ヒロインの天然さ
エリスは女子寮の廊下を歩きながら、心の中で決意を新たにしていた。「推しを救うためにはヒロインであるセシルと友達になることが第一歩よ!」
ゲーム『プリンスオブハート』の世界では、ヒロインが攻略対象たちと出会い、交流を深めていくことで物語が進む。だが、そのヒロインを補佐する友人キャラであるエリスの存在も一応重要ではある。ゲームでもエリスが何かとヒロインを励まし、攻略のヒントを教える役割を担っていた。
「私がしっかりサポートしてセシルを導いてあげれば、推しであるディラン様も幸せになれる……!」
そんなことを考えながら歩いていると、廊下の向こうからふわふわとした亜麻色の髪を揺らしながら少女が近づいてきた。
「あれが……ヒロインのセシル!」
ゲーム内で見慣れた天使のような笑顔を浮かべている少女を一目で見て、エリスは確信する。あの特徴的なふんわり感とおっとりした雰囲気は、紛れもなくヒロインそのものだ。
「よし、まずは自然に声をかけて友達になるところからだわ」
エリスが話しかけようと一歩踏み出したその瞬間――。
「わぁっ!」
突然、セシルが足をもつれさせて転びそうになった。
「危ない!」
エリスはとっさに手を伸ばし、セシルの腕を掴んで転倒を防ぐことに成功する。
「だ、大丈夫?」
「ありがとうございます……私、よく転んじゃうんです……えへへ……」
セシルは照れくさそうに笑いながら頭を下げた。その無邪気な笑顔に、エリスは少し胸をときめかせる。
「可愛い……これがヒロイン力……」
思わず心の中で感嘆するエリスだが、すぐに我に返る。今はとにかく友達になることが先決だ。
「えっと、私はエリス。君のことはよく見かけてたけど、話すのは初めて…だよね」
「私はセシル・ハートレインです。あの、私と友達になってください!」
突然、目の前の少女――セシル・ハートレインが、キラキラと輝く瞳で手を差し伸べてきた。
「もちろんいいけど……どうして急に?」とエリスは戸惑いながらも尋ねる。
「だって……エリスさん、きっとすごく優しいから!」
いや、今会ったばかりじゃん!
まさかの第一印象のみで友達認定されるという謎の展開に、エリスは思わず心の中でツッコんだ。しかし、友達になるという目的はあっさり達成できた。
「……まぁ、友達になれたのはいいことよね。」
そんな風に安堵していたエリスだが、数日後には深刻な悩みを抱えることになる。