ、もう一回練習しよう!」

「ちょ、ちょっと待って! もう十分踊ったから!」

エリスは慌てて手を振り、必死に抵抗する。

(このままだと延々踊る羽目になる! いや、それよりもここら辺で正規ルートに戻さなきゃ!)



ディランは二人の様子を静かに見守っていたが、ふと視線をセシルへと向け、少し低い声で呟いた。

「……舞踏会では、最後まで踊れなかったからな」

その言葉に、セシルは目を瞬かせた。「え?」

ディランはゆっくりと手を差し出す。

「セシル、俺ともう一度踊らないか?」

「え、えっと……私でいいんですか?」

セシルは戸惑いながらも、差し出された手に視線を落とす。

「ここなら邪魔も入らない。それに、お前の踊りは楽しそうでいい」

その一言にセシルは嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、お願いします!」

セシルははにかみながらも、迷いなくその手を取った。その瞬間、二人の間に穏やかな空気が流れ、ささやかな再会のステップが静かに始まった。



ディランにリードされながら、セシルは少しずつリズムを掴み、軽やかにステップを踏んでいく。時折ぎこちなさは見えるものの、それすらも微笑ましく映るほど、二人の間には和やかな空気が漂っていた。


ディランはセシルを優しく導きながら、自然と彼女のペースに合わせているようだった。

時折セシルが間違えても、ディランはそれを巧みにカバーし、二人の足取りは滑らかに続いていく。

月明かりに照らされた特別な空間で踊る二人は、まるで静かな夜の中に咲く一輪の花のように輝いていた。


(うん、完璧だ!クラリスもこれを見たら悔しがるに違いない!)


エリスは二人の邪魔にならないよう距離を取って静かに見守り続けた。


「ディラン様、本当にありがとうございました!」

セシルは満面の笑みで感謝を述べた。「今日のこと、絶対に忘れません!」

「大袈裟だな。ただ、お前にとって良い思い出になったのなら十分だ」

セシルはその言葉を聞き、さらに嬉しそうに微笑んだ。

「はい!本当に素敵な時間でした!」


エリスはそのやり取りを見て、一人達成感を感じていた。だが、その時、セシルが思いもよらない言葉を口にする。

「ディラン様、エリスと踊ってくれませんか?私、エリスにも素敵な思い出を作ってほしいんです!」


(ええええええっ!?)

エリスは思わず目を見開いた。


ディランはセシルの突然の提案にわずかに目を細め、エリスの方に視線を向けた。その鋭い瞳に見つめられたエリスは、一瞬で心臓が跳ね上がる。


(いやいや、待って待って、心の準備がー)

「わ、私はいいよ!」

エリスは慌てて両手を振り、必死に拒否の意思を示す。

「ディラン様に迷惑かけたくないし…」

ディランはエリスの言葉を聞き、淡々とした口調で言い放った。

「…別に、迷惑ではないが」

「えっ……え?」

エリスは思わずディランの顔を二度見した。

「セシルが言うように、お前にも思い出が必要だろう」とディランはさらりと言い放つ。

「じゃあ決まりだね!」

セシルは無邪気な笑顔でエリスの背中を後押しする。


ディランはそんなエリスを見つめたまま、無言で手を差し出す。

エリスは視線を彷徨わせ、心の中で必死に状況を整理しようとする。しかし、冷静になれるわけもなく、鼓動は早まるばかりだった。

(え、これどうするの!?断ったら空気悪くなるし、かといって踊ったら何か変なことが起きそうな気もするし……うう、選択肢がない……!)


「……じゃあ、少しだけ……お願いします」

小さな声でそう呟くと、ディランはわずかに頷き、エリスの手をしっかりと握った。


その瞬間、周囲の空気が少し変わったように感じた。エリスは緊張で心臓が爆発しそうだったが、そんな彼女を気にすることなく、ディランはゆっくりと歩みを進める。


セシルは少し離れた場所から、微笑ましそうに二人を見つめていた。

「エリス、頑張ってね!」


エリスの心は混乱でいっぱいだったが、ディランの落ち着いた手の動きに導かれ、自然と踊りの体勢へと移っていった。


(仕方ない……ここまで来たら、せめて無難に踊って終わらせるしかない!)


こうして、月明かりの下、エリスとディランの二人のダンスが静かに始まろうとしていた——。


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