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第69話 五章 エピローグ


轟音が止み、静寂が広がる。


荒れ果てた密林の戦場には、指揮官機の爆発で焼け焦げた地面と、動かなくなった異形兵の残骸が散らばっていた。

彼らは勝利を確かに手にした。


「……やった……んだよね?」


アイリスが慎重に問いかける。


「……ええ、間違いなく倒してるわ」


フィオナが魔導映晶で戦場を見渡ししながら、眉をひそめた。


マコトはナイトストライダーを操縦しながら、戦場を見渡した。


だが――何かがおかしい。


「……確かに指揮官機(オルディノート)は倒した、あれは間違いなく本物だった。なのにこの違和感は――」


確かに敵の主力は壊滅し、指揮官機はオルディノートごと爆散した。だが、どうしても引っかかる。


「……少し確認してみるか」


ナイトストライダーが残骸の山を踏みしめながら進む。

指揮官機の破片を慎重に解析し、機体のコクピット部分を調査した。

その光景に――マコトは驚いて目を見開いた。


「……嘘だろ?」


そこに、人の痕跡は一切なかったのだ。


「操縦者の形跡が……ない?」


アイリスがスカーレットリーパーで近寄り、疑問の声を上げる。


「つまり、どういうこと?」


フィオナが魔導映晶を拡大しながら、マコトと同じ結論にたどり着く。


「指揮官機の中に操縦者の形跡が無い、というか……()()()()()()()()()()()()()()()


「この機体にはそもそも……誰も、乗っていなかった」


マコトが静かに呟く。


「てっきり直前に脱出したのかと思っていたけど、まさか遠隔操作……?だけどあの力(幻影)を使える様な仕掛けは無さそうだけど……」


だが、どちらにせよ――


「結局、オルディノート(アイツ)には無傷で逃げられたってことか」


マコトは忌々しく舌を打つ。


「……やられたな」


冷え切った沈黙が、戦場を覆う。


 

――黒き要塞、その深奥にある暗闇の間。

そこに響くのは、静寂と、不気味な魔力の波動。


その部屋の中心で、黒き翼を持つ男が立っていた。

魔王軍の戦略参謀、黒魔将(ヘルロード)グラディウス。

人類軍との戦況を一人分析していた彼は、転送魔法陣の展開音に気づき、目を細めた。

やがて紫色の霧と共に一つの影が現れる。


「……これは珍しいな」


グラディウスが淡々と呟く。


「お前がわざわざ姿を見せるとは」


転送魔法陣から姿を現した、()()()()()()()()()()は気怠げに肩をすくめた。


「いやいや、僕も来るつもりは無かったんだけどさぁ……ちょっと”文句(クレーム)”を言いに来たんだよ」


グラディウスは僅かに口元を歪める。


文句(クレーム)……?」


「そうさ。ゼファルドの奴にね」


オルディノートは椅子に腰掛け、余裕たっぷりに足を組む。


「この間アイツに面白い”おもちゃ”を貰ったんだけどさ……全部壊されちゃったんだよねぇ」


まるで気にしていないかのように、肩をすくめる。


「しかもさぁ、ゼファルドの最高技術を詰め込んだ”指揮官機”だって言うから、期待してたのに……」


「僕の動きに全然ついてこれないし、能力の再現度もまだまだ……“再現度が高い”って言うなら、もう少しマシなのを作ってくれないと」


「ほう、つまりお前は……負けた、というわけか?」


グラディウスは皮肉めいた笑みを浮かべる。


「いやいや、違う違う」


オルディノートは苦笑しながら首を振る。


「“僕自身”は傷ひとつ負っていないさ。しかも()()()()()()()も見つけたしね」


そう言うと、彼は戯けながらも不気味な笑みを浮かべた。


「で、ゼファルドはどこにいるんだい?」


グラディウスは僅かに目を細め、低く笑う。


「奇遇なものだな。実は……奴も先日、ご自慢の最高傑作が人間に敗れたそうでな」


「それ以来、研究所に篭りっきりだ」


オルディノートは興味深そうに首を傾げる。


「へぇ……ゼファルドが?真っ向勝負を好むヴェイラスが人間に負けたと聞いた時は驚かなかったけど……」


「まさか面白味の無いくらい作戦を練り上げてから戦うゼファルドが負けるなんてね」


「……一体どんな相手だったんだ?」


「知りたければ、自分の目で確かめるといい……」


グラディウスが魔導映晶を起動する。


浮かび上がる映像、そこに映っていたのは――マコトたちの姿。


「……ああ、なるほどねぇ」


目を細め、画面を見つめるオルディノート。


「くくっ……ははっ……!」


笑いが込み上げる。


「楽しくなってきたじゃないか」


グラディウスが無言で彼を見つめる。


「こういう面白い”舞台”を見せられたら……僕が演出したくならないはずがないだろう?」


軽やかにコートを翻し、踵を返す。


「さてさて、次はどんな”舞台(ステージ)”を用意しようか」


「グラディウス、僕はしばらく忙しくなるよ」


「……勝手にしろ」


魔導映晶の映像が消え、部屋の中には再び闇が満ちた――



同時刻――戦いの終焉を迎えたナヴァ=ランの大地には、安堵と勝利の余韻が満ちていた。

異形兵の脅威は去り、戦士たちは傷つきながらも誇りを抱いて立っていた。


焚き火がいくつも灯され、煙が静かに夜空へと昇る。

戦士たちは互いの無事を喜び合い、仲間の生還を祝っていた。


そして――戦場の中央、最も高い丘の上で、ナヴァ=ランの長がゆっくりと前へ進み出た。

彼女の顔には深い皺が刻まれていたが、瞳には部族と都市を救った勇者たちへの深い感謝が宿っていた。


「ヴァルカ・エルヴァ・ディナカ・ゼイカ!(これで我らは真なる戦友だ!)」


長の声が響き渡ると、ナヴァ=ランの戦士たちが一斉に武器を掲げ、雄叫びを上げた。


「ウルヴァ・ディナカ!(誇り高き戦友に!)」


「エルヴァ・ヴェルカ!(彼らに祝福を!)」


戦士たちの声が大地を揺らし、鼓動のように響いた。

彼らはマコトたちをただの助っ人ではなく、共に戦いを勝ち抜いた”戦友”として認めていた。


だが、それだけではなかった。


ナヴァ=ランの長は、厳かに口を開いた。


「精霊と共に歩みし勇者よ……我らが祖先より受け継ぎしアルカディアの至宝『超演算核(オーバルキュレイト)』……お前たちに託したい」


その瞬間、戦士たちのざわめきが静まり返った。

驚きと共に、敬意を込めた視線が一斉にマコトたちへと向けられる。


「……待ってくれ」


マコトは思わず言葉を詰まらせた。


「それは……貴方たちの祖先が残した貴重な遺産なんだろ? そんな大切なものを、俺たちが持っていてもいいのか?」


超演算核(オーバルキュレイト)――

それは、ナヴァ=ランの民が代々守り続けてきた聖なる遺物。彼らの信仰と誇りが込められたものを、簡単に受け取るわけにはいかなかった。


「しかも力が解放されれば世界に災いをもたらす……もし俺達のせいで世界に災いをもたらしてしまったら――」


だが、長は静かに首を振る。


「確かに、この至宝は……力が解放されれば世界に災いをもたらすとされている」


長の言葉に、戦士たちも厳粛な表情で頷く。


「……しかし、古の王たちはこうも言った」


彼は天を仰ぎ、かつて語られた言葉をゆっくりと紡ぐ。


『真に精霊と共に歩みし者は、至宝を用いて世界に希望をもたらすであろう、と……』


静寂の中、その言葉が深く響いた。


マコトは長の言葉を反芻しながら、ナヴァ=ランの民の顔を見渡した。

そこにあるのは――“期待”だった。


彼らは、この戦いを経てマコトたちを“選ばれし者”と信じていた。


マコト達はそれを無碍にすることは、できなかった。


「……分かりました」


マコトはゆっくりと手を伸ばし、超演算核を受け取る。


淡い光を宿した結晶が、彼の掌に収まる。

それは冷たく、それでいて不思議な鼓動を感じさせるものだった。


「……まあポジティブに考えれば、もしかするとこれもロボット作りに役立てられるかもしれないしな」


マコトは苦笑しながら呟いた。


アイリスとフィオナが、その言葉に小さく笑う。


「ふふっ、相変わらずね」


「ええ、でも……あなたらしいわ」


そして、ナヴァ=ランの民たちは勝利の宴を開いた。


戦士たちは焚き火を囲み、大きな肉を焼き、杯を交わした。精霊の祝福を受ける儀式が行われ、楽器の音色が響く。マコトたちも、彼らと共に杯を交わし、戦友として祝福された。


こうして――ナヴァ=ランの夜は、歓喜と祝福の光に包まれていった。


後書き


ナヴァ=ランの戦いが終わり、マコトたちは“戦友”として迎えられることになりました。激戦の末に託された“超演算核”――それは彼らの未来に何をもたらすのか? 受け取るべきではないと躊躇うマコトでしたが、ナヴァ=ランの民の想いに応え、決意を固める。


一方、オルディノートは余裕を崩さぬまま撤退。ゼファルドとのやり取りを経て、彼の中に新たな興味が生まれます。マコトたちに目をつけた彼は、次なる舞台をどう演出するのか――


物語は次のステージへ! 次回もご期待ください!

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