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第37話 ファルガスト


人間達の国々から遥か彼方の地。

虚晶将(ヴォイドロード)ゼファルドの研究施設は、闇と魔力に包まれた不気味な空間だった。床には無数の魔法陣が刻まれ、天井には青白い結晶が取り付けられ、淡い光を放っている。その結晶こそ、魔王から授けられた虚晶石(ヴォイドクリスタル)だ。


施設内には異形の魔物が整然と並んでいる。

部分的に虚晶石を埋め込まれた改造された魔物たち――ゼファルドの手によって生み出された生物兵器だった。


ゼファルドはその中心に立ち、手元の魔法具を操作している。魔法具には、エルドリム大氷原での戦闘記録が映し出されていた。モニターに映るのはマコトたちと、彼が送り込んだ試作品「ファルガスト」の戦闘だ。


「……面白い。だがまだ甘いな」

 

彼は冷たい笑みを浮かべながら呟いた。


ゼファルドが持つ力の根幹――それは虚晶石を核にした技術だった。魔王から授かったこの技術は、ただの魔石を遥かに凌ぐ性質を持つ。


虚晶石は、膨大な魔力を蓄えるだけでなく、周囲の大気中から魔力を常に吸収し、半永久的に使用可能なエネルギー源だった。この力を利用し、ゼファルドは多くの改造魔物や兵器を生み出し、魔王軍の軍事力を大いに支えていた。


「王から授けられたこの虚晶石。無尽蔵の魔力を持ちながらも、その真価はまだ未知数だ……」

 

ゼファルドは目の前の虚晶石をじっと見つめる。


彼の脳裏には、魔王から授けられた言葉が蘇る。

 

「ゼファルドよ……お前は魔王軍の中でも特に優れた知能と技術を持っている……だが足りない物がある。それは……創造力だ――」

 

ゼファルドは魔王の言葉を深く理解していた。魔王は部下に力を授ける一方で、その活用法は各人に任せていた。そしてゼファルドはその力を人類を滅ぼす力として究極まで活用することこそが使命だと信じていた。


「王よ……あなたが与えて下さった可能性を、私は証明してみせる。虚晶石がもたらす力が、必ずや人類に裁きの鉄槌を下すでしょう」

 

彼の声には決意とが滲んでいた。


ゼファルドは戦闘記録を切り替え、試作品「ファルガスト」のデータを確認する。


ファルガストは培養された魔物の肉体をベースとし、虚晶石を動力源としつつ、試作の蒸気機関を組み合わせたハイブリッド型の兵器だった。

虚晶石は膨大な魔力を半永久的に供給する力を持つ一方、蒸気機関はその魔力を補助的に物理動力へと変換する役割を担っていた


「この蒸気機関自体はまだ粗雑だが……虚晶石の力を効率よく引き出す可能性を秘めている」

 

ゼファルドはファルガストの構造モデルを確認しながら呟く。

ファルガストの試作蒸気機関は、魔力によって高温高圧の蒸気を発生させ、四肢や尾の駆動を補助していた。しかし、その構造はまだ未完成で、稼働中に無駄なエネルギーが発生しやすい欠点も抱えていた。


また、遠距離攻撃用の魔法具を複数搭載しており、射撃による牽制能力も備えていた。しかし、それらの武装も蒸気機関による魔力の伝達効率が悪いため、威力や精度に課題が残っている。


「これはあくまで試作品だ。完成には程遠い。だが……奴らの力を測るには十分だろう」


ゼファルドはモニター越しにファルガストを送り込み、エルドリム大氷原での試験を開始した。


「……蒸気機関(このちから)そのものは、あの男の技術から大いに学ぶ必要がある。現段階でどれほど通用するか……」

 

ゼファルドは投影魔法具を起動し、ファルガストの()()()()映像の検証を始めた。


アルカディア・エルドリムの遺跡での戦闘――ファルガストは序盤、優れた機動性と魔法具による遠距離攻撃でシルバレオを翻弄した。特に蒸気機関の駆動による一瞬の加速は、シルバレオを驚かせる動きを見せた。


「ほう……これは、予想以上に動くではないか」

 

ゼファルドは映像を見つめながら小さく笑った。


しかし、戦闘が進むにつれ、試作型の蒸気機関の粗雑な構造が露呈し始める。過熱した蒸気が無駄に放出され、動きが鈍る瞬間が生じた。その隙をマコトが見逃すはずもなく、ヴォルテックスホーンによる冷気を纏った一撃が放たれる。


冷気の刃がファルガストを切り裂いた瞬間、虚晶石から紫の光が漏れ出し、ファルガストは動きを完全に停止する。


「……やはり未完成か」

 

ゼファルドは冷静に敗因を分析する。


「虚晶石の力は申し分ない。だが、蒸気機関の粗雑さが全体の性能を足を引っ張った。あの男の高度な技術を組み込んだ機体と渡り合うには、さらなる改良が必要だ」

 

彼はそう呟き、次なる構想を練り始めた。


ゼファルドは設計図を広げ、部下たちに命じた。

 

「ファルガストはあくまで序章だ……この戦闘で得られたデータを基に、虚晶石と蒸気機関の動力効率を更に高める。そして……奴の使う精霊の力そのものを封じる手段も講じねばならない」


彼は魔王の啓示を心の片隅に抱きながら、それを超える技術を生み出すことを目指していた。

 

「王よ……貴方が示した道を、私は歩む。虚晶技術の真価をこの手で証明し、この世界を貴方様の望むままに作り替えてみせましょう」


ゼファルドの声が施設内に響く。その背後では、次なる試作品の製作が始まろうとしていた――

マコト達を襲った謎の機体の正体は、魔王軍幹部、虚晶将ゼファルドの作り上げた魔物と魔法と蒸気機関のハイブリッド……謂わばサイボーグとも言うべき恐るべき兵器だった。

次章では遂に虚晶将が本格的に動き始めます。

今までの敵とは異なる、ロボット技術を取り入れた新たな敵の力に果たしてマコト達はどう立ち向かうのか……

次回にご期待ください!


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