第33話 真実と覚悟
遺跡の中央で輝きを放つ氷嵐の守護神。その巨大な存在は、まるで人々の愚行を見守り続けてきた証人のように佇んでいた。
その瞳が一行をじっと見据え、静かに言葉を放つ。
「我はかつて氷嵐の守護神と呼ばれた者……遥か古の時代、アルカディア・エルドリムの民と共に在った。改めて尋ねよう…汝らは……何ゆえこの地に足を踏み入れた……?」
マコトが一歩前に出て、静かに応えた。
「俺たちはあなたの力を封じ込め、利用するために来たわけじゃない。ただ……共に歩みたいんだ」
精霊はその言葉に目を細め、冷気をさらに強めた。
「共に歩む……愚かな言葉だ。アルカディアの民達も嘗てそう語った。だが、結果はこの通り、栄華を極めた国が瞬く間に凍てついた大地と化したのだ」
フィオナの目が壁画に描かれた巨大な魔法装置に向けられる。
「この国は精霊の力をさらに統制し制御するためにこの装置を構築した。でも、結果として制御が失敗し、精霊の力が暴走してしまったのね……」
「我は、力を貸すつもりだった。精霊とヒトが共に未来を築くために……だが結果的には人間の欲と過信が、この惨状を招いた……」
「確かにアルカディアの人々は、あなたの力を制御しようとして失敗しました……その過ちを繰り返さないために、私たちは真実を知りに来たんです」
「真実を知ることで何が変わる? 人間の欲は、いつの世も常に破滅を齎す……」
精霊の声はどこか悲しげだった。
周囲の壁画には、精霊の力を無理に引き出そうとする人間たちの姿が鮮明に描かれていた。装置が制御不能に陥り、都市全体が凍りつく様子が克明に記されている。
マコトは精霊の言葉を聞きながら、その瞳を見据えた。
「確かに俺たち人間は欲深い……けど、それが全てじゃないんです。アルカディアが滅んだのは、力を誤って使ったからだ。俺たちは決して同じ過ちを繰り返さない」
「……汝に、その覚悟があるというのか?」
精霊が問いかけると、マコトは強く頷いた。
「俺はこの世界で唯一の元素精霊召喚術士だ。これまで多くの精霊と出会い、助けられてきた。そしてこれからはあなたとも共に歩みたい。世界中の人々がその力を必要としているんだ」
マコトの偽りの無い言葉に、氷嵐の守護神は一瞬口を噤む。そしてゆっくりと答えを返す。
「マコト……汝が真に我と共に歩む覚悟があるというならば、それを証明せよ――」
氷嵐の守護神の言葉が遺跡全体に響き渡ると、青白い冷気がマコトを包み込み始めた。
「これは……!?」
フィオナが驚いて叫ぶが、その声はマコトには届かない。彼の視界は徐々に白く霞み、全ての音が遠のいていった。
「マコト――!!」
アイリスが手を伸ばそうとするが、氷の結界が立ちはだかり、彼を守るように隔てていた。
「大丈夫……信じて待ちましょう」
フィオナがアイリスを制し、精霊の瞳を静かに見つめた。
「これは精霊が彼の覚悟を試すための儀式。手出しはできないわ……」
目を開けると、マコトは全く別の空間に立っていた。そこは白銀の世界――足元には凍りついた大地が広がり、空には極光が揺らめいている。氷柱が無数にそびえ立ち、その中には沢山の人々が閉じ込められていた。
「ここは……?」
マコトが呟くと、氷嵐の守護神の声が響く。
「ここは過去に試練を受け、力に呑まれた者たちが眠る場所。汝もまた、そうなるやもしれん……」
突然、周囲の氷柱がきしむ音を立て始めた。中に閉じ込められた人々が、マコトに向かって悲痛な叫びを上げる。
「なぜ……こんなことに……!」
「逃げられない……永遠にここで凍りつくんだ……!」
マコトはその声に耳を塞ぎたくなる衝動を抑えながら、一歩ずつ前に進んだ。
「汝の心にも、欲望が潜んでいる。力を得て何を成そうとする?」
氷嵐の守護神の声が再び響く。
その瞬間、マコトの目の前に幻影が現れる。そこには、自分が力を乱用し、世界に破壊をもたらす姿が映し出されていた。国々が崩壊し、仲間たちが苦しみ喘ぐ姿が続く。
「……こんな未来には絶対にしない――!」
マコトが拳を握りしめ、強い声で叫ぶ。
幻影が消えたかと思うと、次は氷柱が砕け散り、巨大な氷の魔物が姿を現した。
「汝の恐怖を形にした存在……これを乗り越えられるか?」
マコトは一歩も引かずに、魔物の前に立ちはだかった。
「力は恐ろしいものだ……けど、それを正しく使えば、皆んなを守る力にもなる。それを俺は証明してみせる!」
魔物が吠え、襲いかかってくる。
しかしマコトは心の中に宿る精霊たちの存在を思い出し、自らを奮い立たせた。
「俺にはアイリス、エルナ、フィオナ、村の人達や基地の人達、技術者達……色んな仲間が、友達がいる。そして、この世界に来て独りぼっちだった俺とずっと共にいてくれる精霊たち……!」
マコトの胸に確固たる意志が宿ると、氷の魔物は音を立てて砕け散った。
静寂が訪れる中、氷嵐の守護神の声が再び響く。
「汝の覚悟、確かに見届けた……その心に醜悪な欲望の影は無く、力を正しく使う意志があることを認めよう」
精霊が手をかざすと、青白い光がマコトの手元に集まり、冷気を纏った結晶となる。
「この力を無駄にすることなく、共に歩む事を願う――」
心地よい爽やかな北風の様な声が優しく響き渡る。
やがて意識を取り戻したマコトが目を開けると、フィオナとアイリスが駆け寄ってきた。
「マコト……本当に大丈夫なの?」
アイリスが心配そうに尋ねる。
「……ああ。俺は力に呑まれずに済んだ。それに氷嵐の守護神はこの力を託してくれたよ」
マコトが手の中の結晶を見せると、フィオナが感嘆の声を漏らした。
「これは……精霊との契約の証ね。マコト……あなた、本当に凄いわ」
フィオナが安堵の笑みを浮かべる。
「……だけど、これで終わりじゃない。この力をどう使うかが重要だ」
マコトは決意を込めて呟いた。
少し遅れましたが、33話いかがでしたでしょうか?
アルカディア・エルドリムの滅亡の真実、恐ろしい力を持つ精霊の真意。
いつの世も最も恐ろしいのは人間の欲望なのかもしれません。
さあこれで一件落着…とはいかないんです。
新たな力を手に入れたマコト達を急襲する謎の影…
次回にご期待ください!
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