第70話 勝利の宴
夜の帳が下りたナヴァ=ランの大地に、焚き火がいくつも灯される。
戦場だった密林の中で、今は穏やかに燃える火と共に、勝利を祝う歓声が響いていた。
戦士たちは集い、狩った獲物を豪快に焼き上げ、酒を交わし、太鼓を打ち鳴らす。
精霊への感謝と、共に戦った仲間たちへの称賛が、酒の杯と共に飛び交っていた。
「ヴァルカ・エルヴァ・ディナカ・ゼイカ!(これで我らは真なる戦友だ!)」
「ウルヴァ・ディナカ!(誇り高き戦友に!)」
ナヴァ=ランの戦士たちが声を揃え、武器を掲げると、歓声が大地を震わせるほどの勢いで響いた。
その中心に立つのは――マコト、アイリス、フィオナの三人だった。
「すごい……」
アイリスが思わず圧倒されるように呟く。
マコトもまた、焚き火の明かりに照らされた戦士たちの姿を眺めながら、これが彼らの文化なのだと実感していた。
ナヴァ=ランの民は、強き者を称え、戦友として迎え入れる。
彼らの価値観は、ただの“勝者”ではなく、“共に戦いを乗り越えた者”に最大の敬意を払うものなのだ。
「ヴェスカ、エルヴァ・ルガル!(ほら、お前たちも飲め!)」
屈強な戦士が、大きな木製の杯に並々と酒を注ぎ、マコトたちに手渡してきた。
「おぉっと……! すごい量だな」
マコトは一瞬戸惑いながらも杯を受け取る。
「ほほほ、ナヴァ=ラン自慢の祝い酒じゃ。これを飲まぬ者は戦士ではないぞ」
長が楽しげに笑いながら、豪快に杯を煽る。
「ヴァルカ・ゼイカ!(飲め!)」
「エルヴァ・ヴェスカ!(戦士よ、呑み干せ!)」
戦士たちが盛り上がる中、マコトは覚悟を決めた。
「よし、やるか!」
勢いよく杯を傾けると、口の中に広がるのは強烈なアルコールの刺激と、どこかスパイシーな風味。
一気に喉を焼くような感覚が走るが、それを乗り越えると、後味には芳醇な甘みが残った。
「――っはー!! 呑み口は辛いけど……うまいなコレ!」
「ほほっ! そりゃそうよ。これは我らに遥か古代より伝わる精霊に捧げる神酒だからのう!」
長が誇らしげに笑い、戦士たちも陽気に杯を打ち鳴らす。
「マコト……いける口なのね」
フィオナが驚きつつも、自分も杯を手に取る。
「じゃあ……アタシも!」
アイリスも負けじと杯を手に取った。
「うわーっ! これ、めっちゃ強い! 喉が熱い!」
一気に飲み干したせいで喉から胃までマグマの様な熱さが広がり、アイリスは悶絶する。
「ほほほ! そうであろう! さぁ、もっと飲め!」
長の声に、ナヴァ=ランの民達が自慢の酒を仕込んだ樽を次々と運んでくる。
「ちょ、ちょっと!? 一体どれだけ飲ませる気よ!?」
戦士たちは容赦なく次の杯を差し出してくる。
マコトたちは、すっかり彼らの宴に巻き込まれていた。
焚き火の明かりが照らす中、ナヴァ=ランの戦士たちはマコトたちと肩を組み、酒を交わしながら豪快に笑っていた。すると戦士の一人が大皿に載った肉を手に取り、マコトに差し出す。
「ほら、マコト! これ、すごく美味しい! 食え!」
「……ん?」
マコトは肉を受け取る手を止めた。
「……えっ、いま、なんて……?」
隣では、別の戦士がアイリスに酒を注ぎながら言う。
「アイリス、たくさん飲め! お前、戦い強かった!」
「ありがとうって……えぇ!?」
さらに、フィオナの隣にいた女性戦士が彼女の髪を撫でながらニコニコと話しかける。
「フィオナ、髪すごくキレイ! いい匂いする!」
「……ふふ、ありがとう。って――」
そこで、マコトが両手を挙げてツッコんだ。
「いやいやいや、ちょっと待て!! アンタら普通に共通語喋れるんかい!!?」
その場にいたナヴァ=ランの戦士たちが、一瞬キョトンとした顔をする。
「……? そうだよ?」
「えっ、いや、待て待て待て! さっきまでほとんどナヴァ=ラン語しか話してなかったよな!? 俺たち、言葉の壁を超えて何とか意思疎通してたはずだろ!? なんで今さら普通に話してるんだよ!?」
マコトの叫びに、アイリスとフィオナも同時に顔を見合わせた。
「そういえば……最初は全然通じなかったわよね?」
「私たち、かなり苦労してコミュニケーション取ってた気がするんだけど……?」
だが、ナヴァ=ランの戦士たちはケロッとした表情で答える。
「ん? だって、お前たち、今はもう“仲間”だろ?」
「“戦友”になったから、お前たちの言葉、話す!」
「?????」
マコト、アイリス、フィオナの三人は完全に混乱する。
「ちょ、ちょっと待って、整理させて……」
マコトが眉を寄せながら問いかける。
「お前ら、最初から共通語を話せたのか? それとも、俺たちと戦ったら突然話せるようになったのか?」
「うーん……」
戦士たちは少し考え込んだ後、にっこり笑う。
「さぁ?」
「……お前ら……!!」
マコトがガクリと膝をつく。
アイリスも呆れながら言った。
「いや、どう考えても最初から話せてたでしょ!? 絶対、最初から知ってたわよね!?」
「……ま、まぁ、そりゃ得体の知れない相手だったし最初は慎重だったのかもしれないわね……?」
フィオナは理知的に推測しようとするが、戦士たちは笑顔で断言する。
「違う! お前たちが“仲間”だって分かったから、俺たちの言葉、お前たちの言葉になった!」
「そうそう! だから、もう言葉の壁ない!」
「仲間になれば言葉が通じる……?」
マコトたちは顔を見合わせる。
「最初から話せたのに、俺たちが頑張って意思疎通しようとするのを、面白がって見てた……?」
マコトの推測に、長と戦士たちは豪快に笑う。
「ほほほ! そうかもしれんな!」
「お前たちの反応、楽しかった!聞こえないフリして怖い顔してみたら、結構ビビってた!」
「なんてこった……あの緊張と苦労は一体何の為に――」
マコトは思わず肩を落とした。
「ナヴァ=ランの戦士って気難しいのか、気さくなのかよく分かんないよ〜!」
アイリスが呆れながらも笑う。
「でも、今は真の戦友!」
「共に戦った者、仲間!」
戦士たちはそう言って、マコトたちの肩を陽気に叩いた。
こうして、マコトたちはナヴァ=ランの民に完全に受け入れられたのだった。
――宴が進むにつれ、フィオナがどんどん呑み進め、顔を真っ赤にしていた。
「フィオナ、大丈夫か?」
マコトが気にかけるが――
「ん~? わかんないっ!ふふふっ、ねぇ、アイリス~?」
「ひゃっ!? ちょっ、何……!?」
突如、フィオナがアイリスに抱きついた。
「アイリスの髪、きれい~ふわふわぁ~」
「ちょ、ちょっと!? え、何!? なんでそんな甘えてくるのよ!?」
「んふふ~アイリスかわいい……ねぇねぇ、もっと触っていい?」
アイリスがジタバタするが、フィオナは酔っ払って完全に絡みついている。髪を撫で、顔を撫で、反対の手は腿を滑る様に昇っていく。その惚けた表情のまま段々と顔をアイリスに近づけて――
「マコト〜! 助けて〜!」
「へっ?」
突然、アイリスがマコトに抱きついてきた。
「うわっ!? ちょっ、お前……!」
「だって、フィオナがぁ……!」
「ふふ~ん、アイリスずるい~」
フィオナは嫉妬したようにマコトにも抱きつこうとする。
「いやいやいや、ちょっと待てって!!」
宴はどんどんカオスになっていく――
こうして、マコトたちはナヴァ=ランの民と共に、祝宴の夜を過ごしていった。
戦場で生まれた絆を確かめ合い、酒と肉を共にし、仲間として笑い合う。
笑い声と焚き火の揺らめきの中――戦士たちの歌が、夜空へと響いていった。
今回は、ナヴァ=ランの民との宴を描いた日常回でした!戦闘続きだったので、こういう息抜きの回も大事だと思うのです。
ナヴァ=ランの民がさり気無く共通言語を話せる件、マコトたちと同じく「最初から言えよ!」と思った方も多いのでは(笑)
そして、酔ったフィオナの百合ムーブと、無自覚にマコトを巻き込むアイリスの天然っぷり……
普段の関係性とは違う一面が見られた回になったかと思います。
次回からは新たな展開へ!
マコトたちが手にした 超演算核 が、どんな意味を持つのか……?
ぜひ次回もご期待ください!
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