第31話 竜核を穿て
極光竜が天井近くで翼を広げ、咆哮を上げる。その声は空間全体を震わせ、一行の身体を芯から冷やすようだった。
「やばいよ……このプレッシャー、普通の魔物じゃない!」
アイリスが緊張の声を上げる。
極光竜が空中で一瞬静止したかと思うと、その巨体を急降下させ、シルバレオに向かって突進してきた。
「来るぞ! 集まってると危ない――!」
マコトは操縦桿を引き、逆にシルバレオを加速させて正面から突撃を仕掛ける。
極光竜は直前で軌道を変え、その鋭い爪でシルバレオを切り裂こうとする。しかし、シルバレオはその動きを見切り、前脚で敵の爪を受け流した。
金属と骨がぶつかる轟音――
二体の巨体が激しくぶつかり合い、周囲の床が崩れ、氷の破片が飛び散る。
「すごいパワーだ……スピードも半端じゃ無い!」
マコトが叫びながら再びシルバレオを後退させる。極光竜はその隙を狙い、尾を振り回して攻撃を加える。
強烈な一撃に周囲の床が勢いで砕けていく。
尾の一撃がシルバレオの装甲に直撃する寸前で、身を翻しながらの強烈な蒸気の噴射が間一髪で軌道を逸らした。
極光竜が冷気を纏いながら空を舞う中、アイリスはスラスターを全開にして高速で移動し、その注意を引きつけた。
「こっちを見なさい! 私だって速さじゃ負けないわよ!」
アイリスがハンマーを振りかぶり、極光竜の背後を狙う。
極光竜が振り向きざまに尾を振り回すが、アイリスはそれを読んで空中で急旋回。尾が空を切った瞬間、暴風槌を思い切り振り下ろして翼の付け根を叩く。
衝撃と共に極光竜の翼の骨が一瞬軋みながら外殻が砕け飛び散る。しかし、すぐに冷気の膜が再生し始めた。
「いいぞ、アイリス! そのまま隙を作ってくれ!」
その言葉を発すると同時にマコトは極光竜の側面に回り込む。
アイリスは再びスラスターで空中を疾走し、極光竜の頭部をかすめるように飛ぶことで、その視線を引きつけ続けた。
「さあいくわよ。もう、一発――!」
アイリスが翼の付け根に二撃目を加え、極光竜の体勢が大きく崩れながら高度を下げる。
その隙にシルバレオが突進を仕掛け、極光竜の胴体に爪を叩き込んだ。赤熱した爪が骨格を削り取るように切り裂く。魔法生命体といえど痛覚はあるのか、咆哮を挙げながらマコトとシルバレオを睨みつける。
「さすがに効いてるようだ……けど、こいつの回復速度が厄介だ――!」
マコトが叫ぶ中、極光竜が更なる咆哮を上げ、広範囲の冷気爆発を起こす。
アイリスは急いでスラスターで距離を取りながらも、冷気の渦で制御が不安定になり、体勢を崩す。
「うわわわっ?!……寒い寒い!翼が凍りついてるよ!?」
ギリギリで体勢を立て直し、アイリスはスラスターを再起動させた。そして今度は極光竜の足元を狙う。
「マコト! 大きな隙を作るから、あとはお願い――!」
「任せろ!けど無茶はするなよ!」
質量と速度を活かした一撃に極光竜の足が滑り、体勢を崩す。そこにシルバレオが追撃を仕掛ける形となる。
「よし、このまま押し切る――!」
マコトが叫び、さらに加速させて突撃を仕掛けた。
しかし、極光竜の骨格が冷気を纏いながら再び輝き始めた。すると砕けた部分がみるみる再生し、冷気の膜がさらに厚くなる。
「もう元に戻ってる!こいつ、不死身か――!?」
マコトが驚きの声を上げる。
その瞬間、極光竜が反撃に転じた。冷気を纏った尾を振り回し、シルバレオを弾き飛ばす。床に叩きつけられたシルバレオの装甲が軋む音を立てた。
「ぐっ――――!?」
操縦席に強烈な衝撃が伝わる、周囲からは火花が飛び散り警告音が鳴り響く。
「普通の攻撃じゃダメ……このままだと無駄に消耗するだけだよ!」
アイリスが息を切らしながら叫ぶ中、フィオナは冷静に周囲の壁画や古代文字を調べ続けていた。
「……分かったわ! 極光竜の圧倒的な力は全て竜核に依存してる! このまま攻撃を繰り返しても無意味よ!」
フィオナが壁に刻まれた文字を指差し、マコトたちに向かって声を張り上げた。
「核を破壊しない限り、いくら攻撃しても再生し続ける――胸部の分厚い外殻の奥にある核を破壊して!」
彼女の声にマコトとアイリスが反応する。
「胸部の核か……だけど動きながらあの攻撃を掻い潜って正確に狙うのは至難の業だぞ!」
マコトがシルバレオを起動させながら、次の作戦を練り始める。
極光竜は冷気を纏いながら再び空中へと飛び上がり、強力なブレスを準備し始めた。その胸部のコアがわずかに光を帯び、力を集中させている様子が見える。
「マコト! アイリス! ブレスを吐き出すには溜めがいるわ、狙うなら今しか無い……!」
フィオナが必死に状況を訴える。
「了解だ! アイリス、注意を引きつけろ! 俺が突っ込む――!!」
マコトが叫び、シルバレオを加速させた。
アイリスはスラスターを全開にして空中を疾走し、極光竜の注意を引きつける。ブレスの方向を変えさせるため、ブースターを最大加速させ暴風槌の能力を解放して頭部を目指し一直線に飛び掛かる。
「撃たせない……! くらえぇぇぇっ!」
アイリスの挑発に反応し、極光竜が咆哮を上げる。だがブレスを貯め硬直したその巨体は身動きが取れない。
そこに全力を込めたアイリスの疾風怒濤の一撃が頭部に叩き込まれた。
グオオオオッッッ――――!!!?
逃げ場も無くなったブレスのエネルギーが極光竜の口内で暴発し、敵は大きなダメージを負った。
高い再生力で損傷を回復していくが、傷が大きい分先程までよりも時間が掛かっている。
「凄いぞアイリス!俺たちもやるぞ、シルバレオ!!」
マコトが決意を込めて操縦桿を握り直す。
その思いに応えるようにシルバレオが咆哮をあげる。
「核を破壊するには、アレを使うしか無い!」
シルバレオの咆哮に合わせ、マコトは収納袋から秘密兵器を呼び出す。
「ヴォルテックスホーン――!!」
その言葉と共に、シルバレオの背部にある収納機構が低い音を立てて解放された。袋から引き出された装備が光を放ち、機構と一体化していく。それは銀獅子王に与えられた新たなる力だった。
「これがヴォルティックスホーン……全てを貫く獅子の牙だ!」
マコトが操縦桿を操作すると、背部に畳まれた装備が音を立てて展開され始めた。
フィン状のパーツが首元に沿う形で前方に向かって流れるように伸びていく。その後、槍の部分が勢いよくツノのように突き出しその姿を形成する。
その先端は稲妻のように鋭く、見る者を圧倒する。上部に張り出したフィンは空気を切り裂きながら突進の抵抗を最小限に抑えるために作られている。
「これで奴の核を狙い撃つ……行くぞ――!」
マコトの声と共に、シルバレオが低く身を構えた。
機体が戦闘中に換装するのはカッコいい!
この子はもっとこの先も活躍させたいなぁ。
さあ次回はいよいよ決着です。
ご期待ください!
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