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第52話 見えざる者、救国の英雄


戦場に立つヴァルザーク。その巨大な機体からは蒸気が絶えず噴き出し、動くたびに金属の軋みと機関の脈動が響き渡る。

機体の随所に埋め込まれた動力パイプが脈動し、まるで”血が通っている”かのようにうねり、そこから時折高温の蒸気が勢いよく吹き上がる。


「……過剰な蒸気の排出でアレだけの量が必要なのか? いや、それだけじゃない……」


マコトはヴァルザークの動きを観察する。

ヴァルザークの関節部分から断続的に噴き出される蒸気は、まるで生きているかのように一見不規則なパターンを描いている様に思えたが――


「……! そうか、あれは単なる蒸気の排出じゃない……視認しづらくするための計算された蒸気放出か!」


その瞬間、ヴァルザークの背部から更に大量の蒸気が噴射される。

それと同時に、巨体がぼやけるように揺らぎ──次の瞬間、消えた。


「……!? どこに行った!?」


「マコト! そこ、右側!!」


アイリスの叫びが響いた瞬間、ヴァルザークの巨大な脚が空間から突き出し、シルバレオを蹴り飛ばす。

強烈な衝撃が走り、マコトはコックピットの中で歯を食いしばる。


「ぐっ……!!」


シルバレオは数十メートル吹き飛ばされ、大地に衝突。その衝撃で地面が割れ、砂塵が舞い上がる。


「クソッ……厄介だな。ご丁寧に魔術か何かで足音も消しているから動きが読めない……!」


マコトが体勢を立て直すと、霧のような蒸気の中から再びヴァルザークの影が浮かび上がる。


「フフ……”見えない”というのは、随分と厄介だろう?」


ゼファルドの不気味な声が響く。


「……無敵の能力なんて無い、どこかに突破口があるはずだ……!」


「マコトさん、もう少しだけ待って! 司令部でヴァルザークの見えない技術の仕組みを解析してるわ!」


フィオナは司令部の魔術分析用の魔法具に張り付き、必死に解析を続ける。

ヴァルザークが動くたびに生じる魔力残渣の微細な変化を観測し、パターンを探っていた。


「(通常隠蔽魔法は術式で対象の存在感を薄め、同時に周囲の風景を表面に再現するもの……だけどヴァルザーク(アイツ)はおそらく違う。アレだけの規模の隠蔽魔法を自由自在に展開するのは不可能に近い。見えなくなってるのには別の理由がある……!)」


解析を進めると、機体が姿を消す時に特定の魔力の流れが発生している事が判明した。


「これは……光魔法の一種?何故こんなに単純で意味も無い術式を……?


「フィオナ!いま光魔法って言ったのか――!?」


「え、ええ。高度な隠蔽魔法の術式は全く見当たらないわ、一体どうやって姿を消しているのか見当が――」


「そうか、分かったぞ!(ゼファルド)の姿を消す方法が……!」


マコトは敵が魔法の力のみでその姿を消していると考えていた。剣と魔法のファンタジー世界に召喚されたせいか尚更に魔術は万能の力であると。

だが今では彼も理解していた。この世界の魔術も一定の法則によって運営されており万能ではないと。アレだけの巨大な機体を消したり見えたり何度も魔術を行使するのは莫大な魔力供給が必要で、幾ら虚晶石を用いたとしてもあの威力の攻撃を繰り返しながら同時に隠蔽魔法を行使するのは不可能に近い筈である。ならば――


「(おそらくは噴き出した蒸気を利用して、使用魔力が極僅かな光魔法を駆使し光を屈折させる事で姿を消している……即ち、(ゼファルド)は科学の理論を用いている!)」


辿り着いた結論、それは敵が魔術と科学を融合させて光学迷彩(ステルス)を使っていると言う解答(こたえ)


「その光魔法の魔力の流れや残渣に何か規則性は無いのか――!?」


遅い来る不可視の攻撃を的を絞らせない様に動き続ける事で辛うじて交わしながらフィオナに尋ねた。


「今やってるわ!単純すぎる術式もこれはこれで解析が難しいのよ、しかも数も多いし……!!」


司令部の魔術分析官達が舌を巻く程の速度でフィオナはその法則性を見極めようと解析に没頭していた。


「……見つけた! 僅かだけど、おそらく動く方向と速度で術式の発動時間に差があるわ!!いま通信魔法具で情報を送るわ!」

 

フィオナが解析データを送信すると、シルバレオのコクピット内に魔法具を通して魔力残渣の規則データが表示される。


「これまでの仕掛けて来た方向とこのデータを重ねると、次は……そこだ!!」


瞬時に装備をヴォルテックスホーンに換装すると同時に脚部スラスターを全開し一直線に出現予想地点へと突進する。

視認はできないが、フィオナからのデータを信じてヴォルテックスホーンをブレード状に変形させ点ではなく線で薙ぎ払う――


「今だぁぁぁッッッ!!」


機体の加速を利用して巨大なブレードが大気を切り裂きながら振り抜かれ、遅れて周囲の空気が唸りを上げる。

同時に猛吹雪の如き冷気の突風が吹き荒れ周囲に巨大な氷塊が形成される。

ブレードを振り抜いて反転し、シルバレオとマコトは攻撃地点をじっと睨む。次の瞬間――真っ黒な体液とも油ともつかない液体が何も無い空間から噴き出した。

 

「なんだと!?まさか我が光学迷彩(ステルス)を見破るとは……!」


ゼファルドが驚きの声を上げる間もなく、ヴァルザークの巨体が大きくぐらつき地面に膝をついた。


「やった……!」


フィオナが安堵したのも束の間、ゼファルドはすぐに機体を立ち上がらせる。


「……なるほど。見えなくとも、”追える”というわけか」


その声には驚きよりも、むしろ興味が滲んでいた。


「興味深いな、貴公も貴公の仲間も――」


ヴァルザークの頭部がギギギ、と不気味に動くと都市の中心部の方へ向き直る。


「貴公らの通信の一部を傍受させて貰っていた。私の組んだ術式の法則性を見抜くとは、どうやらあちら(防衛軍司令部)にいる貴公の仲間は存外に優秀のようだ……」


その言葉と同時に、戦場全体に異変が起こる。

戦場全体で広く戦っていた魔物軍が、突如として一斉に都市中心部へ向けて進軍を開始した。


「……いったいどういう事だ?敵が我々に目もくれずに動きだしたぞ!?」


戦場で苦戦していた騎士たちが、急に興味を失ったかのように魔物たちが一斉に動き出した事に呆気に取られる。


しかしその光景にフィオナが焦りを滲ませながら叫ぶ。


「敵の軍勢の目標は防衛軍司令部(ココ)です!奴らは戦場での戦いの一切を放棄して、あらゆる損害も厭わずに司令部を攻め落とすつもりです!!」


ゼファルドは不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。



「我が軍勢は痛みも恐怖も知らぬ……決して止める事は出来ん。司令部が落ちるのは、時間の問題だ――」


マコトの脳裏に、セレスティア・ノーヴァが、アイリスやフィオナ、カーヴェル、都市の人々が戦火に焼かれる光景がよぎる。

助けに戻るべきか、それともヴァルザークを倒すことを優先すべきか──


しかし、その迷いを断ち切る声が響いた。


「アタシがいる限り、この街はそう簡単に落ちやしないわよ!!」


司令部の正門が開かれ、一人の男が堂々と戦場へと歩み出る。


「カーヴェル執政官……!?」


アイリスが驚愕の声を上げる。


カーヴェルは両肩を回しながら、愛用の巨大な剣を担いだ。


「……しばらくお淑やかにしてたけど、そろそろ我慢の限界だわ」


その姿に、防衛騎士団の者たちが大きな声を上げた。


「カーヴェル様が出るなら、もう安心だ!まさか再びあの方の戦う姿を見れるとは……」


「そうだ、何せ執政官殿はかつて、たった一人で魔王軍の侵攻を食い止めた”救国の英雄”……!」


「えっ……!?」

 

マコトとアイリスが揃って驚愕する。


「それに、傭兵時代には”大陸十強”の一角とまで呼ばれた方だ……!」


「カーヴェル執政官……大陸10強って、ただの政治家じゃなかったんですか……!?」


驚くマコトたちに、カーヴェルは余裕の笑みを浮かべる。


「昔の話よ、それに乙女には秘密の一つ二つはあるものじゃない?さぁ、マコト! こっちは何も気にしなくて良いわ!あんたはヴァルザーク(アイツ)をブチのめしちゃいなさい!」


カーヴェルが前線に立ち、圧倒的な戦闘力で魔物軍を蹴散らしていく。人間とは思えないその力と自らの危険を厭わない献身性は正に救国の英雄と呼ばれるに相応しいものだった。その姿を目の当たりにし、マコトの迷いが消え去った。


「ありがとうございます……これで、心置きなく戦える――!!」


シルバレオの操縦桿を握り直し、マコトはヴァルザークを見据える。


「ゼファルド……今、お前をここで倒す!!」


その宣言に、ゼファルドは小さく笑いながら答えた。


「倒す……? 我が最高傑作を舐めて貰っては困るな……!」


ヴァルザークの蒸気機関が再び唸りを上げ、光学迷彩の効果が再起動する。

しかし、マコトの目はもはや迷いなく、確信に満ちていた。


「見せてやる……俺の“奥の手”を!!」


今回のエピソードでは、ついにヴァルザークとの激闘が本格化しました! さらに、カーヴェル執政官の“本当の姿”が描かれ、彼の圧倒的な戦闘力にマコトたちも驚愕する展開に。

そして次回――マコトの“奥の手”がついに解禁! 戦場の命運を賭けた決戦が加速します。ご期待ください!

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