第50話 虚ろなる結晶
戦場の喧騒の中、突如として異質な存在感が広がった。
まるで空間そのものが歪むかのように、視界の一部が奇妙に揺らめく。光が屈折し、そこにあるべきものが”ぼやける”ような不快な違和感。
そして——
「……ふふ、ようやくお目にかかれるか。いや、正確には私の方は”初めて”ではないのだがね」
静かに、だが確かに響く声。金属が奏でるような、歪みのない音色を持つその声は、戦場の喧騒すら押し殺すほどの存在感を放っていた。
マコトたちが声の聞こえてきた方向に注目すると、そこには何かがいた。
「ああ、すまない。このままでは見辛いだろう。これなら君達にも見えるかな……?」
その言葉と共に更に空間が歪みその輪郭が朧げな状態から段々とはっきりとしてくる。
声の主の身体は透き通るような結晶体でできており、光を透過しながら角度によって輪郭が揺らめく。まるでそこに”いる”のに、“いない”ように錯覚させる不気味な存在。
——だが、確かに”そこにいる”。
その異様な姿に、アイリスが眉をひそめる。
「一体何者なの……」
マコトも警戒を強めながら、無意識にシルバレオの動力を微かに上げる。
その様子を見て、男は静かに笑った。
「改めて……お初にお目に掛かる。我が名はゼファルド……偉大なる魔王様の忠実なる僕である」
「――まさか、虚晶将!?確かにこれだけの軍勢を動かせるのは魔王軍の幹部くらいでしょうけど、こんな最前線に自ら出向いてくるなんて……」
マコト達の通信から聞こえてきた名前に、カーヴェルは驚愕した。
「この戦場を指揮し、貴公らの戦いを……ずっと”拝見させてもらっていた”のだがね」
彼はまるで旧友にでも語りかけるような口調で、静かに一礼した。
「貴公らがこれまで積み重ねてきた戦闘記録——その一つひとつが、実に興味深かった」
そして、ゆっくりと首を傾げる。
「貴公の”銀色の獅子”もだが……我が同胞、ヴェイラスを倒した”鋼鉄の巨人”の方に私は興味を謗られた」
「……!」
マコトの眉がわずかに動いた。その言葉の裏にある意味に気づいたからだ。
「……いつから俺たちを監視していた?」
「監視、か……」
ゼファルドは考えるように口元に指を添え、すぐに愉悦の笑みを浮かべた。
「ふふ、そうだな。少なくとも、我が作品を貴公がを倒した事に私の関心は大いに揺さぶられた」
「金属で出来ていながら、まるで生物のように動き、驚異的な力を発揮し、敵を蹂躙する”鋼鉄の戦士”……」
ゼファルドはまるで宝石を愛でるかのように、その言葉を口にした。
「いやはや、見事だ。アレらは本来ただの金属の塊。我らや人間どもが用いる”ゴーレム”なぞは命じられた通りに動くだけの、無機質な存在……だが、貴公の造り出す作品は違う」
ゼファルドはシルバレオを一瞥し、指を軽くかざす。
「その”銀色の獅子”は、まるで知性を持っているかのように動く。戦場の状況に応じて柔軟に……無機物に生命を感じるほどにだ」
彼は結晶で出来た頭部に浮かぶ暗い無機質な目を細めながら語り続ける。
「そして――その姿こそ、私がかねてより求めていた”理想”の一つなのだだ」
ゼファルドはゆっくりと頷き、マコトの方へ向き直る。
「さて、貴公の名を聞かせてもらおうか」
「……どう言う意味だ?」
「他意は無い。この私に、“これほどの興味”を抱かせた男の名を、是非とも知っておきたいのでね」
まるで相手を”観察対象”として見るような、その態度。その言葉。その眼差し。
だが、ゼファルドは確かにマコトに対して、“純粋な興味”を抱いていた。
「貴公の”名”を……私に教えてはくれないか?」
その問いに、マコトは静かに息を吐き、ゼファルドを真正面から見据えた――
「俺の名は……サトウ・マコトだ」
「サトウ・マコト……覚えておこう。さて、少々お喋りが過ぎたな。そろそろ本題に入ろう――」
ゼファルドは軽く手を掲げた。その瞬間、戦場の奥から”それ”が姿を現した。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
轟音と共に、地を揺るがすほどの巨体が姿を現す。
巨大な鋼鉄の躯体——しかし、そこには”生体部品”が組み込まれていることで、ただの機械ではない、異様な生々しさが漂っていた。
「貴公の”鋼鉄の巨人”を見て、私も少しばかり触発されてね……」
ゼファルドは淡々と言葉を紡ぎながら、その巨躯を見上げる。
「“生物と金属の融合”……それが、私の技術の究極の到達点だと思っていたが……どうやら貴公の技術は、そこからさらに”別の方向”へ進化しているようだ」
それは機械でありながら、魔物の肉体を融合させた”異形”の戦闘兵器だった。
二足歩行型、20メートルを超える巨躯。鋼鉄の装甲の下には、血管のように絡みつく”生体組織”が脈動している。
頭部には無数の赤い光点——まるで魔物の瞳が”埋め込まれた”ような異様な造形を持ち、その腕は鋼鉄と魔獣の筋組織が絡み合いながら、一撃で都市を粉砕できるほどの巨大な腕を形成している。
「私の最高傑作だ。名付けて……ヴァルザーク」
ゼファルドは満足げに微笑む。
「さて、貴公の”獣”と……我が”最高傑作”……どちらがより優れているか、確かめさせてもらおうか――!」
その言葉を合図に、ゼファルドはその身を宙に浮かべヴァルザークの体内に吸い込まれる様に消えていく。
それを合図に、ヴァルザークが一歩を踏み出した。
轟音と共に、地面が大きく揺れる。
「……ここまでのサイボーグ化された魔物達は全てコイツを作るための試作品ってことか!!」
マコトは即座にシルバレオの出力を上げ、迎撃態勢を取る。
「ゆくぞ、サトウ・マコト――!!」
ヴァルザークが両腕を振りかぶる。
その瞬間、空間すら軋むような異様な圧力が戦場を包み込んだ——!!
マコト達の前に現れたのは二人目の魔王軍幹部「虚晶将ゼファルド」、彼の目的はマコトの機械技術を取り入れ自らの技術と融合させる事で巨大なロボットを作る事でした……
魔王軍製の巨大ロボ「ヴァルザーク」にマコト達はどう立ち向かうのか?
次回にご期待ください!
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