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第68話 終幕

オルディノートが指を鳴らした瞬間、空気が一変した。

辺り一帯に、強烈な魔力の圧が広がる。

まだ術式は発動していないのに、その魔力の余波だけで大気が震えている。


「……ッ!」


マコトたちの体が、一瞬、凍りついたように動きを止める。


「これは……!」


フィオナが息を呑んだ。


密林の中、異形兵の残骸が転がる戦場に――


無数の魔法陣が出現する。


それは、上空から地面まで、三百六十度、あらゆる方向に展開された狂気の陣。


「これが……オルディノートの本気……!?」


アイリスは即座に操縦桿を引き、スカーレットリーパーに回避行動を取らせた。


「こんなの……魔法陣の嵐じゃない!!」


マコトはナイトストライダーのスラスターを最大稼働しながら、戦場を見渡した。


――回避するだけで精一杯だった。


「ッ、ヤバい……! これはただの魔法陣じゃないわ!」


フィオナのエメラルドセージの魔導映晶が、高速で魔力計測を開始する。


すると発動している筈の魔法陣の数と比べると、実際に観測される魔力量と、見えている魔法陣の数から予測される魔力量に明らかな差があった。

 

「この魔法陣……さっきまでの幻影みたいに本物と偽物が入り混じってる!?」


マコトの目に映る魔法陣は、まるで万華鏡のように複雑に交錯し、瞬間ごとに配置を変えていた。


「どれが本物の攻撃で、どれが幻影なのか全く分からない……どうすれば――!」


「ふふっ、楽しいね」


オルディノートの声が響く。


その言葉と同時に、魔法陣が一斉に光を放つ。


「来るぞ……!!」


――次の瞬間、戦場全域に殺到する魔法の嵐。


雷撃が奔り、炎が巻き上がり、氷の槍が大気を貫く。

黒い光が大地を焼き、重力の渦が空間を捻じ曲げる。


「くそっ……避けきれない!」


マコトは必死に機体を駆りながら、攻撃を回避する。


「ちょっと……どこから撃たれてるの!?」


アイリスも、スカーレットリーパーの高速機動を駆使しながら、次々と迫りくる魔法陣を避けていくが――


「どこを見ても、魔法陣ばかり! これじゃあ、全部を防げない……!」


フィオナも砲撃で迎撃しようとするが、本物と幻影が交錯する戦場では、狙いを定めることすら困難だった。


「これ……無理に攻撃しても、全然意味がない!」


フィオナの分析力をもってしても、見破ることができないほど、オルディノートの幻想演舞は完璧だった。


「本物と幻影を同時に放つ……こんなの、無限の魔法を撃たれているようなもんじゃない!」


マコトたちは防戦一方となり、戦場は完全にオルディノートのペースに染め上げられていった。


「さぁ、僕の舞台の幕が上がったよ――どこまで耐えられるかな?」


彼の声は、あくまでも軽やかで余裕たっぷりだった。


「このままじゃマズイ……!」


「フィオナ!さっきみたいに魔力の波長とかで見破る方法はないのか!?」


「ダメ! 幻影にも完全な魔力を纏わせてる……どれも本物の魔力を持ってるのよ!」


フィオナが苦々しく歯を食いしばる。


「くそっ……」


ナイトストライダーが急旋回しながら、魔法の乱流をギリギリで回避する。


「どうすりゃいいんだ……」


そんな中――


「――え? 二人ともなんでそんなに悩んでるの?」


呆れたような声が響いた。


マコトとフィオナは、驚いてアイリスの機体を振り返る。


スカーレットリーパーのブレードを構えながら、アイリスはまるで「何を当たり前のことを」とでも言うような表情をしていた。


「……は?」


「ほら、こうやって――」


その瞬間、アイリスの機体が軽やかに跳躍した。


ドォォォン!!!


彼女の背後で、膨大な雷撃が爆ぜる


その直後、炎の魔法が正面から彼女を包み込んだ――


「アイリス!!?」


マコトが叫ぶ。

だが、次の瞬間――アイリスは、無傷のまま炎の中から姿を現した。


「はぁ~、凄い迫力だったよ……びっくりした~」


軽やかにスカーレットリーパーを旋回させながら、彼女はくるりと一回転。


「おい……」


マコトとフィオナは、同時に絶句した。


「……どうして、無傷なんだ?」


「まさか……本物と偽物を、見分けてるの?」


フィオナが信じられないという顔で尋ねる。


「そうだよ?」


アイリスは、あまりにも自然に答えた。

 

「だって、本物の魔法陣はちゃんと地面に影があるじゃん?」


「――――え?」


マコトとフィオナの思考が、一瞬止まる。


「ほら、あの魔法陣、ちゃんと地面に影が落ちてるでしょ?」


「でも、あっちの魔法陣は……光が、透けてる……!?」


マコトとフィオナは、戦場を見渡した。


――確かに彼女のいう通りだった。

宙に浮かぶ無数の魔法陣のうち、一部だけが、地面に影を落としている。


「まさか……!」


「アイツの幻影は完璧に本物と同じ魔力を持つ……でも、影だけは騙せなかった……!」


「そういうこと! ね? 簡単でしょ?」


アイリスは笑顔でスカーレットリーパーのブレードを煌めかせた。


「よし、そうと分かればやる事は一つ!影のある魔法陣だけを狙え!」


「了解!」


「ええ、やるしかないわね!」


影のある魔法陣を見極めたマコトたちは、次々と攻勢を強める。


「行くぞ……!!」


ナイトストライダーが加速し、ブレイドライフルが閃く。


アイリスのスカーレットリーパーが、ブースターを噴かしながらブレードを展開し、精霊の魔力を纏わせた刃が魔法陣を次々と切り裂き霧散させる。

空中に展開している魔法陣はフィオナのエメラルドセージが砲撃で援護し、一つ一つ潰していった。


「そろそろ……終わりにしてやる!」


マコトがナイトストライダーがブースターを噴かせ、高速スラローム走行で魔術の嵐を潜り抜けるとオルディノートの駆る指揮官機へ向けて銃剣を振り下ろす。


ガギィィィン――!!!


鋼鉄の悲鳴が戦場にこだまする。


ナイトストライダーの銃剣が――指揮官機の装甲の隙間を縫うように突き刺さり、内部機構を貫いた。


白銀の機体に無数の裂け目が生じ、そこからじわじわと、血管のように光る魔導回路が露出していく。


「……ッ!」


マコトが操縦桿を握る手に力を込める。

銃剣をさらに押し込み、深く、確実に貫通させる。

刃がコアに届いた瞬間――


(ブシュウウウウッ!!)


魔力が逆流するように吹き出し、指揮官機の全身を青白い稲妻が奔る。


関節部の魔導駆動装置が軋み、指揮官機はもがくように身体を揺らした。


(ピシッ……ピシッ……!!)


装甲の亀裂から、高エネルギー体の魔力が滲み出る。

内部の回路が焼き切れ、警告音が虚しく鳴り響く。

指揮官機の動きが次第に鈍くなる。



「まだだッ――!!!」


マコトは息を荒げながら、銃剣の引き金を引いた。

刃を深々と突き刺したまま、銃剣の砲身から至近距離で弾丸を連射する。

 

銃口から発せられる烈火の閃光が、指揮官機の内部機構を直接灼き貫いた。装甲の内側で爆発が連鎖し、各部から火花と煙が吹き出す。

 

指揮官機が断末魔のように大きく身を捩る。

胸部装甲が爆裂し、背面から魔力の奔流が噴き出す。

魔力炉が暴走し、制御不能に陥っていた。


――その時。


指揮官機の内部から、軽やかな声が響いた。


「いやはや……想像以上に強いな、君たちは」


戦場の爆炎の中でも、彼の声は相変わらず気怠げで、余裕すら感じさせるものだった。


「僕の幻影に惑わされないとは……実に興味深いねぇ」


指揮官機の左腕が、力なく垂れ下がる。


関節部が弛緩し、崩れ落ちるように地面へ突き刺さる。

まるで巨木が倒れるような鈍い音がする。


しかし、オルディノートの声は変わらない。


「本当なら、もう少し遊びたかったけど……」


胸部装甲の亀裂が広がる。

内部の魔導回路が露出し、高密度の魔力が噴き出す。

制御を失った魔力の奔流が、まるで獣のように暴れ回り、機体全体を焼き尽くしていく。


「……残念ながら、そろそろお別れのようだ」


ピシィィィィ……!!!


エネルギーの閾値が限界に達し、指揮官機の機体全体が震える。内部の魔導回路が完全に崩壊し、暴発寸前の状態に陥る。

警告音が響き渡り、機体内部の魔力炉が臨界を迎える。


「じゃあね――」


一瞬、機体の裂け目の奥で微かに何かが揺れた。

まるで、誰かがそこにいるかのように――


「また会おう――」


指揮官機が、閃光とともに爆発した。

膨大な熱と衝撃波が戦場を包み込み、破片が弾丸のように四方へ飛び散る。


爆風が吹き荒れ、大地が裂け、白銀の装甲が無数の破片となって散る。


光が収まり、残骸が戦場に降り注ぐ――

まるで、最初からそこには誰もいなかったかのように、戦場は静寂に包まれていた。


今回は、オルディノートの本気がついに炸裂し、マコトたちとの激闘が描かれました。

無数の魔法陣による嵐、幻影と現実の交錯、そしてアイリスのひらめきが活路を切り開く展開――

オルディノートは最後まで余裕を崩さず、指揮官機は爆散。果たして彼は本当に倒されたのか……?


次回、物語は新たな局面へと進みます。

ご期待ください!

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