第44話 グレイシャルバスター
迫る危機の報告がセレスティア・ノーヴァの執政庁に届いたのは、昼下がりのことだった――
「外郭都市フレメリアが、未確認の魔物の軍団に襲撃されています! 地平を埋め尽くす様な大群で、防衛線はすでに崩壊寸前です!」
焦燥感を滲ませた伝令の報告に、執政庁は瞬く間に緊張感に包まれた。
報告を受けた執政官カーヴェル・エスパーダは、眉間にシワを寄せながら立ち上がる。
「……ついに動き出したのね。奴らのn目的がどこまで広がっているのか……」
静かな怒りを滲ませながら、彼は執務官に向けて命じた。
「すぐにマコトさんたちを呼んでちょうだい。今の連邦にとって、あの人たちの力が不可欠よ」
執務官は一礼し、急ぎその場を後にした。
数十分後、執務室に呼び出されたマコトたちは、カーヴェルの前に立っていた。
「わざわざ脚を運んでくれてありがとね。マコトさん、アイリスちゃん、フィオナちゃん。」
カーヴェルは椅子から立ち上がり、真摯な眼差しを向ける。その表情は、普段のおどけた雰囲気とは一線を画す、重い責任を背負った執政官のそれだった。
「今日は余計な話は抜きにするわ……実は我が国の外郭に位置する都市国家フレメリアが、未確認の魔物の軍団に襲撃を受けているの。連邦軍は防衛に全力を尽くしているけれど、凄まじい数と敵の戦術に対応しきれていない状況よ……」
「……未確認の魔物の軍団?」
マコトが眉をひそめながら問いかける。
「ええ。あなたたちが大図書館や街で戦った、あの魔物たちと酷似した物が多数確認されているの。数が多いだけでなく、これまでの戦い方よりもずっと組織的だと聞いているわ」
カーヴェルはテーブルの上に広げられた地図を指差し、フレメリアの位置を示した。
「他の都市国家も同じ様に狙われる危険があるから容易に軍隊を動かせない状況なの。今、フレメリアを守れる力は正直言ってあなたたち以外にいないの、頼ってくれて良いと言っておきながら恥ずかしいんだけど……お願いできないかしら?」
カーヴェルの声は一瞬だけ震えた。彼はすぐにそれを押し隠すように小さく笑い、目を伏せた。
「……本当は、自分で戦場に出たい位なのよ。これでも結構強い方なんだから。でも、執政官という立場上前線で戦うわけにもいかないの……本当にごめんなさいね、マコトさん」
その言葉には、自分が頼らざるを得ない無力さへの悔しさがにじんでいた。
「何を言ってるんですか、カーヴェル執政官。あなたがいるからこそ、この街はこんな状況でも混乱せずに動けているんでしょう。貴方は貴方が出来ることをして下さい。俺たちは俺たちにしか出来ないことをやります。任せて下さい!」
マコトが真っ直ぐに答えると、カーヴェルはわずかに目を見開き、微笑みを浮かべた。
「……本当に、あなたは頼もしいわね。ありがとう、マコトさん」
そして彼は目をアイリスとフィオナにも向ける。
「アイリスちゃんとフィオナちゃんも、力を貸してくれる?」
彼の頼みに、アイリスはすぐに頷いた。
「もちろんです! この国の人々を守るため、全力を尽くします」
その力強い言葉に、カーヴェルは嬉しそうに微笑む。
「私もお手伝いしますわ。学んだ知識を、少しでも皆さんの役に立てるために」
フィオナもまた、静かに答えた。
「ありがとう、本当に……。連邦の人々の命運は、あなたたちの手にかかっているわ」
カーヴェルは深く頷き、再び地図を指差した。
「さあ、そうと決まれば善は急げね。急いで準備を整えてちょうだい。私も後方支援の準備を進めておくわ」
マコト達は素早く準備を整え、フレメリアへ向かった。
予めアークティカの無限軌道を新たにホバーシステムに換装していたので馬車よりも遥かに早く現地に到着することが出来たのだった。
マコトたちがフレメリアに到着した時には、すでに状況は深刻だった。無数の魔物が街中を蹂躙しており、防衛線を維持している連邦軍の兵士たちも次々と倒されていた。
「数が多すぎる……!」
アイリスが空から戦場を見渡し、歯噛みする。
地上では、蒸気を噴き出す異様な魔物たちの軍勢が互いに連携する事で巧妙な戦術を繰り広げていた。小隊を組みながら、距離を保ちつつ包囲攻撃を仕掛け、防衛部隊を次々に追い詰めていく。
「シルバレオ、出撃だ!」
マコトは即座にシルバレオを召喚し、ヴォルテックスホーンを展開。猛然と敵の群れに突撃し、正面から敵を切り裂いていく。
最初はその圧倒的攻撃力でシルバレオは敵機を次々と切り伏せていたのだが、敵も近距離は不利と判断したのか、付かず離れずの中距離を保ちながら代わる代わるに止め処なく魔力の弾幕を浴びせる様な戦術に切り替えてきた。
「以前と違って動きがかなり洗練されてるな……それに数が多すぎる――!」
マコトが焦燥感を滲ませた声を上げる。目の前の敵を何とか撃破するものに次々と増援が送り込まれてくる。
包囲網はさらに狭められていき、やがてマコトはじわじわと追い詰められていく。
「マコト、背後に気をつけて!」
アイリスが空中から援護射撃を行うが、敵の数があまりにも多く決定打を与えるには至らない。
その時、地面が大きく揺れた。遠くから巨大な影がゆっくりと姿を現す。
「あれは……まさか――!?」
マコトが息を呑む。
セレスティア・ノーヴァでも戦った巨大な魔物が、街路を粉砕しながら進軍していた。それも一体ではなく何体も同時にである。
「まさかこんなのが量産化されているのか――!?」
その威容にマコトは思わず声を震わせる。
すると巨獣の肩の複数の砲塔が回転しながら一斉にアイリスに狙いを定めた。
「……!! アイリス、狙われてるぞ!!」
「――っ!!」
アイリスは急旋回して辛うじて砲撃を回避するが、爆風が空中にまで広がり、翼がバランスを崩す。
「マコト! あいつらの火力、シャレにならないよ!」
「分かってる! だが、ここで引くわけにはいかない……!」
マコトはシルバレオを前進させ、果敢に巨獣に挑んでいく。
敵の猛攻をかわしつつ、マコトはある決断を下す。
「……ぶっつけ本番だけど、ここでやるしかない!」
そう呟くと、マコトはし収納袋から新たなメカを取り出した。同時にシルバレオの装甲が大きく展開し、全身のハードポイントに新たな武装と装甲が装着されていく。
背中に取り付けられた冷却装置を兼ねる氷嵐巨砲、全身各所に氷嵐の守護神の力で大幅に向上した出力を利用した元素噴進弾発射器、腰部には射角の広い回転機関砲が左右一門ずつ搭載されている。そして全身を輝霊鋼石製の強固な装甲で覆った姿は、まさに移動要塞と言える。
「氷嵐大砲撃装着完了!アイリス、援護を頼む! これで奴を止める!」
「了解! シルバレオの火力で、あの化け物をやっつけちゃって!!」
遂にグレイシャルバスターが起動し、シルバレオが新た力を今、解き放つ――
いよいよ敵の侵略が本格化してきました。
しかし問題はそれだけではない様です、外と内から二重に攻められている様子……
今までと違い魔王軍はかなり狡猾に動いています。
敵の大群と企み、その両方をマコト達は止めることが出来るのでしょうか?
そして次回はいよいよ新装備、グレイシャルバスターの真価が発揮されます。
次回にご期待ください!
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