第32話 ドラゴンスレイヤー
「シルバレオ、行くぞ――!」
マコトの叫びと共に、シルバレオがヴォルティックスホーンを正面に構え、蒸気を吹き上げながら地を蹴った。
その巨体が低い姿勢で加速し、目の前の極光竜へ向けて一直線に突進を開始する。
極光竜は咆哮を上げ、冷気を纏いながら巨体を持ち上げた。その瞳が鋭い光を放ち、敵意を露わにする。
「マコト、正面突破は危険よ!」
フィオナが警告を発するが、マコトは迷わず操縦桿を押し込み更に速度を増す。
「分かってる! でも、ヴォルテックスホーンで正面から奴の竜核を狙うしかない!」
極光竜は態勢崩しながらもその長い首を捻り口を大きく開き、冷気と光が凝縮された極大ブレスを放つ。
その一撃が直撃したかと思えたが――
マコトは即座にシルバレオを横へ滑らせて回避する。
ブレスは遺跡の床を直撃し、巨大なクレーターと氷塊が辺り一面に広がる。
だが一度暴発した状態で無理にブレスを撃った反動なのか、極光竜の下顎から喉に掛けて大きな損傷を負っていた。
「よし、今だ! ブースター全開――!!」
マコトが叫ぶと、シルバレオの背部から蒸気が一気に噴き出し、その巨体がさらに加速する。青白い光を纏ったヴォルティックスホーンが冷気を切り裂きながら進んでいく。
「マコト、一人じゃ無理よ! 私も援護する!」
アイリスがスラスターを全開にして空中から極光竜の周囲を飛び回る。ハンマーを振り下ろし、極光竜の翼の付け根を正確に叩く。
極光竜が翼を広げて大きく振り回し、アイリスを弾き飛ばそうとするが、彼女はスラスターで一気に退避しながら隙を作り出す。
「ほら、こっちを見なさい! 貴方の相手は私よ!」
アイリスの挑発に極光竜が反応し、その頭を動かす。
「隙が出来た……今だ――!!」
マコトが操縦桿を強く押し込み、シルバレオが極光竜の胸部に突進する。その瞬間、精霊の力が全身を包み込み、青白い光がヴォルティックスホーンの先端に集中した。
「これで終わらせる……いっけえぇぇぇぇっっ!!」
マコトの声と共に、ヴォルテックスホーンが極光竜の胸部に深々と突き刺さった。
巨大な衝角が分厚い氷の外殻切り裂き、極光竜の胸部コアに直撃する。エネルギーが爆発し、周囲に閃光が広がる。
極光竜は咆哮を上げ、全身が激しく震えた。その口から最後の力を振り絞って冷気のブレスを放ち、天井を貫く光の筋を作り出す。
しかし、その輝きはやがて消え去り、冷気の膜が一瞬で崩壊する。極光竜の氷の外殻が音を立てて割れ、残された骨格も次第に形を失っていく。
光の膜を形成していた全身の魔法具が粉々に砕け、遺跡の床に静かに散らばった。極光竜は元々そうであった様に、巨大な骸に戻っていた。
「やった……これで本当に倒せたんだな」
マコトが操縦席で大きく息をつく。
「これで……終わったんだよね?」
アイリスがハンマーを肩に担ぎながら、安堵の息をついた。
「極光竜は倒した、だけどこの遺跡の謎を解かないとな」
マコトが慎重な表情で周囲を見回す。
フィオナは既に装置の近くに移動しており、壁面に刻まれた古代文字を読み解き始めていた。
「この装置の正体は……『封印装置』だわ」
フィオナが装置を指差しながら呟く。装置の周囲には、精緻な魔法陣と共に古代文字がびっしりと刻まれていた。
「封印装置?」
アイリスがフィオナの横に立ち、その内容を読み取ろうとする。
「この装置は、精霊の力を制御するために作られたもの。でも、その制御が失敗して精霊の力が暴走し、国家全体を凍らせてしまった……これがアルカディア・エルドリム滅亡の真実よ」
フィオナの声には、明らかな苦悩が滲んでいた。
壁画には、精霊を利用して栄華を極めるアルカディアの姿と、精霊が暴走する光景が描かれていた。
「支配ではなく共存を目指していたはずなのに……欲に駆られて、精霊を無理に封じ込めた結果がこれよ……」
装置の中央部が光を帯び始め、低い振動音が遺跡全体に響き渡る。装置の中に囚われている存在が、反応を見せ始めていた。
「まさか……今でも中に封じ込められてるの?」
アイリスがハンマーを構え直しながら身構える。
フィオナは冷静に装置を観察し、慎重に分析を続ける。
「この中には特殊な精霊が封じられているわ。冷気を司る精霊……嘗てこの国で氷嵐の守護神と呼ばれていた存在……」
装置から発せられる光がさらに強まり、中から青白い冷気が溢れ出してきた。
「これが……アルカディアを滅ぼした未知の精霊……!」
フィオナが驚愕の表情で呟く。
遺跡中央の封印装置から溢れ出す青白い光がさらに強まり、冷気が空間全体を満たし始めた。その中に浮かび上がるのは、氷の彫刻のように美しい巨大な精霊だった。
「すごい……なんて美しいの……」
フィオナが震える声で呟く。精霊は瞳を輝かせ、一行を静かに見下ろしていた。
「強大な力を感じる、だけど……危険な存在とは思えない」
マコトが操縦席で冷静に精霊を見つめ、シルバレオのエネルギーを落とした。
「マコト、どうするの? 戦うの?」
アイリスは空中でホバリングしながら精霊の動きを警戒している。
「いや……こいつは敵じゃない」
マコトが操縦席から降り、シルバレオの影からゆっくりと歩き出す。その瞳には、精霊に対する畏敬と信頼が宿っていた。
「俺の名はマコト。この遺跡に眠る精霊に会う為に訪れた者だ」
マコトが穏やかな声で語りかけると、精霊の瞳がわずかに揺れ動いた。
遺跡全体に低い音が響き渡り、氷嵐の守護神がその巨大な姿を少しずつ地面に近づける。そして、氷の声のように低く、静かな言葉がマコトに届いた。
『精霊と共に歩む者……久遠の時を経て、再び我と共鳴出来る者が現れるとは……』
精霊の言葉はゆっくりと遺跡全体に響き渡り、一行を驚かせた。
試練を制しドラゴンスレイヤーとなったマコトたち。
そして一行の前に姿を現したのは、古代国家を国ごと凍らせ滅亡させた氷の精霊だった。
一夜にして繁栄を極めた国家を滅ぼした強大な力を前に主人公達はどう対峙するのか……
次回にご期待ください!
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