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こんな展開はゲームにない!

「ちょっと、あなた」

廊下を歩いていたエリスの背後から、高慢そうな声が響いた。振り返ると、そこにはまさに“高貴な令嬢”の風格を漂わせる クラリス が立っていた。


(うわ、クラリス! 嫌な予感しかしないんだけど……)

エリスは一瞬で察しつつも、できる限り穏やかに対応する。

「私に何かご用でしょうか?」

無駄に波風を立てたくない。ここでの選択肢を誤れば、ゲームと同じく セシル、もしくは自分が孤立する最悪の展開 になりかねない。慎重にいかなければ――。


「ええ、少しあなたとお話ししたくてね。ここだと話しにくいし、ついてきてくれるかしら?」

(え、ついていく流れ!?)

一瞬逃げるべきか考えたが、二人きりの方が 余計な誤解を招かずに済む と判断し、大人しく従うことにした。


「着いたわ。ここなら、お互いに話しやすいでしょう?」

クラリスは冷ややかな目でエリスを見下ろす。ここは学園の裏庭――静かで人目につかない、 悪いことをするには絶好の場所 だ。

エリスは内心ため息をつきながらも、表情には出さずに冷静に対応する。


「それでクラリス様、私に一体何のご用でしょうか?」

波風を立てないよう、できるだけ穏やかに問いかける。

「別に大した用じゃないわ。ただ――最近、あなたがディラン様やルーク様と親しげに話しているのが目に余るだけ」

クラリスの声には明らかな敵意がこもっている。


(きた! 完全にゲーム通りの意地悪イベントじゃん!)

しかし、ここで反論すれば事態は悪化するだけ。エリスは 慎重に言葉を選ぶ ことにした。

「私がディラン様とお話しするのは、すべて業務的な内容のことでーー」

「ふぅん?本当にそうかしら?」

クラリスは鼻で笑い、扇を広げて優雅に仰ぐ。

「あなた、ただの一般人のくせに最近妙に目立っているわよね。庶民の分際で王族貴族に取り入ろうとしているようにしか見えないわ」

(出た!クラリスの嫌味炸裂!)


エリスが何とか言い返そうと口を開きかけた瞬間――


「クラリス、やめろ」

聞き慣れた低い声が響き渡った。


「彼女に嫌がらせをするのはやめろ」


ディランの冷えた声が静かに響き渡ると、場の空気が一瞬で凍りついた。

鋭い眼差しを向けられ、クラリスは一瞬言葉を失ったように固まる。


「ディラン様、そんな言い方をしなくても……私はただ――」

「聞こえなかったか?やめろと言ったんだ」

ディランの鋭い声が、容赦なくクラリスの言葉を断ち切る。

クラリスは悔しそうに唇を噛んだが、何も言い返せず、そのまま足早に去っていった。


(え、何この展開……私、ヒロインじゃないんだけど!?)

エリスはその場に立ち尽くしたまま心の中で叫ぶ。目の前で繰り広げられたのは、まさに 乙女ゲームの王道展開。

しかし、問題は それが自分に起きたという点だった。


「大丈夫か?」

ディランが少しだけ眉をひそめてエリスを見下ろしてくる。その顔はどこか心配そうだ。


「え、あ、はい!全然平気です!でも、どうしてディラン様がここに…?」

「……クラリスは昔から階級制度にこだわりすぎている。特に庶民や下位貴族を見下す傾向が強い」

ディランは淡々と語りながら、視線をわずかに逸らした。

「特に、お前みたいに目立つと標的になりやすい。……昔からやり口が同じだからすぐに分かった」

「え、ええっと……ご忠告ありがとうございます。でも、私、そんなに目立ってるつもりは……」

「いや、十分目立ってる。今日も派手に絡まれてたじゃないか」

「そ、それはクラリス様が一方的に絡んできただけで、私はただ普通に――」

「お前たちは気づいていないようだが、お前とセシルは学園内で噂になっている」

ディランの低い声に、エリスは目を丸くする。

(噂って……まさか、ディラン様と私たちが親しいとか、そんな感じの!?)

「……そして、その噂の原因は俺にもある。だから、少なからず責任を感じているんだ」

「責任、ですか?」

エリスは動揺を隠しながら聞き返す。

「……ああ。俺がお前たちに声をかけたから、クラリスみたいな連中が目を付けるんだろう」

(声をかけるって、そんな頻繁に話しかけられてないけど!?)

だが確かに、ディランのような王子が 庶民の自分たちに話しかけること自体、珍しいのかもしれない……。


「お前は妙に危なっかしいからな。セシルもそうだが、お前が余計なトラブルに巻き込まれるのは…正直困る。」

ディランがぼそりと呟く。

それは、エリスにだけ聞こえる距離で、まるで風に溶け込むような静かな声だった。


「――――っ!」

エリスの心臓が跳ね上がる。


「え、えっと……その……」

頭の中が真っ白になる。何か返さなければと思うのに、言葉が出てこない。こんな展開、ゲームの中でもなかった。何を言っていいのか分からず、ただ焦るばかりだ。

ディランはそんなエリスをじっと見つめたまま、口を開く。


「別に深い意味はない。ただ……お前を見ていると、放っておけなくなる」


(放っておけないって……そんな台詞、攻略イベントの中でも出てこなかったよ!?)

混乱するエリス。しかし、ディランの瞳から目を逸らすことができない。

その眼差しは深く、真剣で、見ていると吸い込まれそうになる。


「そ、それは……」

なんとか言葉を紡ごうとするが、うまく出てこない。

「お前が無理しているように見える時がある。だから、俺が気にしてるだけだ」

ディランはいつものツンとした態度を少し緩めて言う。その穏やかな表情に、エリスはまたも心臓が暴れ出すのを感じるのだった。


(私……推しにときめいてる?そりゃときめくよ!いやいやダメダメ、私はモブなんだから!こんな展開は間違ってる!)


「そ、そんな……ディラン様に気をかけていただくなんて、恐れ多いです――私は別に、大丈夫ですから」

「お前が何を言おうと、お前のことはこれからも気にする。それだけだ」


ディランは淡々と告げると、くるりと背を向け、何事もなかったかのように去っていった。

その後ろ姿を見送りながら、エリスは自分の胸が早鐘のように鳴っていることに気づく。


推しにときめくのは当然――だけど、この展開は "ゲームの筋書き" にない。

動揺を隠せないまま、エリスは自分の胸にそっと手を当てた。


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