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推しキャラの誤解

エリスは最近、セシルに引っ張られる形で図書室に通うのがすっかり日課になっていた。

どうやら彼女は図書室の雰囲気をすっかり気に入ったらしい。


一方生徒会長のルイスは常にそこにいるわけではなかったが、時折顔を合わせることもあった。


そんなある日、セシルが無邪気な笑顔で言い放つ。

「ねえエリス、今日こそ特別書庫に行ってみない?」

「……許可なく入ったら間違いなく捕まるから。その前に、どこにあるのかも知らないけど!」

エリスは即座に却下したが、セシルはまったく懲りない。


「えー、大丈夫だよ! きっとルイス様にお願いすれば――」

「そんな権限ルイス様にないでしょ!」

頬を膨らませながら、セシルは瞳を輝かせた。

「だって特別書庫ってロマンがあるじゃない? 禁断の知識とか、謎の古文書とか、触れたら呪われる本とか……!」

「ファンタジー小説じゃないんだから」

とエリスは突っ込んだが、異世界に転生した自分がまさにファンタジーの真っ只中にいることを思い出し、

(……いや、むしろありそう)

と内心訂正した。


そんなやり取りをしていると、ちょうどルイスが本を抱えて図書室へ入ってきた。

「お、また来てたのか」

「はい! 図書室って落ち着くし、知的な感じがするじゃないですか!」とセシル。

「知的な感じがするだけで、知的になるかどうかは別だけどね……」と、エリスは小声でぼやく。

「それで、今日は何を調べに来たんだ?」

ルイスが尋ねると、セシルは得意げに宣言した。

「特別書庫に行きたいんです!」

「っ……!」

思わず吹き出しそうになるエリス。


「おいおい、いきなり特別書庫って……あそこはそう簡単に行ける場所じゃないよ?」

「ですよね! ほらセシル、困らせること言わない!」

だが、セシルはまったく気にせず、興奮気味に続ける。

「でも、特別書庫に行けたらすごくない? 禁断の知識とかゲットできるかも!」

「禁断の知識って何? ここ、学園なんだからそんな危ないもの……ないとは言いきれないけど……」


ルイスは微妙な顔をしたあと、さらっと言った。

「まあ、許可が下りたら案内してやってもいいけど」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

セシルは飛び跳ねて喜ぶが、エリスは

(絶対に許可なんて下りないし、そもそも行けたら危ない予感しかしない……)

と心の中で深いため息をつくのだった。



ある日、エリスは朝から妙にディランの視線を感じていた。

推しキャラであるディランに見られること自体は、本来なら嬉しいはず。


……なのに、その視線はやけに鋭く、どこか刺々しい。

(な、なにこれ……推しに睨まれるって、こんなに居心地悪いものなの?)


同じクラスではないのに、どういうわけかすれ違うたびに目が合う。

そのたびに、無言の圧をかけられているようで、落ち着かない。


(いや、気のせいかもしれない……うん、気のせいだと思いたい)

そう自分に言い聞かせ、なるべく気にしないようにしていた。


しかし、昼休みに入った途端、エリスの予想は外れることとなる。

階も違うはずのディランに、突然腕を掴まれたのだ。


「おい、ちょっと話がある」

「えっ、あ、はいっ……!」


驚く間もなく、彼は人目の少ない廊下の隅へとエリスを引き込んだ。


「お前、ルイスと何かあるのか?」

「……え?」


あまりに唐突な問いに、エリスの頭は一瞬で真っ白になった。

「昨日も一昨日も図書室でルイスと一緒だったと聞いた。何かあるのか?」

(な、何かって何!? いや、まさか………)


「な、何もないです! ただセシルの付き添いをしていただけで!」

「ふーん、本当に?」

じろりと睨まれ、エリスは思わず背筋を伸ばす。

(ちょっと待って、完全に疑われてる! なんとか弁解しなきゃ!)


「セシルが最近、図書室にはまっていて……。私はただの付き添いで、それでセシルが天然すぎて失礼なことを言いそうだったので、それをフォローしようとしていただけで……!だから、私自身に特に何かがあるとか、そういうのではなく……!」

「セシルのため、ねぇ?」

ディランは腕を組み、鋭い視線を向けてくる。


(や、やっぱりこの人、完全に誤解してる……!)


「本当です! セシルがあまりに突拍子もないことを言うから……ほら、昨日も“紙の触り心地がたまらないです”とか、“呪文が飛び出す本ないんですか?”とか言い出して!」


「……紙の触り心地?」

ディランの表情が微妙に引きつる。


「そうなんです! セシルがまた変なことを言い出して、ルイス様が困っていたので、私はそれをなんとか――」

「……まあ、お前が変なことを言ってるわけじゃないならいい」

「ですよね!? ほら、私って地味で目立たないタイプじゃないですか! そんな私にルイス様が関心を持つとか、ありえないですし!」


「……いや、それはどうだろうな」

ディランは何か考えるように視線を逸らすと、「余計なことに首を突っ込むなよ」と言い残し、さっさと去っていった。


エリスはその場に取り残され、心臓の鼓動が妙にうるさく感じる。


(え、今のって……もしかして嫉妬?)

推しにやきもちをやかれるなんて、夢に描いたような展開では?


(……いや、落ち着け私!)

エリスは両頬を軽く叩き、冷静になろうとする。


(私はヒロインじゃなくてモブなんだから。推しはセシルとくっつくべきだし、こんなことで浮かれてどうする!)


……でも、あの不機嫌そうな顔、どう考えても気にしてたよね?


そんなことを思いながら、エリスの心は落ち着くどころか、ますますざわついていくのだった。

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