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第57話① 救国の英雄


焦げた大地に、血が滲んでいく。

切り裂かれた鎧の破片が転がり、戦士たちの絶叫が辺りに響き渡る。

剣と魔法の交差する戦場の中、たった一人で敵陣を蹂躙する影があった。


――カーヴェル・エスパーダ。


その名は、かつて戦場に生きる者たちにとって “修羅覇王(ヴァルガ・レクス)” の異名とともに語られた。

かつて彼は、ただひたすらに強さを追い求めた。

剣を振るい、戦場を支配することこそが “己の存在意義” であると信じて疑わなかった。


「これが戦場の理……勝者がすべてを奪い、敗者はただ消えゆくだけだ」


戦場のどこかで誰かが叫んでいた。

――“修羅覇王が来たぞ!!”

その言葉が広がるたび、敵兵は恐怖に慄き、次々と逃げ出した。


カーヴェルはその恐怖を目にしながら、何も感じなかった。

“それが戦争” であり “それが強者の務め” だと、そう信じていた。


カーヴェルはある日、傭兵として雇われた軍の陣営を離れ、久々に戦地の外れにある街へと足を運んでいた。

戦場の空気に慣れすぎた身体には、どこか懐かしい活気と喧騒が心地よかった。


石畳の上を行き交う人々、果物やパンを並べる露店、子どもたちのはしゃぐ声。これまで無数の街を転々としてきたが、こうして平和な日常があることを目にするとほんの少しだけ戦場の現実を忘れることができる気がした。


その時、背後から「おじさん、すごい剣持ってるね!」という無邪気な声が聞こえた。


カーヴェルが振り返ると、そこには幼い少年がいた。

年の頃は七つか八つといったところだろうか。目を輝かせながら、彼の背に背負われた巨大な大剣を指さしている。


「おじさんって……お前、見た目で人を判断するなよ。俺はまだ二十代なんだぞ。もうちょっとマシな呼び方があるだろう?」


カーヴェルが苦笑しながらそう言うと、少年は腕を組んで少し考えた後、にかっと笑った。


「じゃあ……“剣のお兄ちゃん”!」


「……まあ、それなら許してやる。」


カーヴェルは肩をすくめつつも、その少年の無邪気な笑顔にどこか懐かしさを覚えた。


「それにしても、そんなにこの剣が珍しいのか?」


「うん!すっごく大きくてかっこいい! お兄ちゃん、すごく強いんでしょ?」


「まぁな。この剣を振るって、戦場で敵を蹂躙する。だからこそ、この剣は俺の生きる証みたいなもんだ。」


「へぇ……じゃあ、お兄ちゃんは敵を倒して街を守る騎士なの?」


少年の言葉に、カーヴェルは言葉を失った。


(俺が……守る?)


これまで彼は、戦場では誰よりも強く、誰よりも恐れられる存在だった。

だが、それはあくまで敵を倒す「戦士」としての強さであり、誰かを「守る者」としてのそれではない。


カーヴェルは僅かに目を細め、少年の瞳を覗き込んだ。


「……俺はただの傭兵だ。戦うために戦場にいるだけさ。」


「そっかぁ……」


少年は少し残念そうな表情を浮かべたが、それでもすぐに笑顔を取り戻した。


「でもね! 僕、お兄ちゃんみたいに強くなるんだ!それでね、この街のみんなを守るんだ!」


「……そうか。」


カーヴェルはわずかに口元を綻ばせ、少年の頭をぽんぽんと軽く撫でた。


「強くなれよ。俺よりも、もっと強くな。」


「うん!」


少年は満面の笑みを浮かべながら、カーヴェルの周りをくるくると回り、「剣のお兄ちゃんみたいに強くなるぞ!」と意気込んでいた。


その光景を眺めながら、カーヴェルはふと、どこか温かいものを感じていた。


「(この戦いが終わったら、あの少年に剣を教えてやるのもいいかもな……)」


だが、彼の願いが叶う事はなかった。


なぜなら、それからわずか数時間後、戦火がこの街を襲ったのだから――

 

戦いは終わった。敵軍は壊滅し、勝者は歓喜の雄叫びを上げる。

カーヴェルもまた、己の剣が果たした役割に満足しながら、その場を後にしようとした。


しかし――


ふと振り返ると、 先日訪れた街が炎に包まれていた。


「……この戦いは私が終わらせた筈だ。なのに、何故……!?」


かつて敵の支配下にあったその街は、今や戦火の余波に巻き込まれていた。

炎に包まれ、泣き叫ぶ者、逃げ惑う者、瓦礫に埋もれる者たち……

何も知らぬ “弱者” たちが、一方的に戦争の犠牲となっていた。


その時、カーヴェルの脳裏にある記憶が蘇る。


小さな少年――戦いの前、街の広場で彼の剣を見て、目を輝かせていたあの子供の事を。


(『でもね! 僕、お兄ちゃんみたいに強くなるんだ!それでね、この街のみんなを守るんだ!』)


戦場に向かう前の、ほんの一瞬の出来事だった。

だが、カーヴェルは思い出してしまった。

あの少年の笑顔、彼の夢、彼の未来――すべてを。


彼は駆け出していた、戦火に包まれる街へ。

――そして少年の姿を、焼け落ちた瓦礫の中に見つけた。


「……おい……」


駆け寄る。

手を伸ばす。


血に染まり、瓦礫に埋もれながら、彼はまだ辛うじて生きていた。


「おい、しっかりしろ!」


少年は微かに瞳を開いた。

――そして、震える唇を動かし、最後の言葉を残した。


「オジさん、強いんでしょ……?」


「この街を……守って……」


――そして、息を引き取った。


静寂。


刹那、カーヴェルの胸が抉られるような痛みを感じた。

今まで味わったことのない、底知れぬ痛み。


「……私は……何をしていた……?」


力とは何か。

戦場の理とは何か。


カーヴェル・エスパーダは、この瞬間、初めて”強さ”の意味を問い直した。


彼はその後、戦場に戻った。

だがそれは “倒すための戦い” ではなく、“守るための戦い” だった。


“強さ” を追い求める者ではなく、“強さ” を 人々のために使う者へと変わったのだ。


その後、故郷である アルヴェスタ連邦が魔王軍に滅ぼされかけていると知り、迷わず戻る。

カーヴェルはその戦場で 命を懸けて戦い人々を守り抜き、ついに”救国の英雄”と呼ばれるようになった。


少年の最後の言葉を胸に刻みながら――


今回は、カーヴェル・エスパーダの過去に焦点を当てた話でした。

かつて “修羅覇王ヴァルガ・レクス” として恐れられた彼が、戦場を蹂躙する戦士から “守る者” へと変わる、その転機となった出来事を描いています。


ただ “強さ” を求めるだけでは、真の意味で何かを救うことはできない。

そのことに気づいたカーヴェルが、戦場の鬼神から “救国の英雄” へと変わるまでの道のりを少しでも感じてもらえたら嬉しいです。


次回もまだ幕間がもう少し続きます。

勝者の影には敗者がいる、そして敗者の背後に迫る謎の影、圧倒的な力を見せる影の正体は一体!?

次回にご期待ください!

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