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第57話② 闇の中の謁見


ゼファルドは敗北を胸に秘め、研究所へ戻っていた。

彼の前では、自らの戦闘記録が再生され続けていた。


「(ヴァルザークの最大火力――虚晶崩滅砲コラプション・ストーム。理論上、対要塞戦すら想定したその一撃が、奴の砲撃と相殺され、それどころか押し返されるとは……!!)」


あり得ない。

計算上あの砲撃を真正面から受け止めることが可能な兵器など、この地上には存在しないはずだった。

だが、あの鉄の巨人(ライオカイザー)は――その一撃を受け止めるどころか寧ろ押し返してみせた。


「機体性能か? いや、違う。通常の戦闘データを見る限り、ライオカイザーは決して圧倒的に優位な性能を持っていたわけではない。むしろ、一部の性能(スペック)ではヴァルザークのほうが上回っている点すらあった……」


彼は再生された映像の中の、マコトの動きを注視する。


ライオカイザーの機動は、決して無駄のない精密な動きとは言えなかった。

むしろ、随所にリスクのある立ち回りや、無茶とも思える強引な機動があった。


だが、それが「計算不能な勝利」に繋がった。


「(……何故だ? 計算上、最適解ではないはずの選択肢が、結果として最も効率的な勝利への道となるとでも言うのか……?)」


ゼファルドは非合理的で理解不能な現象に思考を巡らせる。


さらに、マコトの 音声記録 を再生する。


「(ロボットを動かすには、心が、魂が必要なんだ――)」

「(俺のロボット愛はお前なんかに負けやしない――)」


あの人間の言葉が、何度も反芻される。


「……くだらん、くだらん人間の戯言だ」


彼は唾棄するように呟く。

しかし、拳が震えていた。


苛立ちを押し殺しながら、ゼファルドは映像を閉じる。

そして立ち上がり、研究所の奥へと歩を進めた。

 

その時だった。


――コツ


小さな音が響き、ゼファルドの足が止まる。


「……誰だ」


研究所の奥は、ゼファルド以外の者は決して立ち入らぬ場所だ。警備の魔装兵は配置されておらず、侵入者などいるはずがない。


だが、今確かにこの空間に存在しえぬ音が聞こえた。


ゼファルドは即座に魔術を展開する。

 

「魔力装填、詠唱圧縮……穿て焔槍射出インシネレート・スパイク!!」

 

詠唱と共に、彼の掌から業火の弾丸が放たれる。燃え盛る炎は、侵入者がいたと思しき空間を飲み込んだ――はずだった。


しかし、次の瞬間。


シュウウウウ……


炎が空中で霧散し、まるで何事もなかったかのように消え去った。


「何……!?」


ゼファルドは息を呑む。


完全なる術式の解除――?


通常、魔術の無効化には対抗魔術が必要だ。だが今のこれは、ゼファルドが放った魔術そのものが、この世界の理に反して存在すら許されなかったかのような現象だった。


その異常な事態に、ゼファルドの脳に悪寒が走る。


「……負けたそうだな、ゼファルド?」


「なっ……!?」


彼は思わず身構える。

闇の奥から、何の魔力の揺らぎもなく、それどころか“気配”という概念そのものが塗り潰される奇妙な感覚と共に、一つの影が現れる。


――この空間には 何の魔力の揺らぎもない。

だが、それこそが 異常だった。


(……気配が “存在しない”……!?)


気配を殺しているのではない。

存在そのものが 「そこにある」という認識すら許されないような――“理解を許されない存在” が、そこにいるのだ。

それは、この世界の“理”から外れた、“真の支配者”だけが持つ、至高の領域。

それは魔族を統治する絶対君主、「魔王」であった。

 

ゼファルドは即座に跪き、額が地に触れるほどに頭を垂れ非礼を詫びる。


「これは……!?申し訳ありません……!至高の御方……!我が愚かさ、誠に万死に値します……如何様にも処分を――!」


魔王は 足音ひとつ立てず にゼファルドの前に歩み寄り、静かに言葉を落とした。

 

「ヴェイラスを討ち、お前をも破った相手……どんな存在だった?」


魔王の言葉に、ゼファルドはマコトとロボットについての詳細をすぐさま報告する。


「ヤツは、“鉄の巨人”を駆っておりました。巨人の事を“ロボット”と呼び……」

「そして……“ロボットを動かすには、心と魂が必要” 、“ロボット愛"などと戯言を――」


ゼファルドは馬鹿馬鹿しさを込めて言い捨てる。

しかし――


「……心と魂……ロボット愛、か」


魔王は、一拍置いてから呟いた。

 

「確かに、その人間の言葉には、一理あるかもしれん」


ゼファルドは目を見開く。


「なっ……!? 我が王よ、人間の戯言を肯定されると……?」


魔王は冷静に命じる。


「その人間の監視を続けろ。今はこれ以上、手を出すな」


そう言い残し、 魔王は影へと消えた。


ゼファルドはただ、その場に跪きながら、拳を握りしめていた。


ゼファルドはしばらくその場で膝をついたまま、魔王の言葉を反芻する。


“心と魂”、“ロボット愛”


「(そして、あの御方はそれを「一理ある」と言った。)」


ゼファルドは拳を握りしめ、静かに呟く。


「心と魂、ロボット愛……」


その言葉の意味を考えながら、彼は拳をゆっくりと握りしめた。


(鉄の塊に、心など不要だ)

(戦いに、魂など必要ない)

(戦場とは、計算と効率によって勝敗が決する合理の場であり、“感情”や”精神”などという曖昧な要素は不要なはずだ)


――はずなのに。


魔王は、その”人間の言葉”を全否定しなかったのだ。

人類の殲滅を掲げる至高の御方、魔王軍を統率する絶対者であるのにだ。

それどころか、人間の言う事に一理あると言った。


「……我が王が、無意味なことを言うはずがない」


ゼファルドはそう呟き、再び冷静さを取り戻す。

魔王の言葉には、決して無駄がない。

何かを認めるなら、それはこの世界において無視できないモノだということだ。


ならば、この“理解不能な言葉”の意味を見誤っているのは、自身の知識と視野が狭いためではないのか

魔王に言われる前から、人間(マコト)の言葉に自らの信念はわずかに揺らいでいた。

先程の魔王の言葉はそんなゼファルドの心の内を見透かしていたのかも知れない。


「……“ロボット”という概念、その本質に、何かがあるのか?」


ゼファルドは静かに立ち上がった。

ただの鉄の塊ではない、あの人間が言う”ロボット”という存在。

それを動かすために必要だと言われた”心”と”魂”。


「……監視か」


ゼファルドは唇を歪ませ、微かに笑う。


「いいだろう。あの男(マコト)と”ロボット”が、我が王の目に留まるほどの存在ならば――」


彼の存在を更に徹底的に観察し、分析し、理解してやる。

そして、その本質を解き明かし、魔王軍の勝利の為に再構築する。


ゼファルドの眼光が鋭く光る。


魔王の影が消え去ると、研究所全体が静かに覚醒したかのように動き出した。

魔法具が淡い光を灯し、蒸気を噴き出しながら機械たちが低く唸る。


ゼファルドは ゆっくりと立ち上がると、無数の設計図が投影された空間を見上げた。


「……ならば証明してみせよう。貴公のロボットよりも私のロボットの方が優れているとな……!!」


彼の手が操作盤を滑るたびに、新たな数値が演算され、計算式が複雑に展開されていく。

既存の戦術理論を破棄し、 未知の領域に踏み込むための設計が組み直されていく。


――次なる“最高傑作”の誕生に向けて。



今回は、再びゼファルドの視点で物語を描きました。

敗北を受け、彼がどのように考え、そして何を導き出したのか――その思考の流れを描くことで、彼が単なる敵役ではなく、一人の信念を持つ探究者であることを伝えられればと思います。


“ロボットに心と魂が必要”

この言葉をゼファルドは一蹴しながらも、心の奥底では拭い去ることができない違和感を抱いています。

そして、魔王の一言が、それをさらに深い思索へと誘いました。


魔王という存在が単なる圧倒的な暴力の象徴ではなく、冷静に戦局を見極め、人間の言葉にすら意味を見出す“絶対者”としての姿を描いたのも、今回のポイントの一つです。

人類側が未だにその姿を知らぬ魔王。その支配者としての威厳と、未知の恐怖を少しでも感じてもらえれば嬉しいです。


次回からは遂に第五章 に突入します。

マコトたちが向かうのは、未踏の地「密林」――そこには、彼らが想像もしなかった“出会い”が待ち受けています。

新たな冒険の幕開けを、ぜひご期待ください!

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