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ルイスの特訓

「じゃあまず、俺がセシルさんと踊ってみるから、君は見てて」

そう言ってルイスはセシルの手を取り、優雅にステップを踏み始めた。

「わぁ、すごいですルイス様!本当に上手なんですね!」

セシルは感激した様子でルイスを見上げる。

「まぁ、こんなことするの久しぶりなんだけどね。君も練習すれば上達するよ」

ルイスは穏やかな微笑みを浮かべ、優しい声で励ます。その余裕ある姿勢と自然なエスコートに、セシルはすっかり魅了されている様子だった。


そんな二人の姿を少し離れた場所から見つめていたエリスは、思わず息を呑んだ。

(うわっ……こうして見ると、二人とも絵になるな……)

ルイスの洗練された所作とセシルの無垢な笑顔はまるで本当の舞踏会のワンシーンのようだ。


しかし、その平和な時間も長くは続かなかった。

「いてっ……セシルさん、今俺の足を踏んだよね?」

「え!?ごめんなさい!なんだかステップが難しくて……」

セシルが申し訳なさそうに俯くと、ルイスは優しく微笑んで「大丈夫。最初は誰だってそんなもんだよ」と穏やかに言った。


「でも、次はもう少し意識して踏まないようにしようか。踊りは足を踏まないのが基本だからね」

「え、えぇ……わかりました……」

セシルが恐る恐る頷く。


「じゃあ次、エリスさんに交代ね」

「あ、はい!」

ルイスに手を取られ、エリスはぎこちなく踊り始める。

「ほら、もっとリズムを意識して。つま先からしっかり踏み込んで……そう、そこで回って!」

(いや無理無理!急に回れとか言われても体がついていかないですから!)

案の定、エリスはドレスの裾を思い切り踏んで転倒しかけた。


一方ルイスは涼しい顔をして「体は動かしながら覚えるものだよ」とさらりと言ってのける。


(くっ……この優しげな笑顔で容赦ない指導、完全に名門貴族の特訓だ……!)


そんな二人のやり取りを見ていたセシルは、「わぁ、エリスすごい!ちゃんと踊れてる!」と感激して拍手を送る。


「いやいや、いま私、転びそうになってたよ!全然これじゃ駄目…」

「はは、でも最初の頃よりはまだましだよ。少しずつコツを掴んできたんじゃない?」

ルイスが楽しそうに笑う。


「さ、次はセシルさんとペアを組んでもう一度やってみようか」

セシルとエリスはルイスに指示されるがまま踊り出す。

「もう少し手の角度を上げて、セシルさんは足を軽く、エリスさんはリードをしっかり……うん、その調子!」

エリスは泣きそうになりながらも、必死でステップを踏む。


ルイスの特訓が始まってから二時間が過ぎた。

「うん、前よりは良くなってきたね。じゃあ、次はターンの練習」

「えぇー!?またターンとか無理ですー!」

「無理じゃないよ。ほら、こうやって腕を――」

ルイスは優しい声で丁寧に教えるが、その動きは容赦なく速い。エリスとセシルは揃ってふらふらになりながらも必死についていく。


「わぁ……私、さっきより回れました!」とセシルが歓声を上げると、ルイスは満足げに頷いた。

「うん、少しずつ形になってきてるよ。この調子であと百回くらいやっておこうか」


「百回!?それ、明日まで体が持たないんですけど!?」

セシルの叫びに、ルイスは「大丈夫、筋肉痛は成長の証だから」とさらりと答える。



「はい、セシルさん、もう一回ね。」

「えぇぇ、またですかぁ~!?もう足がぐにゃぐにゃになりそうですぅ……」

セシルは情けない声を上げながらも、渋々ステップを踏む。

「踊りは体で覚えるものだから、回数をこなさないとね。きっと最後にはうまくなるから、諦めずに頑張ろう」

ルイスは優しい笑顔を見せるが、その裏には容赦ないスパルタのオーラが漂っている。


「ねぇルイス様、ちょっと休憩させてくださいませんか!私たち、限界がきています!」

エリスが必死に懇願する。

「ん?もう限界なの?」

ルイスは驚いたようにエリスを見つめた。「じゃあ、休憩は30秒ね」

「30秒!?それ、休憩って言いませんよね!?」

エリスは思わず叫ぶ。

「いやいや、30秒って意外と長いよ?ほら、1、2、3……」

ルイスは本気で数え始める。


「ルイス様、そんな優しい顔してとんでもないこと言ってません?」

「え?優しく言ってるんだから大丈夫だろ?」

「言い方が優しくても内容が鬼畜なんですけど!?」

セシルはそんな二人のやり取りを見ながら、ぼそっと呟いた。

「ルイス様って、お優しいのに……心の中は鬼みたいですね……」


「セシルさん、それはいい例えだね。でも、その鬼を乗り越えたら君たちも素敵な舞踏会デビューができるよ」

なんか言いくるめられそうになってるけど……絶対おかしいでしょこれ!と心の中で叫びつつエリスは額に浮かんだ汗を拭いながら、息を整える。


「ほら、次こそリズムに乗って。エリスさん、右足はもう少し軽く出してみて。それからセシルさん、回るときはもうちょっと軸を意識してね」

「……あの、ルイス様。申し訳ありませんが、私たち素人はそんなプロみたいなアドバイスされても、すぐには理解できないんです」

エリスが息を切らしながら少し呆れたように言う。

「うーん、じゃあ簡単に言うと――『優雅に、でも情熱的に』かな?」

「簡単に言ったつもりが逆に難しくなってる!」

そんなこんなで特訓は続き、二人は何度も転んだりつまずいたりを繰り返しながらも、着実に踊れるようになっていく。


「うん。少しはマシになってきたかな?」

ルイスはようやく手を止め、二人を見つめる。

「や、やった……これで少しは下手じゃないレベルになった……」

エリスは息を切らしながらも、達成感に満ちた表情を浮かべた。

「いやー、最初はどうなることかと思ったけど、これなら当日も大丈夫かもしれないな。うんうん、さすが俺。君たちの努力ももちろんだけどね」

「今さらっと自分だけ褒めませんでした?」

エリスが即座にツッコミを入れるが、ルイスは涼しい顔をしている。


「ま、褒められたいならあと十歩だね。でも、この調子で毎日特訓すれば本当に優雅に踊れるようになれるよ」

「えっ、これを毎日ですか……?」

「もちろん。舞踏会は一発勝負だからね。練習でできないことは本番でもできないよ」

「鬼教官……」

エリスが涙目で呟くと、セシルも「鬼教官……!」と同調する。


「よし、ラスト1セットだ」

爽やかに微笑むルイスの号令のもと、再び特訓が始まったのだった――。

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