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第41話 アークナイト

大図書館の暴走事件の翌日。マコトたちはセレスティア・ノーヴァの執政官、カーヴェル・エスパーダに招待され、彼の執務室を訪れていた。

執務室は広々としており、壁一面に並ぶ古書と天井に施された細やかな彫刻がこの都市の威厳を象徴している。


扉が静かに開き、カーヴェルが姿を現した。黒髪と黒髭を湛えた堂々たる体躯に、洗練された黒いコートを纏い、鋭い眼差しで一行を見つめる。


「よくぞ参られた、我がセレスティア・ノーヴァの英雄たちよ」

 

彼の低く重い声が室内に響く。その威厳ある姿と言葉に、一瞬で場が引き締まった。


「あなたたちが昨日の暴走を鎮めてくれたおかげで、この都市は救われた。本当に感謝している」

 

その言葉を聞いて、マコトたちは軽く頭を下げた。


しかし、カーヴェルは微笑を浮かべると――

口調を一変させた。

 

「……なーんて、こんな堅苦しいのは正直アタシの性に合わないのよねぇ。こんな形式張った挨拶、あーやだやだ」

 

彼は肩を竦めながら軽やかな仕草で歩み寄る。


「うーん、あなたたち本当に素敵ね。栗色の髪の可愛いお嬢さんに聡明そうなエルフのお嬢さん……特にそちらのお兄さん……あらやだ、近くで見るとさらにかっこいいじゃない!お肌もいい艶してるわね、どうやってケアしてるのかしら?」

 

突然のフレンドリーなおねぇの爆誕に……一瞬、場の空気が固まった。


「(……フィオナ、執政官って皆んなあんな感じなのか?)」

 

マコトが小声で呟くと、フィオナが小さく首を傾げた。


「(い、いえそういう訳では無い……と、言い切りたいところですが……何分私も初めての事なので断定はできません。悪い人では無いと思うけれど……)」

 

アイリスも小声で同意する。

 

「(そうだね……何か掴みどころがない感じがする。最初とはまるで別人みたい……)」


「三人とも、聞こえてるわよ。アタシを差し置いてヒソヒソ話なんかしちゃって……」

 

カーヴェルが冗談めかした笑顔を浮かべながら言うと、マコトたちはハッとして口を閉ざした。


「ふふっ、大丈夫よ。変な奴って思われるのは慣れてるし……初めての人は皆んな戸惑っちゃうから、気にしないで」


「変だなんて……そんな事はないですよ。印象がいきなり180度変わったのにちょっと面食らってしまっただけで、個性的で俺は良いと思います!」


フィオナやアイリスはこの世界に滅多に居ないタイプとの邂逅で驚いて若干引いていたが、元の世界でテレビ番組や雑誌でおねぇ系の芸能人が大勢活躍しているのを見ていたマコトには、そこまで大きな衝撃ではなかったのである。


「あら!嬉しい事言ってくれるじゃな〜い……そんな事言われると、ちょっと好きになっちゃうわよ?」


冗談めかした口調と表情でカーヴェルはマコトへウインクを飛ばす。


「あ、あはは……ありがとうございます」


「さて、世間話はここまでにして……マコトさん、あなたたちが図書館で目撃した事、気づいた事を教えて貰えるかしら……アレだけの力を持った貴方達が只者じゃない事は分かってるのよ?」

 

カーヴェルは真剣な眼差しを向ける。軽妙な態度とは裏腹に、その目には鋭い知性が宿っていた。


マコトはこれまでの経緯を説明し、図書館で得た情報と暴走した古代の魔法具が魔王軍の技術と関連している可能性を話した。

 

「魔王軍の技術と古代の技術をさらに調査し、奴らに対抗するための装備を開発したいんです。その為にも……この都市の研究施設や資源を活用させていただけないでしょうか」


カーヴェルは少し考える素振りを見せた後、微笑みながら頷いた。

 

「――わかったわ。それに協力するのが、この都市を守るためでもあるものね。改めて、昨日の暴走事件を収めてくれてありがとう。本当に感謝しているわ。この都市の市民も、きっとあなたたちに感謝しているはずよ」


カーヴェルは深々と頭を下げると、執務机から装飾が施された認可証を取り出した。


「これを持っていきなさい。セレスティア・ノーヴ(この都市)で施設を使うための特別認可証よ。これがあれば、工房や研究所、図書館の施設も自由に使えるわ」


マコトは驚きつつもその認可証を受け取り、深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます。きっと魔王軍に対抗するための装備を開発してみせます」


カーヴェルは微笑みながら頷いたが、最後にマコトへ視線を向けると、冗談めかした笑みを浮かべた。


「何かあったら真っ先に私を頼ってちょうだいね……特にマコトさん。ふふっ♡」


その言葉に、アイリスが目を細めてじっとカーヴェルを見つめた。

 

「……執政官様?ちょっとマコトに対してフレンドリーすぎないですか……」

 

「あらやだ、ごめんなさいね。私って人懐っこいのが取り柄なのよ。それに――普段はムサいおじさん達相手に仕事してるから、偶にこんな素敵な人たちが来ちゃったら、つい舞い上がっちゃうわよね♡」


最後にお茶目な笑みを浮かべながら、カーヴェルは軽くウィンクをした。


認可証を手にしたマコトたちは、セレスティア・ノーヴァの中央工業区に向かい、工房として使える施設を確保した。

その施設は、高い天井と広い作業スペースを備えた大規模な作業場で、最新の魔法鍛冶設備が整っていた。


「ここなら、大型の装備でも余裕を持って製作できるな」

 

マコトが感慨深げに呟きながら、荷物を降ろし始める。


アイリスは設計図を広げながら、シルバレオ用の新たな換装用追加兵装の仕様を確認していた。

 

「設計そのものはもう完成してるけど、課題は山積みだね。特に強度と冷却……このままじゃ実戦で使い物にならないよ」


「確かにな……遠距離特化で重装甲にした分、その重量を支えながら、しかも高速で長時間稼働させるには冷却性能と関節部の強度を大幅に向上させないとダメだ」

 

マコトが頷きながら、既存の素材の限界を考えていた。


その時、彼はふと過去の記憶を思い出した。

 

「……そうだ。以前、村にいる時に精霊の力で土中から取り出した金属の中に、どうしても加工できなかったものがあったよな」


「精霊の力で掘り起こした金属?そんなのものがあったの?」

 

フィオナが興味深げに顔を上げる。


「そうなんだ。あの時は全然加工できなくて放置してたけど、ここなら手掛かりが見つかるかもしれない」

 

マコトの言葉に、フィオナはすぐに資料をまとめ、彼らはその金属を調べるべく研究所に向かうことにした。


研究所に到着したマコトたちは、持ち込んだ金属片を研究員に見せた。

それを見た瞬間、研究所の所長――白髪混じりの小柄な男性が驚きの声を上げた。


「まさか……これは輝霊鋼石(アークナイト)か!」

 

その名前に一行は耳を傾ける。


「輝霊鋼石?」

 

アイリスが疑問を口にすると、所長は興奮気味に語り始めた。

 

「輝霊鋼石は、かつて古代文明でも使用されていた希少金属だよ。今では新たに産出されることもない、最早幻となった特殊な金属なんだよ!」


「特殊な金属……一体どんな特性があるんですか?」

 

フィオナが質問すると、彼は手元の資料を広げながら説明を続けた。


「まず、非常に軽量でありながら、硬度と耐久性は現在のどの金属よりも高い。そして、冷気や魔力を効率よく通す性質があり、魔法具や武器の素材として最適なんだよ!それがこれ程の量があるとは、その価値は計り知れん……」


驚きと感激が入り混じった表情でアークナイトを見つめる所長、目尻には涙すら浮かんでいる。


「それなら……この金属を使えば、新型装備の課題も解決できるかもしれない」


マコトたちが新装備の目処が立った事に安堵していると、所長が興奮しながら顔を近づけてきた。


「き、君たち!これをほんの少しでも良いから分けてくれないか?金なら幾らでも都合する!これ(アークナイト)が有れば既存の魔法具ですら飛躍的に性能が向上するのだよ――!」


「いきなり押しかけて鑑定して頂いたし。ほんの少しと言わず、良ければこれはお礼に差し上げますよ」


「お、おぉ……貴方は、貴方は神か聖人か……」


「まだ幾らでもありますから、気にしないでください」


マコトが収納袋を逆さにすると、中からは輝霊鋼石が山の様に転がり落ちた。


「ま、まさか……これは夢か?幻か?輝霊鋼石がこんなに!?これならばワシはこの国一番…いや世界一の研究者になれ――!?」


驚愕の表情を浮かべながら所長は気を失ってしまった。

衝撃が強すぎたのだろう。


「マコト……この人、大丈夫かな……?」

 

「うーん、なら驚かせたお詫びにもう幾つか輝霊鋼石を置いておこう」


輝霊鋼石の塊を幾つも無造作に机の上に積み上げる。


「これで良し。帰って新型装備の開発を始めるぞ!」


意気揚々と研究所を後にするマコト達。

――その後、気がついた所長が机の上に積み上がった輝霊鋼石を見て再び昏倒した事は知るよしも無かった。

癖のある執政官、いかがだったでしょうか?

軽妙でフレンドリーな態度とは裏腹に、高い知性と政治力を兼ね備えた実力者です。ちなみに執政官は首長ですのでセレスティア・ノーヴァで一番偉い方なのです。

各都市国家の執政官たちで構成された評議会がアルヴェスタ連邦を運営しています。

そして思わぬ形で最高の材料を手にしたマコト達は漸く新型装備の開発に本格的に取り掛かります。

更に強さを増したマコト達を待ち受ける次なる敵とは…

次回にご期待ください!


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