第49話 戦場を支配する影
セレスティア・ノーヴァの防衛線は、すでに崩壊寸前だった。夜明けの光が地平線を染める中、魔物軍の咆哮と金属の衝突音が響き渡る。
だが、今日の戦場はこれまでとは違った。防衛一辺倒の戦いではなく、ついに反撃の時が訪れたのだ――
「──全軍、反攻作戦を開始する! 各部隊、持ち場を死守しながら進軍せよ!」
カーヴェルの号令が響き渡る。
魔術師団が詠唱を開始し、防衛騎士団が剣を構え、騎兵隊が戦場に突撃する。
「アイリス、俺たちも出るぞ!フィオナは司令部からサポートを頼む!」
「了解!絶対に守り切って見せるんだから――!」
「私も全力で二人をサポートしますから!戦況を伺いつつ敵の指揮官を探すことに集中するわ」
マコトとアイリスは混迷極まる戦場に身を投じていく――
そして戦場全体を覆うような怒号と爆発音の中、連邦軍の大反抗作戦が始まった。
「魔術師団、全隊一斉射撃! 炎の陣を展開し、敵の前衛を削り取れ!」
指揮官の号令が響き渡ると、魔術師団が一斉に杖を掲げ、複雑な魔法陣を空中に描く。
「「「「「焔の胎動、烈火の奔流よ。虚空に渦巻き、天地を焦がし尽くせ!――豪炎竜巻!」」」」」
一斉に詠唱が完了すると、空から炎の渦が降り注ぎ、魔物たちの陣形が崩れる。
すると、灼熱の奔流が敵陣へと押し寄せ、前衛にいたサイボーグ魔物たちが次々に炎に包まれた。
「うおおおおおおっ! 騎士団、陣形を維持! 魔物を押し返せ!」
最前線では、鋼鉄の鎧に身を包んだ防衛騎士団が、魔物たちの突撃に真正面から立ち向かっていた。
大盾を構えながら、巨大な剣で敵を叩き伏せる。剣技と槍術が火花を散らし、切り伏せられた魔物が次々に崩れ落ちていった。
だが──。
「っ……こいつら、倒してもすぐ立ち上がってくる!?」
「普通の魔物とは違う……! まるで死霊のように動き続けてるぞ!」
切り裂かれたはずの魔物が、機械仕掛けの関節を駆使してすぐさま立ち上がり、再び戦列に加わる。
まるで、戦場に”死”が存在しないかのように、サイボーグ化された魔物たちは何度でも蘇る。
「魔術師団、援護を急げ!!」
「了解、全員魔法陣を展開!一斉砲撃を開始!」
魔術師団の一人が焦燥を滲ませた声を上げるが、その間にも敵は前進を続ける。
魔術師団の術士たちが、一斉に杖を掲げると、周囲の空気が震えた。
「「「「「大地を穿ち、天を覆う鉄壁の礎よ。万鈞の重圧をもって、全てを押し潰せ――巨岩の驟雨!!」」」」」
詠唱が完成するや否や、浮遊した巨岩の群れが高速で放たれ、敵陣を岩石の雨が飲み込んでいく。
凄まじい衝撃と土煙が巻き起こり、サイボーグ魔物たちを一気に吹き飛ばした。だが――
「……嘘だろ?まだ動くのか!?」
土煙が収まった後、装甲の一部が剥がれ落ちながらも、敵は再び前進を開始していた。
装甲が歪み、関節が軋んでも、機械のごとく規則正しい動きを続けている。
「こっちの出番みたいだな……!」
マコトはシルバレオの脚部スラスターを最大出力にし、一気に戦場へ突っ込んだ。
背部の冷却ユニットが唸りを上げ、全身の装甲が青白い光を帯びる。
瞬間、回転機関砲が回転を始め、冷気を纏った弾丸が一斉に放たれた。
自在に可動する砲塔から凍結弾が雨のように降り注ぎ、サイボーグ魔物の群れを次々と貫いてゆく。
機械と生体が融合した異形の魔物たちが、弾丸の直撃を受けるたびに装甲ごと凍結し、破砕される。
「……こんなもんじゃ、大して数は減らないか――!」
完全に凍り切らなかったサイボーグ魔物が、関節部の機構を無理やり作動させ、氷の枷を砕きながら突進してくる。
「しぶとい奴らだ……なら、こいつはどうだ!!」
マコトは砲撃を止めることなく、戦場を駆け抜けながら全身の元素噴進弾発射器を展開。炸裂弾を装填し、敵陣の中央へ向けて発射する。
炸裂弾が命中し、爆炎と共に強烈な衝撃波が広がった。
爆風の中、無数の魔物が炎に包まれていく。
だが、それでも敵の侵攻は止まらない。
「くそっ、どうにもこうにも数が多すぎる……!」
マコトは戦線を押し広げるため、全身の小型スラスターを噴かして高速旋回を行う。
そのまま敵軍側面へ移動し、元素噴進弾発射器を展開すると連続して発射された冷気を封じ込めた噴進弾頭が爆裂し、爆風に巻き込まれた魔物兵が凍結し砕け散る。
その後もシルバレオの砲撃が火を吹き、冷気を纏った弾丸が敵の群れを次々に貫いた。しかし──
「なんだこの違和感は……?」
いくつもの戦場をくぐり抜けてきたが、今回の敵はこれまでとは明らかに違う。単に統率が取れているだけではない。こちらの攻撃に対する反応が異常なほど早いのだ。
「こっちの砲撃の死角に入る動きをしてくる……しかも、冷気弾頭に対して、強い熱を放つ魔物を前にに再配置してきている……?」
敵の配置が、明らかにシルバレオの武装に最適化された陣形になっている。
「マコト! なんか……凄く変な感じがするよ!」
上空から援護射撃をしていたアイリスが苛立った声を上げた。
「私の攻撃がことごとく防がれてる! それだけならまだしも、反撃してくるタイミングが完璧過ぎる! まるで私の動きが読まれてるみたい……!」
フィオナも魔術解析を進めながら、息を呑むように言った。
「……これは偶然じゃない。敵は私たちの装備と戦術をを完全に理解している動きよ……!」
その言葉に、マコトはさらに眉をひそめた。
「(戦術を読まれている? 俺たちがここに来たのはつい先程の筈……それなのに、どうしてここまで完璧に対策を練られているんだ?)」
マコトの脳裏に嫌な考えがよぎる。
「……待てよ。まさか……!」
「マコトさん――?」
フィオナが怪訝そうに問いかける。
「外郭都市への同時攻撃……あれはただアルヴェスタ連邦に攻め込んだだけじゃない。恐らく俺たちの戦闘データを収集する為のものだったんだ――!!」
その仮説に、フィオナの表情が青ざめた。
「まさか、そんな……でも、確かにそれなら全ても説明がつくわ。敵は私たちの攻撃の癖、武装の特性、そして立ち回りを完全に分析している……!この戦場での動きだけを見て対応しているとはとても思えないもの」
その間もアイリスが焦りを滲ませながら、空中機動を駆使して反撃を続ける。しかし、敵の迎撃は恐ろしいほど正確で、アイリスの死角を徹底的に狙ってくる。
「普通ならそんなこと考えられない……でも、もし敵が今回の攻撃よりもずっと前から俺たちを観察し続けていたとしたら?」
マコトは、遺跡での戦い、街での防衛戦を思い出す。敵は何度も攻撃を仕掛けてきた。そのすべてが、あくまで「実験」のようにも思えた。
その言葉に、アイリスとフィオナが一瞬息を呑んだ。
「そんな……いつの間に!?」
「もしかすると、以前の戦闘の時点で。あるいは、さらに前からずっと……」
マコトの手が自然と強く握りしめられる。
「俺たちの攻撃を、機体を、分析して最適な手段を用意してるってわけか……今回の敵はとんでもない策略家だな……!」
それは、単なる策略ではなく、まるで一つの生き物のように獲物を追い詰め飲み込む巨大なシステム――
だが、それを可能にする指揮官がどこにいるのか、マコト達にはまだ見えてこない。
そして──戦場の遥か奥、暗い霧の向こう側に、得体の知れない影がゆっくりと姿を現し始めていた……
ついに連邦軍の大反撃が開始! しかし、敵はマコトたちの戦闘データを分析し、徹底的な対策を練っていた……! 果たしてこの戦場の裏で糸を引く存在とは? そして、次回ついに過去最強の敵がその姿を現す――!!
次回にご期待ください!
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