ヒロインの天然さ 2
「いや、なんでこの子こんなに天然なの?」
エリスはセシルと一緒に歩きながら、心の中で盛大にツッコんでいた。というのも、セシルが驚くほどイベントフラグを見逃し続けているのだ。
たとえば、ある日。
「セシル、あの王子様みたいな人に話しかけてみない?」
「えっ? でも、私みたいな庶民が話しかけるなんて、失礼じゃないかな……」
(いやいや、そこは話しかけるべきでしょ! ゲーム的に重要なフラグなんだから!)
別の日には、庭園でディランが一人で本を読んでいるのを見かけた。これはゲーム内で重要なイベントの一つで、ヒロインが偶然通りかかってディランと会話をするきっかけになる場面だ。
「セシル、今日は天気もいいし、庭園でお茶でもしていかない?」と、自然な流れで誘導するエリス。
「えっ、庭園? 勝手に入っていいの? でも、私、お花に話しかけるのが好きだから、迷惑かけちゃうかも……」
「それ、迷惑とか以前に普通に変な行動だよね!?」
ある日は
「うーん、上級生のいる教室に行くのはちょっと緊張するなぁ……だから、今日はやめておこうかな!」
(いや、行こうよ! 行ったらイベントが発生するはずなんだから!)
「えっ、あの人に話しかけるの? でも怖そうだから、別の人にしようかな~」
(いや、その人に話しかけるのがフラグになるなんだってば!)
エリスは必死に誘導しようとするものの、セシルはその天然っぷりをいかんなく発揮し、見事にイベントフラグを回避し続ける。
「こんな調子でこの子、本当に大丈夫なの?」
セシルの驚異的なフラグ回避力に、エリスは不安を隠せない。もはやヒロインの素質を疑うレベルだ。
(このままだと、本当にノーマルエンドかバッドエンド直行…いやそれ以下よ…)
エリスは頭を抱えながら、再び考え込む。そして、一つの結論に至った。
(こうなったら、私がイベントを修正するしかない!)
ゲームの知識をフル活用し、ヒロインを補佐してイベントフラグを立て直すことを決意したエリス。その表情はどこか使命感に燃えている。
その後も、セシルの天然さに振り回されるエリスだったが、彼女は決して諦めなかった。「私が支えれば、きっとセシルはちゃんとヒロインらしくなれる……はず!」
周囲からは「仲がいいわね」と微笑ましく見られていたが、エリスの心の中はすでに戦場だ。「頼むから、フラグを立ててくれ……!」と、祈るような気持ちで今日もセシルのサポートを続けるのだった。