第35話 凍土に芽吹く想い
戦闘が終わり、一行は敵機の残骸を調査していた。フィオナが壊れた部品の一つを拾い上げ、慎重に観察する。
「これは……ただの魔法具ではないわね……しかも見たことのない未知の技術……」
彼女は部品に微かに残る魔力の流れを感じ取りながら呟く。
「確かに、これまで見た様々な技術とも一線を画している。だけど……どこかこの遺跡と似た雰囲気を感じるな」
マコトが周囲の壁画と残骸を交互に見比べる。
「これを見て――部品の表面に細かい魔法陣が刻まれてるわ。文字が少し掠れているけど、アルカディアの古代文字に酷似しているわ」
フィオナが指差す部品の表面には、わずかに残る魔法陣のような刻印があり、それが遺跡で見た壁画に描かれていた技術と共通していることに気付く。
「古代アルカディアの技術を再現した技術なのか……いや、だがこれは……改良されている?」
マコトが低く呟き、考え込む。
その時――フィオナが指差していた部品が突然蒸気を吹き出し、振動を始めた。
「フィオナ、危ない!」
マコトが叫ぶが、部品は暴走し、刃のような形をした破片がフィオナに襲いかかる。
「っ……!」
咄嗟に身を引こうとするフィオナだが、間に合わない。その瞬間、アイリスがスラスターを全開にして彼女の前に飛び込み、敵の動きを遮る。
アイリスが暴風槌を振るい、暴走する破片を粉々に打ち砕き残骸はその動きを永遠に止めた。
「フィオナ、大丈夫?」
武器を仕舞うと、アイリスは静かに手を差し伸べた。
フィオナは差し出された手を取ると、少しぎこちなく立ち上がる。その目はアイリスをじっと見つめている。
「その……あなたのおかげで助かりました……本当にありがとう」
アイリスは照れ隠しのように笑いながら、軽く肩を竦めた。
「今じゃ戦う事も私の仕事だからね。でも気をつけて。こういう遺跡は、まだ何が起きるか分からないから」
その笑顔を見たフィオナの胸には、これまで感じたことのない微かなときめきが広がった。
(……頼れるだけじゃない。勇敢で、何よりも優しく、美しい……)
彼女は心の中でそう思いながら、少しだけ顔を赤らめた。
その後一行は遺跡内を再び慎重に調査し始めた。
壁画や立体映像、動力炉らしき装置の仕掛けなど、目につくものをフィオナが次々に記録していく。
「この壁画を見て。この部分、ただの装飾じゃないわ。おをらくは……操作盤のような物ね」
フィオナが指差したのは、壁画の一部に刻まれた複雑な模様だった。それは精霊のシンボルと連動するように配置されている。
「確かに、魔法陣みたいだな。これも精霊の力を制御する仕組みかもしれない」
マコトが頷きながら壁画を慎重に見つめる。
「ええ。この文明がどれだけ高度だったかが分かるわね。魔法と精霊の力を完全に融合させて、これ程高度な仕組みを作り上げていたなんて……」
フィオナは記録用のノートに手早く詳細を書き込む。
彼女は夢中になりながら、スケッチを進める。
「でも、あの機体……遺跡の仕掛け呼び寄せたのか、それとも何者かの罠なのか……どちらにせよ危険な場所だな」
マコトは警戒を怠らず、シルバレオの機体を待機させたまま見張りを続けている。
「それにしても、あの機体……マコトのロボットに本当に似てたよね。蒸気機関なんて他で見た事ないのに……」
アイリスが壁画に刻まれた模様を見つめながら呟く。
「この遺跡と関係している可能性は高いわね……でも、今の私たちじゃ全てを解明するのは難しそうね」
フィオナが頷きながら答えた。
「それにしても、さっきは本当に危なかったわ……」
フィオナが調査の合間にアイリスに話しかけた。
「あなたがいなかったら、私は……」
「気にしないで。それが私の仕事だからね」
アイリスは軽く笑いながら答える
「でも……すごいわ、私のことを守るために迷わず動いてくれた。とても……かっこよかった」
フィオナは少し照れながら言葉を続けた。
「かっこいい? わ、私が?ねぇマコト、聞いた!?」
アイリスは少し驚いたように目を丸くし、微笑んだ。
「え、ええ! だって……本当に頼れるんだもの」
フィオナは顔を赤らめながら視線を逸らした。その様子に気付いたマコトは軽く咳払いをして話題を変えた。
「さて、そろそろここを後にしよう。記録も十分に取れたし、次のエリアへ進む準備をした方がいい」
全ての調査を終えた頃には、外の天候も少しずつ落ち着きを取り戻していた。一行は遺跡を後にするための準備を整え、入り口へと向かう。
「この遺跡で得られた情報は大きいけど、まだ全貌が見えないわね」
フィオナが記録用のノートを閉じながら言う。
「それでも十分な手掛かりは得られたさ。後は安全な場所で整理しよう」
マコトがシルバレオを収納し、アークティカに乗り込む準備を進める。そして最後に遺跡を振り返りながら、ふと呟いた。
「なんだか……この場所にはまだ何か隠されている気がする……だけど今は進むしかない」
遺跡の大きな扉が音を立てて閉まり、外界の冷たい風が一行を迎え入れた。一行は再びアークティカに乗り込み、新たな目的地へと進み始める。
マコトのロボットの仕組みと酷似した謎の機体の襲撃、
その仕組みや意匠はアルカディア・エルドリムとの繋がりを匂わせるが果たして…
一体謎の機体を作った者の正体とは!?
次回にご期待ください!
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