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第67話 過去を越えろ!

戦場は静寂に包まれていた。


だが、それは単なる沈黙ではない。

空気に染み渡るのは、恐怖と混乱。


ナヴァ=ランの戦士たちは、己の過去と向き合わされていた。


目の前にに浮かび上がるのは――かつての自分。

弱く、無力で、何も成し遂げられなかった頃の姿。


彼らの目は濁り、微かに揺れる。まるで悪夢のように、幻影に囚われていた。


「ヴェスカ・カ・エル・カラシェル……?(お前は弱いままだ……)」


「ノ、ノルカ……!(ち、違う……!)」


「ゼル・タルカ・カ・エルヴァ・ティラナク・ヴァルカ・ラビナク・カ……?(お前は誰も助けられない……兄弟たちが無惨に殺されるのを見ているだけ……)」


「ヴァルカ・ティラナク・エルヴァ・カ・タヴィク・エル・ヴァルカ……(本当は兄弟が死ねば、自分が神聖武装の戦士になれると思っているんだろう……?)」


その言葉に、戦士の一人が息を呑む。


幻影は静かに囁く。

それは外から見れば単なる影、だが、戦士たちにとっては己の最も奥深くにある闇だった。


手にした武器が重く感じる。

装甲がまるで鉛のように、身体を押し潰してくる。


「ノルカ……ヴァルカ……!(違う……違うんだ……!)」


だが、誰一人として剣を振るうことができない。

幻影に刃を向けることは、過去の己を否定することに等しい。

そして、それができない限り、この戦場は終わらない。


戦士たちは膝をつき、苦悩の中で動けなくなっていた。


そしてマコト達もまた、自らの過去の姿を目の前にしていた。


目の前に立つのは、“何も持たなかった頃の自分”だった。

何者にもなれず、ただ流されるままの人生を送っていた。

確かな目的もなく、現実を諦め、適当な日々を送っていたあの頃の自分――


「お前みたいな奴が、何を偉そうに言うんだ?」


幻影の“マコト”が口を開いた。


「結局、流されるままここまで来ただけだろ? 環境に恵まれ、運に助けられ、たまたま強くなっただけ……違うか?」


マコトは無言のまま歯を食いしばった。


図星だった。


確かに、最初は成り行きだった。自分の意志ではなく、巻き込まれる形で戦いに身を投じてきたのは否定できない。


「結局、お前は何も成し遂げてない。全部、流されるままここまで来ただけだ」


幻影のマコトは嘲笑するように言った。



――同じ頃。


アイリスは、幼い頃の自分と対峙していた。


幼い彼女は、母を失い、世界が暗闇に包まれたと感じていた頃の姿だった。


「どうして……どうして私を置いていったの?」


震える声。


小さな肩を抱え、泣き崩れそうな少女。


そして、幻影の少女はアイリスをじっと見つめた。


「結局、あなたは強くなんてなれてない……母さんを失ってから、本当に何か変わった?」


「……っ!」


アイリスは息を呑む。


「私は……!」


「貴女はただ逃げただけ。父さんを拒絶して、現実に目を背け悲嘆に暮れているだけの存在。今だって、誰かの支えがなければ戦えない弱いままの私――」


「違う……違う!!」


アイリスは叫んだ。



――そして、フィオナ。


彼女が対峙していたのは魔導研究に没頭するあまり、何もかもを犠牲にしようとしていた頃の自分だった。


「私は間違ってない。魔術の探求こそ、全てに優先されるべき――」


幻影のフィオナは冷たい目で彼女を見下ろしていた。


「感情なんて不要。仲間も、家族も、研究のための道具でしかない」


「……違う」


フィオナは首を振った。


「知識の探求を怠った者に、価値などない。そうやって貴女は他人を見下し、悦に入っていたのよ。本当は自分の事を周りに評価されたり否定されるのが怖いだけ――」


「そんな……事は……!!」


強い力も、速度も、圧倒的な破壊力も、必要ない。

オルディノートの幻想演舞はマコト達やナヴァ=ランの戦士達の精神を確実に蝕んでいった。


「お前達人間は弱い……こうしてほんの少しつついてやっただけで恐れ、傷つき、崩れ去ってしまう。あのゼファルドを倒したというのもただの偶然――」


その時、オルディノートの目が見開いた。

予想だにしなかったその光景に――


幻影に苦しむマコト――だが彼はその言葉を否定しなかった。過去の自分が言うことは、確かに一理ある。


「……でもな」


マコトは静かに口を開いた。


「今は違うんだよ」


幻影のマコトが目を細める。


「……何?」


「最初は、確かに流されるままだった。でも……今の俺は、自分の意志で戦ってる」


ナイトストライダーの操縦桿を握る手に、確かな力を込めた。


「お前が言うように、俺は最初は何者でもなかった。でも、ここまで来たのは運だけじゃない。俺は、俺の意志でここに立ってる!」


幻影のマコトが一瞬、表情を歪めた。

――彼は、幻影に剣を振り下ろした。


そしてアイリスは――

 

「私は……確かに弱かった。でも、今の私は……父さんに村の皆んな、それに……マコトのお陰で支え合うことを知ったの! 今の私は一人じゃない……もうあの頃の私じゃ……ない!」


アイリスが叫ぶと、幻影の少女が崩れ落ちていく。


「お母さん……私、少しは強くなれたかな……?」


アイリスは、小さく呟いた。


やがてフィオナも――


幻影の言葉に呑まれそうになるが、彼女は息を深く吸い込むと、首を横に振った。


「私は間違っていた……確かに、知識は力。でも、それだけじゃない。仲間がいて、支え合うことで、私はより強くなれた」


「愚かだな……」


幻影のフィオナは軽蔑したように言った。


「知識の探求を怠った者に、価値などない」


「それでもいい。私は……今の自分を選ぶ!」


フィオナが強く杖を振るうと、幻影が光と共に砕けた。


三人が幻影を打ち破った瞬間、戦場に大きな衝撃が走った。


オルディノートの表情が、僅かに変わる。


「……ふぅん?」


マコトたちは一斉にオルディノートに向かって武器を構える。


「終わりだ、オルディノート――!!」


ナイトストライダーの銃剣が、彼の元へと突き出される。


「ふぅむ、これは少しばかり……」


オルディノートが言葉を紡ぐより早く――衝撃が走り、彼の幻想演舞(ファントム・カーテン)は砕け散った。


その瞬間、ナヴァ=ランの戦士たちも、現実へと引き戻される。


「……!!」


彼らは息を呑み、そして――

戦場は、再び現実のものとなった。


「さてさて、これは予想以上に厄介なことになったね」


オルディノートは、相変わらず気怠げな笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を広げた。


「やるね、君たち。これも破られるとは流石に自信無くしちゃうなぁ……それじゃあ、そろそろ――僕の本気を見せようか」


彼の足元に、不気味な魔法陣が広がる。


戦場は、再び新たな局面を迎えようとしていた――


過去の自分との対峙」というテーマで書いた今回の話。

マコトたちだけでなく、ナヴァ=ランの戦士たちもそれぞれの「影」と向き合う展開となりました。

それぞれの葛藤を超え、オルディノートの幻想演舞ファントム・カーテンを破ることに成功しましたが……

果たして彼の「本気」とは一体何なのか。

次回、戦いは新たな局面へ――!

ご期待ください!

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