第63話 展開!神聖武装
密林の奥深く、部族の長がマコトたちを厳かに見つめていた。
「……もう一度問おう」
彼女の眼光は鋭く、その言葉には試すような色が滲んでいる。
「お前たちは、本当にこの地に害をなす者ではないと誓えるか?」
マコトは静かに頷く。
「俺達は貴方達も敵ではありません。俺は……自分の元素精霊召喚士のルーツを知りたい。そしてアルカディア・エルドリムが出来なかった精霊との共存、求めるのはそれだけです」
「……そうか」
女性はしばし沈黙し、深く息を吐いた後、厳かに宣言した。
「ならば、名乗らせてもらおう。我らはナヴァ=ランの民。遥かなる時の彼方、アルカディア・エルドリムを造り精霊と共に歩み、その遺志を受け継ぐ者」
「ナヴァ=ラン……」
アイリスがその名を反芻する。
「この地には、我らの祖先の“遺産”が眠っている。そして現在――それを狙う“異形の者たち”がいる」
彼女はそう言うと、厳かに扉に手をかざした。
次の瞬間、刻まれた古代の紋様が淡く輝き、重厚な扉がゆっくりと開いていく。
開かれた扉の向こうには、幻想的な空間が広がっていた。
壁一面には古代アルカディアの碑文や紋章が刻まれ、神秘的な気配が漂っている。
そして、部屋の中央には 透明な結晶体に封じられた球体 が鎮座していた。
それは、淡い青と銀の光を脈動のように放ち、周囲には金属的な構造体が浮遊している。
「これが……?」
マコトが足を踏み入れたとき、女性が静かに告げた。
「これこそが 超演算核。我らが守り続けてきた、古代アルカディアの至宝」
その名を聞いた瞬間、フィオナの眉が動いた。
「……一体、超演算核とはどんなものなのですか?」
「アルカディアでは、これを都市の管理装置として使っていたと記されている。魔力の制御や供給、あらゆる事象をこの超演算核が司っていたという……しかし殆どの情報は失われ、では我々にも詳しくは分からぬ……ただ、一つだけ確かなことがある」
女性は壁画を指し示した。
そこには、超演算核を囲むように描かれた古代の王たちの姿と、彼らが何かを封印している様子が刻まれていた。
「記録によれば古の王たちはこう語った――『この力が解放されれば、この世界に大いなる災いをもたらす』 と」
「世界に……災い?」
アイリスが驚きの声を上げる。
「……“異形の者たち”がこれを狙っているのはこの世界に災いをもたらす為?」
フィオナの冷静な問いに、女性は静かに頷いた。
「確証はないが、可能性は高い。奴らは幾度もこの都市を襲撃し、内部に侵入しようとしている……」
マコトは超演算核を見つめながら、ゆっくりと呟く。
「異形のものたちは……これをどうするつもりなんだ?」
「それは、我々にも分からぬ……だが、もしこれが奴らの手に渡れば、この世界が大きく変わる可能性がある」
マコトは拳を握る。
その時――外から、緊迫した叫び声が響いた。
「アシュカ・ヴェ! デラ・ミザク!」(長! “奴ら”がまた攻めてきました!)
ナヴァ=ランの戦士が駆け込んできた。息を切らしながら、焦燥と緊迫の色を浮かべている。
「何……!」
女性――ナヴァ=ランの長が低く呻く。
「知らせがあった……異形の者たちが再び攻めて来たようだ――」
マコトたちは顔を見合わせた。
(敵……このタイミングで?)
マコトの脳裏に嫌な予感がよぎる。魔王軍、あるいは異形の者たちが超演算核を狙っているのなら、執拗に襲撃を繰り返すのも納得できる。しかし、今のタイミングはあまりにも都合がよすぎる。まるで誰かが彼らの動きを見計らっていたかのように。
「カラ・カ・シルカ・ヴァルコス!」(貴様ら、神聖な森からでていけ!)
外の広場から、怒号のような叫び声が響く。
「……祖先の遺産を守る為に、戦わねばならぬ。お前達は客人だ、我々の争いに巻き込むわけにはいかない。ここが最も安全な場所だ、戦いが終わるまでここに隠れていると良い」
だがマコトは即座に決断し、女性のほうを振り返った。
「俺たちも手を貸します!」
女性は一瞬、マコトを見つめた。まるで、その申し出が真実かどうかを測るように。
しかし、すぐに頷いた。
「……よかろう。正直に言うと奴らの力は強大だ。今の我らは、あらゆる力を必要としている」
彼女が手を振ると、側に控えていた戦士たちが武器を手に取り、一斉に駆け出していく。
「行くぞ!」
マコトたちもそれに続いた。
互いに目配せしながら、それぞれの機体へと走る。
遺跡の外――
霧の奥から、影がゆっくりと迫ってくる。
「ギィィィィィ……」
金属と生物が融合した 異形の者たち が、密林の奥から現れた。
その姿は、まるで腐食した鉄と肉が絡み合ったような異様なものだった。
歪んだ金属の骨格と脈打つ生体組織が、霧の合間から蠢きながら現れる
無数の青白い眼が一斉に光を灯し、無機質な関節が軋む音を響かせる。
「……数が多いわね」
フィオナが冷静に数を確認する。
「最低でも50体以上……しかも、大型の個体もいる」
アイリスがスカーレットリーパーに乗り込み、両腕のブレードを構えながら、慎重に前線の動きを見極める。
その時、長が出撃を控える戦士達に声高に告げた。
「ナヴァ=ラン・カ・カーヴ!ヴェスカ・カ・ナラック・タヴィク!(ナヴァ=ランの戦士達よ!都市を守る為に死力を尽くせ!)」
「ヴェスカ・カ・ナラック・タヴィク!(我々は都市を守る為死力を尽くす!)」
ナヴァ=ランの戦士たちが 一斉に応じ、武器を構える。
大勢の戦士の中で、限られた十人程の戦士が、特異な動作を見せた。
彼らは腰に装着していた 金属製の装置 に手を伸ばし、起動の印を結ぶ。
「ヴァルカ・ゼル、ファルナク!(神聖武装、展開!)」
次の瞬間――
装置が光を帯び、戦士たちの身体を包み込む。
かつてアルカディア・エルドリムで戦士の鎧として運用されていた 古代の魔導兵装―― “神聖武装” が起動した。
銀と黒の装甲がまるで鎧のように彼らの身体を包み、淡い魔力の輝きがそのラインを浮かび上がらせる。エネルギーが循環し、戦士たちの肉体に重みと共に力が宿る。
その姿はまるで機械の騎士のようなヒロイックなものへと変わる。
「マコトのロボットやスーツも凄いけど……この人達の纏った鎧も凄い出来だよ!あんなの見た事がない!」
アイリスが驚嘆の声を漏らす。
「これは遺跡の壁画にあった……まさか古代の兵装がまだ生きているなんて……!」
フィオナも感嘆するように呟いた。
しかし、女性は静かに首を振る。
「今の神聖武装は、不完全なものにすぎない。本来は精霊の加護を受け、遥かに強大な力を誇っていた……だが、今はその加護を失い、大気中の魔力のみで動かしている」
彼女の言葉には、どこか悔しさが滲んでいた。
「不完全とはいえ……奴らに抗うためには、これを使うしかない」
「それでもこれは脅威的な技術です……今まで見て来た国々でも機械的技術は皆無なのに、遥か古代にこんな物を創り上げるなんて……!」
マコトは戦士たちを見つめながら、そう呟いた。
「詳しい事は戦いが済んでから教えよう……では、行くぞ――」
女性が儀仗を構え、戦士たちに号令を下す。
「ヴェスカ・ティラヴ、クラヴァク!(全軍、迎撃せよ!)」
号令に応えるように、戦士達は一斉に叫ぶ。
「ヴェスカ・カ・デラ・タルカ・クラヴァク!(兄弟たちよ、血潮を燃やし敵を討て!)」
ナヴァ=ランの戦士たちが、一斉に戦場へと走り出した――!
密林に暮らす謎の民、彼らはアルカディア・エルドリムの子孫、ナヴァ=ランの民でした。
神聖武装を纏い、異形の者たちとの戦いに挑むナヴァ=ランの戦士たち。
かつて精霊と共に歩んだ古代アルカディアの遺産が、現代においてどのような形で受け継がれているのか、そして 精霊の力を失った今、その真価をどこまで発揮できるのか……
また、超演算核の存在が明かされました。果たして、その本当の力とは何なのか?その核心については少しずつ明かされていく予定です。
次回は ついに戦闘開始!
ナヴァ=ランの戦士たちとマコトたちは、この襲撃を防ぐことができるのか!?
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