第64話 迎撃戦、開幕!
霧深い密林の奥から、不気味な唸り声が響いた。
「ギィィィィィ……」
その音とともに、黒い影が次々と姿を現す。
歪んだ金属の骨格に、生体組織が絡みついた異形の兵士たち――「異形の者たち」が、都市へ向けて侵攻を開始した。
ナヴァ=ランの防衛線に緊張が走る。
「デラ・ヴェク・ミザク!(奴らが来たぞ!)」
「カルヴァク・ハヴァク!ザナク・ラヴォス・タラク!(防衛陣形をとれ!槍兵、前へ!)」
戦士たちは即座に布陣し、弓を構え、槍を掲げ、魔術師が詠唱を開始する。
防衛の要である 神聖武装を纏った戦士たちは最前線に立ち、異形の者たちと相対した。
最前線に躍り出た神聖武装の戦士が、小型異形兵へと突進する。
その動きはまるで瞬間移動したかのように速い。
ナヴァ=ランの戦士のひとりが、装着した魔導ランスを振るい、小型異形兵を粉砕する。
神聖武装による強化された筋力とスピードは、異形兵を相手に圧倒的な力を誇っていた。
黒い粘液と金属片が飛び散り、異形兵が悶絶しながら崩れ落ちる。
しかし――
「ギギギ……グギャァァ!!」
背後から別の異形兵が飛びかかる。
だが、その攻撃が届く前に、別の戦士が横から体当たりを叩き込んだ。
神聖武装を纏った戦士たちは、互いに連携しながら敵を制圧していく。
圧倒的な速度と破壊力で、小型異形兵を次々と粉砕していった。
「……すごい」
戦場を見つめるマコトたちは、ナヴァ=ランの戦士たちの戦闘力に驚嘆していた。
「今の速度、俺たちの機体と同じか、それ以上だな……」
マコトがナイトストライダーの動力計測を確認する。
「でも、敵も黙ってやられてるだけじゃないみたいよ」
フィオナが戦況を分析する。
そして彼女の視界の中で、異形兵たちがある動きを見せていた。
「アイツら……傷を修復してる……!」
倒されたかに見えた異形兵が、体表の金属を蠢かせながら再生を開始していた。
その異様な動きに、ナヴァ=ランの戦士たちが僅かに警戒を強める。
「ギギ……グギャァァ!!」
異形兵たちが横並びになると背中の砲塔から一斉に火炎弾を撃ち放つ。
「ヴェスカール、タヴァルン・ケルサク・ファルナク!(全員、防御シールドを展開しろ!)」
ナヴァ=ランの戦士が叫ぶと同時に魔力を用いたエネルギーシールドを展開した。
無数の火炎弾は戦士達に当たる直前に防がれ、悉く霧散した。
しかし敵は一切の動揺を見せず更なる猛攻を見せ、戦線が激しく交錯する。
小型異形兵が高速で飛び掛かり、中型異形兵が巨大な腕を振り下ろしてくる。
「ハァァァ!!」
神聖武装の戦士が魔力を込めた拳で異形兵を迎え撃つ。
しかし、異形兵もその攻撃を耐えながら、鋭利な腕を振り下ろしてきた。
神聖武装の装甲が火花を散らしながら衝撃を受ける。
ダメージは無いが、衝撃による僅かな後退――その一瞬を狙い、異形兵たちが畳みかけてくる。
何度致命傷を喰らっても再生し、襲い来る不死身の異形兵に神聖武装の戦士達も焦りの色を浮かべる。
「ヴァルカ・デラ・ヴェク!モ・ティラナク・ヴェロス・タラク。カラ・カ・ヴェスカ・カ・エンザル・ザラク・デルヴァク・カ……!(なんて奴らだ!しかも今回は数が多過ぎる。このままだと我らの魔力が先に底を尽くかもしれん……!)」
その時――
「俺たちも行くぞ、アイリス、フィオナ!」
「了解!」
「こっちも準備はできてるわ!」
合図と共にワイルド・ストライダー小隊が前線へと飛び出した。
ナイトストライダーの駆動音が響く。
マコトは手持ちの長銃剣を構え、異形兵の群れへと突撃する。
ドォン!
一発、狙いすましたエネルギー弾が小型異形兵の頭部を撃ち抜く。
同時に側面から襲い掛かる別の個体を、銃剣の刃で切り裂いた。
そのまま弾丸をばら撒きながら敵を面の攻撃で牽制し、押し留める。
「やるね、マコト!私も負けてられない――!」
アイリスのスカーレットリーパーがその間を駆け抜ける。
両腕のブレードが閃き、小型異形兵を次々と斬り裂いた。
「アイリス、左からもう一体!」
「分かってる!」
彼女は瞬時に跳躍し、襲い掛かる敵の攻撃を紙一重で回避。すれ違いざまにブレードを横薙ぎに振るい、異形兵の首を吹き飛ばした。
ドォォン!
後方からフィオナのエメラルドセージが砲撃を放つ。
魔力を帯びたエネルギー弾が中型異形兵の脚部を貫き、その場に崩れさせた。
「……なんて精確な砲撃!」
戦況を見ていたナヴァ=ランの戦士が驚嘆する。
「ゼイカ・カ・アリン・フェイロス・クラヴァク!(この者たち、まるで風のような速さで戦う……!)」
「ヴェスカ・カ・カルシェル、ヴァルカ・ゼル……?(彼らの鎧、あれは神聖武装か……?)」
「ヴェイカ・カ・ヴェスカ……?デラ・カ・ラヴィン……?(本当に味方なのか?敵のスパイではないのか……?)」
ナヴァ=ランの戦士たちはマコトたちの戦闘能力に驚き、目を見張っていたが、部外者である三人を完全に信用出来ずにいた。
「ゼヤ、ヴェスカ・カーヴ!エンカイ・カ・タヴィク・ヴェスカ・ヴェイカ!ナヴァラン・カ・カーヴ、ヴェスカ・ヴェ・クラヴァク・デラ・タルカ!(聞け、兄弟たちよ!彼らは精霊の加護を受けた者たちだ!ナヴァ=ランの戦士よ、共に戦い敵を討つのだ!)」
彼らの不安を払拭するように、長が強く言い切る。
ナヴァ=ランの戦士たちは彼女の言葉を受け、改めてマコトたちの戦いぶりを見つめる。
「ゼヤク、ヴェスカ・カ・クラヴァク・ゾル・タヴィク……(見ろ、彼らは戦いの理を理解している……)」
「ヴェルカ、カルシェル・カ・エンカイ・レラク……!(確かにあの鎧からは精霊の息吹を感じる……!)」
戦士たちは警戒を解き、次第にマコトたちを“同志”として受け入れ始めた。
マコト達の参戦で戦況は再びナヴァ=ラン側が優位に立つ。少しずつ戦線を押し戻している最中、アイリスが敵の異変を察知する。
「こいつら……さっきまでと動きが変わった?」
異形兵たちは戦士たちの攻撃パターンを学習し、戦術的な回避行動をとり始めたのだ。
「学習している……やはり、コイツらは魔王軍の兵士と見て間違いなさそうね――!」
フィオナが分析装置を覗き込みながら、厳しい表情を浮かべる。
小型異形兵は最適な回避経路を取りながら、弓兵の矢を避け始めていた。
中型異形兵も変化を見せる。
彼らは小型異形兵を囮にし、後方から槍のような腕を突き出し、ナヴァ=ランの防衛線を崩しにかかる。
「ヴァルカ・タルナク……!(このままでは保たない……!)」
ナヴァ=ランの槍兵たちが防戦一方になり、戦況は不利に傾きかけた。
その時戦場の奥から、これまでの異形兵とは違う「何か」が姿を現した。
「……何だ、あれは?」
マコトが呟く。
他の異形兵とは違う異質な存在感、グロテスクと言って良い今までの異形兵からは想像できない洗練されたフォルム。二足歩行で動くそれは、明らかに知性を持つような動きを見せていた。
手の動き、首の動き一つで異形兵たちは完璧に統率を取り、戦術的な連携をとる。
「まさか……こいつが、異形兵を統率してるのか?」
マコトが警戒を強める。
異形の司令機――
戦場のバランスが変わる新たな脅威が姿を現した。
異形の者たちが都市へ侵攻を開始し、ナヴァ=ランの戦士たちが迎え撃つ!
異形兵は何度もやられながらも学習し、戦術を最適化していく。その姿は以前マコト達が戦った魔王軍の生物兵器と瓜二つだった。
戦況が膠着する中、マコトたちも参戦し、彼らの戦闘能力を見たナヴァ=ランの戦士たちは次第にその力を認め始める。
その時、新たな脅威「異形の司令機」が戦場に姿を現す――!
次回、戦いは新たな局面へ突入!
異形の司令機とは何なのか?その正体とは!?
ぜひご期待ください!
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