第39話 大図書館
陽光が白い大理石の建物を照らし、連邦の中心都市「セレスティア・ノーヴァ」はその威容を誇示していた。美しさと荘厳さを併せ持った都市の中央にはそ巨大な建築物――大図書館。その存在感は圧倒的だった。
「…すごいな。これが人類の学術の中心なのか――」
マコトは馬車を降り、眼前に広がる景色に息を呑んだ。
「確かにすごいね、圧倒されそうだよ……大図書館って古今東西のあらゆる知識、膨大な記録が眠っているんだって……」
アイリスも口をあんぐり開けながら、感嘆の声を上げた。
「私はここに来るのをずっと楽しみにしていたの。世界中の学者にとっては憧れの場所だから……それに古代国家や魔王軍に関する記録が見つかる可能性も十分あると思うわ。さっそく調査を始めたいところね」
「まあ、そう焦らずに。まずは腹ごしらえだな、それから街の様子を見ながら情報を集めよう」
マコトは知識欲に逸るフィオナを促し、三人で大通りを歩き始めた。
昼食を取るために立ち寄った酒場は、活気に溢れ、鼻腔をくすぐる香りが漂っていた。マコトたちは店員に案内され奥のテーブル席に座った。
「いい雰囲気のお店だけど、なんだか周りの人達が妙にこっちを見てる気がする……」
アイリスが周囲を警戒するように呟く。
「この辺りでは見かけない顔だからじゃないですか? この都市は外部から訪れる人は多くないと聞いていますし」
フィオナがメニューを手にしたまま答えた。
すると、隣の席に座っていた初老の男性が、聞き耳を立てていたらしく話しかけてきた。
「新顔かい? あんたら、この街に来たばかりだな」
「ええ、そうですが――」
マコトが答えると男性は眉をひそめ、低い声で言った。
「一つ忠告しておく。この街じゃ、あまり目立つ行動はしない方がいい」
「え……それはどういう事ですか?」
フィオナが尋ねると、男性は周囲を見渡してから声を潜めた。
「最近、連邦全体が不穏な空気に包まれてるんだ。数年前に起きた軍事作戦の失敗から、内部に魔王軍の間者がいるんじゃないかって話がずっと囁かれてな。その噂を広めたのが誰かは分からんが、今じゃお偉いさん方が疑心暗鬼に陥ってる」
「間者が……いる?」
アイリスが驚いたように呟く。
「そうだ…最近も、連邦の機密が漏れたらしい……おかげで新顔は特に疑われやすいんだ」
男性は警戒するように辺りを見回した。
「気をつけろよ。何もしていなくても、疑われるだけで厄介ごとに巻き込まれるからな」
情報収集を済ませ腹を満たしたマコトたちは、連邦の象徴的な施設である大図書館へと足を踏み入れた。
天井まで続く高い書架、漂う魔法の光球、浮遊して移動する書物――全てがこの場所の神秘性を物語っている。
「すごい……壮観ですね」
フィオナは目を輝かせながら歩き回る。
「これなら、俺たちが求める情報も見つかるかもな」
マコトは周囲を見渡しながら頷いた。
フィオナは古代国家に関する記録が集められている一角に向かい、調査を始めた。そして数時間後、彼女は驚きの表情で一冊の書物を手に取った。
「ここを見て……古代国家に関する記述ではないのだけど、魔王軍のある技術について触れられているの」
そう言うと彼女はあるページの記述を指差した。
「どんな内容なんだ……?」
マコトが訊くと、フィオナは書物を開きながら読み上げた。
「『虚晶石――魔王軍の使用する未解明の高度な技術の産物。大気中の魔力を吸収し、貯蔵する能力を持つ。半永久的に動力源として使用可能』……」
「半永久的な動力源……ん?この挿絵は……あの謎の機体に使われていた結晶とそっくりじゃないか!」
マコトが真剣な表情で尋ねる。
「ええ……同一の物である可能性が高いと思うわ。もしあの機体が魔王軍の兵器だとすれば……今後の人類と魔王軍の戦いの様相が大きく変わるかもしれない……」
フィオナの声には緊張が滲んでいた。
同時刻。
街の片隅で数人の男たちが暗い路地裏に身を潜め密談を行っていた。
「次の計画の準備は整ったか?」
「ああ、連邦の防衛網は把握済みだ。混乱が広がる中で行動を起こす……」
「それとこれはあのお方からの伝言だ。今日この都市に訪れた三人組の冒険者……どうやら我々の計画にとって厄介な存在のようだ」
「……たかが三人組の冒険者だろう?大陸10強の猛者でもあるまいし、心配し過ぎだ。ここは予定通りに動くべきだろう――」
男たちは視線を交わし合い、それぞれ散り散りに姿を消した。
その頃調査を終えたマコトたちは宿に戻り、収集した情報を整理していた。
「虚晶石の情報を得られたのは収穫ですが……さらなる調査が必要ですね」
フィオナが記録用のノートを閉じながら言った。
「今のところ、分かるのは魔王軍が本当に危険な技術を持っているということだな」
マコトは険しい表情で呟く。
「それだけじゃないよ。この街で噂されている間者の事も気にして動かないと、疑われたら私たちが捕まっちゃうかも――」
アイリスが真剣な顔で言う。
「……警戒を怠らずに進めよう。俺たちが得た情報が鍵になるかもしれない」
マコトの言葉を最後に、一行は次の行動に備えて準備を始めた。
学術と魔法の国アルヴェスタ連邦、その中でも中心となるセレスティア・ノーヴァに到着した一行。
街には不穏な噂が広がる中、それを尻目に暗躍する怪しい男たち…
迫り来る危機…果たして彼らの運命は!?
次回にご期待ください!
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